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冬の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part6

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

冬の文字 「広」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

「冬の星々」の応募期間は1月31日をもって終了しました!
(part1~のリンクも文末にありますので、作品の未掲載などがありましたらお知らせください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

雑誌「星々」既刊ご購入▼


応募作(1月31日)

*投稿日時が新しいものから表示されます。
*サイトの一部に誤記載があったため、ハッシュタグの異なるものが含まれています。

1月31日

島風ひゅーが(サイトからの投稿)
この宇宙の広大さを思うとこうして二人で星空を見上げているのが奇跡だと思う。きっと私の体を構成する粒子の一部はビッグバンの始まる前は彼の粒子と一緒で…離ればなれになって138億年の旅をしてこうしてまた出会って一緒に星空を見てる。そう思うと切なくなって彼の手をぎゅっと握った。

豆吉(サイトからの投稿)
帰路。我が家の窓から光が漏れている。もう両親は帰っているようだ。子は親を選んで生まれてくる、なんてことを聞いたこともあるけど、この広い世界の、そのまた日本の、たった二人を選んだのかねぇ。ドア越しに二人の笑い声が聞こえる。そんな気も、しないでもないな。そっと笑い、ドアノブを回した。

らむね(サイトからの投稿)
ベッドに寝転び目を閉じる。暫くして教室に落っこちた。隣の席の子と目が合う。逸らすと今度は観覧車。窓の外は空白。代わりに街を描いてみたら、どこまでも広がり知らない世界ができていく。急に怖くなって目を開けた。今私の世界は六畳で十分。アラームが確かに鳴るまで、カーテンは開けないでおく。

憂杞 @MgAiYK
誓いの末に悪魔を孕んでしまった。堕胎を迫る祖国から逃げ続ける私を、夫として誑かした諸悪の根源は地獄で嗤っているだろう。それでも彼の手を取り初めて愛を知った過去は、たとえ不義であれ誤りとは思わない。なのに何処の人々も私の子の存在を否定する。私は逃避行の中で世界の広さと狭さを知った。

丸綿あむ @maruwata_amu
初めて夏の北海道旅行に行った感想は、とにかく広い。海が広がり、道路が広く伸び、広々とした牧場で歩く牛たち。
とにかく車を走らせるのが気持ちよくて……スピード違反した。
「広いからって飛ばす人、多いんですよね」
そう話す笑顔の警察官。
広い心で見逃してくれません?と聞いたが無理だった。

【第3期星々大賞受賞者】
のび。
@meganesense1
クリーニング店に父の背広を迎えに行く。ご迷惑をおかけしました、と謝ると店主は、気にしないでください、と微笑んだ。服が自らクリーニング店へ行くことは珍しいことではないようだ。パリッとして戻ってきた背広を助手席に乗せて、私は父のお墓へ車を走らせた。そっと触れた背広の左袖は暖かった。

祥寺真帆 @lily_aoi
そのときになったら必ず誰でも翼が生えますと教わった。「そのとき」がいつなのかわからないし、広げた翼は自分にしか見えないらしかった。大人になり忘れていた。言葉より先に手が伸びるほど守りたいものができた。ひるみそうな鏡の中の自分に強くうなずき、気づいた。血の滲む勇気の先に翼があった。

一途彩士(サイトからの投稿)
背広に身を包んだ彼を抱きしめる。「じゃあな」清々したとでも言いたげな声音にむっとして、下から彼の顔を覗き込む。「じゃあな…」彼は静かに泣いていた。なんだ、悲しいのはいっしょだね。こちらに足を踏み出した彼の体が私をすり抜けていく。ありがとう、最期のお別れをしてくれて。ばいばい。

カサハラケント(サイトからの投稿)
大きいのか…小さいのか…。はたまた、広いのか…狭いのか…。比較的“小さめ”な気もするけれど、“大きな”学生がよく利用している様子。SF小説ファンの僕としては、ここに停車する度に、異世界に足を踏み入れたような感覚で心が躍り始めるのだ。東急池上線、「大崎広小路」駅。異論は認めよう。

三刀月ユキ(サイトからの投稿)
ようやく国の端についた。この国は広すぎる。中央で最後の王が斃れた報せを運んできたが、遠かった…。村長を呼ぶと「おお!最初の王が座につかれたか」「?」私は空を見て驚愕した。いつのともしれぬ遥か過去の星座。そうか、130光年先の宇宙に到達したとしたら、そこは130億年前の世界なのだ。

祥寺真帆 @lily_aoi
「ずいぶん広い家ねえ」妻の声がリビングに響く。幸せを作っていくと決めたときだった。子供たちはすぐに大きくなった。「この家、手狭ね」片付け中の妻がつぶやいた。再び二人で旅行に行き始めたころ妻が入院した。一人、玄関前で立ちすくむ。思い出と幸せが埃のように舞う。一人で住むには広すぎる。

長尾たぐい @zzznap3
スカイダイビングが好きだ。落下。雲の中は白く、空気は物質である。加速。不安が身体から剥がれてゆく。加速。地球が熱烈に私を手招いているとすら思う。加速。いやそれは錯覚だ。パラシュートが開く。私はそれを畳んだ誰かの手つきを思う。徐々に近づく地上には、人の切り拓いた田畑が広がっている。

豆吉(サイトからの投稿)
日々、沢山のニュースが耳に入る。悲しみや困惑、不安や怒り、色んな情報があるけれど、電源を抜いて小さな画面からふと顔を上げる。そこには青い空、冷えた空気、鳥の囀り、愛する人々、時々転がる塵紙エトセトラ。小さくとも眩しい幸せが散らばる、宝石箱のような世界が目の前には広がっている。

祥寺真帆 @lily_aoi
大きな海だなあと思っていたら湖だった。とても静かで広い湖、と見ていたら水たまりだった。なんて大きな水たまり。しかもどうやら涙で出来ている。誰の涙だろうと見上げると私の涙だった。びっくりした、泣いたことなんてないのに。頬をそっと撫でる手のひらがあった。会ったことのない懐かしい手だ。

ささや @sasayakana11
冬は星がよく見える。暗い空、その先には広大な宇宙がある。「宇宙に果てはあるの?」「あります。138億光年前に宇宙は誕生しました。ですから、その先には何も――」窓の外を眺めている僕に、アンドロイドのコスモが淡々と答えを話し出した。が、次の瞬間しんと静かになった。彼にも、果てが来たのだ。

詩織(サイトからの投稿)
明日も明後日も、いつまでも雪景色のままでいい。雪の日作ってくれるホットはちみつレモンが好きです。一緒に飲むあっつあつのホットはちみつレモンです。はちみつの香りと甘さに満たされます。レモンの爽やかさが鼻腔を抜け部屋中に広がり、あなたの温かさに触れます。レモンじゃないとだめです。

丸綿あむ @maruwata_amu
広い家じゃなくていい。猫が飼えたら。
だからペット可の物件を選んだ。駅徒歩はあるけど仕方ない。
最推しのためならね!
今夜はお迎えがない。気配をころして探したら、人をダメにするソファに広がっていた。そっかこれは猫もダメに……いや可愛いから問題なし。
撮影の瞬間に、起きたりしなければ。

合津武幸(サイトからの投稿)
身体の隅々にまで神経を張り巡らせた僕は、心臓に感覚を向けてみた。
どく・・どく・・と動いているはずの心臓の音は何故か聞こえなかった。
そうか、いつの間にか僕はもう死んでたんだ。
だから、僕の目の前に広がるこの世界は、いつだって美しいんだ。
「僕は自由だ」

仁部中つぎ @nibenaka_tsugi
山行くよ。
そう言って友人は私を家から出した。頂上には雨雲が広がっていて、食べ始めた途端に降り出した。
「結構な雨だしさ、もう泣いたってよくない?」
あいつが好きだったウインナー入りおにぎりに、友人がよくお世話になっているシジミの味噌汁はいいコンビだ。最初で最後なのが惜しまれる。

古里早理(サイトからの投稿)
下校道の交差点には背広姿の祖父がいる。小学生の私をいつも待っていた。心配症だな。家はすぐそこなのに。照れくさくて文句ばかり言うけれど、本当は誇らしかった。しゃんとした祖父はかっこいい。学校の話をしながら、手を繋いで歩いていた。今でも遺影を見ては思う。やはり祖父には背広が似合う。

佐和桜介(サイトからの投稿)
助手席で単語帳をめくる娘にかける言葉を探していた。
広い駐車場に渋滞が出来ている。
「ここでいい」
そう言って娘はドアを開けた。
かける言葉を探している。ずっと。
「東京行くってなったら一緒に行くわ」
絞り出した答えに娘は
「きも」
そう言って少し笑った。

河音直歩(サイトからの投稿)
タクシーで祖父の葬式へ向かう。後部座席は父と姉と並んでぎゅうぎゅう、快晴の日射しが強い。父は見たことのない背広姿で「お義父さんが結婚祝いに作ってくれた。大事にしまっていて、今日、初めて着た」と苦しそうに笑う。埃ひとつ付くたび父は、姉も私も、手を伸ばして払う。何度も何度も払う。

@tatami_tatami_m
広口瓶の中に電子回路の基盤が入って、そこからうじゃうじゃと赤、黄、青、緑、白、黒、ピンク、紫色の線が出て、その線と線の隙間に回路から突き出たダイオードが3秒光って2秒消えまた3秒光って2秒消えを繰り返しているのが見え不意にというかその点滅が止んだところで瓶が爆発してビルが崩れた。

雷田万 @light_10_10000
目が覚めた僕は、窓の外を見た。ロケットは広大な宇宙を泳いでいる。けれど思い出せない。どうして僕はロケットに乗っているのだろう。
「目が覚めたか」
お父さんが僕の隣にやって来た。僕が疑問を投げかけると、お父さんは悲しそうに窓の外を指さした。
「新しいところに行くんだ」
地球は赤かった。

三刀月 ユキ(サイトからの投稿)
「思ったほど空は広くないぞ!」唐突な大声に振り向くと背に翼をつけた男がいた。「楽でもないしな。それでも飛びたいか」「はぁ?」「なら行け。お前の空の広さを測りに」男は翼を僕に渡し、サッと駆け去った。何だったんだ?まぁ「飛ぶ」には変わりないし、いいか。僕は屋上の縁に戻り、翼を背負う。

河音直歩(サイトからの投稿)
ぱさ、ぱさ、という音で目が覚めた。扉の隙間から、老眼鏡をかけた母が見える。食卓に並べた求人広告のチラシを手にとっては丹念に読んでいる。お金のことはいいから行きたい大学を目指しなさい。昼間、母は明るく言っていた。私は参考書と懐中電灯をそっと掴んで、やわらかく温かな布団に潜った。

オノエクプ(サイトからの投稿)
最後の風船ガムを取り出し、噛みながら顕微鏡を覗き込む。
ガムの膜が弾けるように、水素爆弾で人類も弾け飛んでしまった。ただでさえ減った人口は、食料の奪い合いで起こった戦争でさらに減り、荒れた土地だけがただ広くなった。
プレパラートの上で蠢くアメーバは、次の地球の主かもしれない。

川島そら(サイトからの投稿)
果てしなく広がる空はどこまで続いていくんだろう。知りたいよ。だから旅に出た。もっともっと楽しくいたいから、笑顔でいたいから今よりもはるか遠くを目指すんだ。でも一人だと不安だった。君がいてくれてよかった。まだ行こうよ。手を繋いで未来へ。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
幼い日、祖父の家で丸まった絨毯を見つけた私は、コロコロコロコロ広げてみたことがある。床いっぱいの絨毯に描かれているものを尋ねると「世界地図言うんや」と祖父は笑った。それからは家に行くたびに世界地図の上で足を泳がせながら祖父の話に聴き入った。世界が広がったあの日々はまだ覚えている。

河音直歩(サイトからの投稿)
窓にカーテンもない、ダンボールばかりの広い居間。照れくさそうにお茶をいれる娘の指は新婚の甘い高揚に震えている。四半世紀も前、私にもそんな日があった――若くてかわいいお嫁さん。ちいさな感傷が、娘の離れる寂しさより先にきた。両手に包んだカップの中で、みずみずしい新緑が揺れていた。

さく(サイトからの投稿)
ふと星の声を聞いてみたくなった。声が聞けるならどれでも良かった。広い広い空を彩るどれかが返事をしてくれればそれで。だけど、待てども返事は来なかった。嫌になりながら石を「えいやっ」と投げてみた。石はぐんっと伸びてこつんと当たった。そして。
僕はあなたに出会った。

雷田万 @light_10_10000
長期休みに海外留学に参加することとなった。現地の大学で1ヶ月間、外国語で授業を受ける。
初日、期待と緊張が綯い交ぜになった心持ちでいると、隣のクラスメイトが日本語で話しかけてきた。
「久しぶり!」
見覚えのない顔に思わず固まるが、相手が名乗りはっとした。
世界は広いが世間は狭い。

川島そら(サイトからの投稿)
この広い空はどこまでも続いている。遠く遠く離れている君のところまで続いている。隣にいるときは伝えられなかったけど、遠く離れてる今なら伝えられるかな。流れ星に乗せてこの想い伝えます。今夜、君に届け。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
気がつくとだだっ広い雪原にひとり、立っていた。足元から這い出てきたもぐらが手招きするので後を追うと、ぽっかり開けた地下に出た。もぐらが言う。「君はこの地下都市に棲んでもいいし、別の所を掘り進めてもいい。土を雪原にぶちまけてもいいよ」とりあえず手元にあったドリルの電源をオンにした。

todaka(サイトからの投稿)
広いベッドは最高だ! 明るい間取り、日の当たる庭。新居は快適そのものだ。庭でお茶を楽しんでいると、汚いでぶ猫が姿を見せた。みすぼらしい奴め。私は気前よく猫に餌をやった。しかし猫は図々しくも仔猫を産み家を占拠した。奪われたベッドを横目に、私は今日もソファで寝る。広いベッドは最高だ!

海街るり子(サイトからの投稿)
広瀬くんは背が高い。広瀬くんは足が速くて、数学が得意で、国語が少し苦手。冬生まれで、みずがめ座で、B型の男の子。おばあちゃんと暮らしていて、学校まで自転車で通っている。真面目だけれど、授業中たまに頭が揺れている。広瀬くんは優しい。私に花を手向けてくれた。広瀬くんは、私のものだ。

三刀月 ユキ(サイトからの投稿)
世界が滅びた後の電車に乗りたかった。毎日狭苦しい満員電車と人混み駅。舌打ちされ、野次られ、わざとぶつかられ。度重なって限界で叫んだ。「人類滅びろ!」と。
今は毎日、誰もいなくて、自由だ。「はは」私は壊れ果てた車両で独り笑う。勿論、独りでしか笑えないからだ。「広いなぁ……畜生」

へくしっ(サイトからの投稿)
憩いの広場を取り壊す事となった。公民館だ。戦前の木造建築で老朽化が激しいのと、転出者に歯止めがきかず利用者がめっきり減ったためである。すると歴史ある建築物を壊すのは罷りならぬと一部の町民から声があがった。全く利用しなかった癖に。お前らの住んでる家も誰かの家を壊して建ってるんだよ。

kikko @38kikko6
六本木には名前に木のつく家が六軒あったらしい。じゃあ広尾は?と調べてみた。江戸の昔、それはそれは長いしっぽが、4里四方をふわふわ覆っていたのだとか。水はけが良いから米も育った。いつしかしっぽは消えたけど、悲しい気持ちで広尾の街を歩いていると、見えないしっぽに頬を撫でられるという。

norio(サイトからの投稿)
隠しておきたいことがあるから、その場凌ぎに質問をする。知りたいわけじゃない、だから何と返されても心ここにあらず。そして、不満が広がる相手の顔に憔悴する。答えたくない、受け取りたくない、だけど寂しさにはめっぽう弱い。厄介だ。言葉など捨ててしまって、ただただそばにいてほしい。

【星々運営】
四葩ナヲコ
@nawoko140
彼女は面談室のドアを出て一礼し、顔を上げる。でもね、先生。わたしはあの子が大人になるところが、どうしても想像できないんです。こぼれた言葉はリノリウムの床に落ち、鈍い音を立てる。大丈夫。大丈夫ですよ。やけに広い廊下を質量のない言葉がからから転がっていくのを、拳を握りしめて見送った。

佐和桜介(サイトからの投稿)
君の横顔に見惚れていたら急に顔を上げるもんだから、びっくりしてつい顔を逸らした。
君は夜空に広がる星々を
僕は水面に映る星の明かりを
ただじっと眺めていた。
「あのさ」
君が突然言うもんだから、びっくりしてつい君の顔を見た。
君は僕を
僕は君を
ただじっと見つめていた。

まくす(サイトからの投稿)
誰も居なかった。広大な宇宙の果てまで探したが他の知性は結局見つからない、彼は「場に依る者」。そのすぐ横で別の声。宇宙の起源まで遡っても友は居なかった、彼は「時に依る者」。場と時は方程式で繋がる一つの実相だが、彼らは互いの認知を越えた所にいる。二つの孤独なため息が、世界に響き渡る。

まくす(サイトからの投稿)
発熱と胸の圧迫感で息が苦しい。それは死を望むほどの痛み。少し前から静かに感染が広がっているのは知っていたが、いよいよ俺の番か。ほんの少しの隙から、あいつは侵入した。全ては中二の夏、彼女が転校してきた時から始まった。彼女の底抜けの笑顔に抗体は効かない。今日も誰かが恋に感染する。

まくす(サイトからの投稿)
広域ジャムで母機からの誘導が切れた。音速の対艦ミサイルが自己誘導に移行した時、黒い大輪の花が次々と空に咲く。チャフ煙幕弾だ。目と耳を失い、後は拡張推定に頼るしかない。思考深度を一段上げた彼はふいに理解する。間もなく己が消滅すると。「お母さん」、ふと浮かんだ言葉を彼は説明できない。

norio(サイトからの投稿)
晴れた朝、スマートフォンの画面に小さなアイコンが浮かぶ。薄緑色の見覚えのないアプリ。祈りの二文字が枠の中に柔らかく収まっている。いのり、と呟くままに指先が触れた。ひと息で画面が歪む。ぐしゃり、信仰を笑うウイルス。手中の画面は広がる不安に蝕まれた心の縮図か。違う、と細く叫んだ。

佐和桜介(サイトからの投稿)
広いって英語で何やと思う?
ビッグやろ
それは大きいやん
答えはね、ワイド。ワールドワイドとか言うやん
ふーん、じゃあ俺らはワイドドリームを掴もうな
叶えた夢が周りの誰かの夢に繋がるような
そんな広い夢を掴むぞ
ワイドも分からん奴がカッコつけんな

でも何かいいな、それ

梅雨 @Brille2525
数多くのツクリモノで溢れたおもちゃ箱。広大無辺なその世界で、ずっと探しているものがあった。これまでも1つ、また1つと繰り返し手を伸ばしてきたが、そのどれもが自分の求めていたものではなくて。今も手にすることが叶わないけれど、いつか出逢えて良かったと心から思うものを、私は見つけたい。

憂杞 @MgAiYK
森に迷い込んだ少女に恋した若木がいた。少女は両親に見つけられ帰ったが、若木は出逢いを忘れられず再会を強く望んだ。幾度もの冬を越え育つことで自身を見つけてもらおうとした。だが想い人は森を再び訪れはせず、やがて木は伐採された。その木は何箱ものマッチになり、遠方の町まで広く行き渡った。

kikko @38kikko6
次は広瀬通一番町、広瀬通一番町。アナウンスで目が覚めた。黒のバッグを持って慌ててバスを降りたけど、本当はここで降りるはずではなかった。バス停の前には今はもうないはずの石鹸屋と、もう死んだはずの猫。もう会えないはずの恋人。もう剥がれたはずの薔薇のタイル。もうどこにもいないはずの私。

此糸桜樺 @Konoito_Ouka
桜が舞っている。薄紅梅の花弁は凛と踊り、颯爽と散ってゆく。足元には中黄色の菜の花畑が咲き、頭上には澄んだ青空が広がる。私は四季の中で一番春が好きだ。夏も秋も冬も、そして春の時期でさえも、春を待ち望む。筆を置き、カンバスから顔を上げれば……ほら、窓の外にはちょうど雪花が舞っている。

狐島風狸 @kojima_novel
この広い世界で巡り会えた奇跡、だから運命の人。来月結婚する彼女は呟いた。
君からそんな言葉を聞けて嬉しい。
でも僕は、世界よりもっと広いものを知っていた。

君に憧れていた高校時代、同じ空間にいても遠かった。教室が広すぎた。
隣の席になっても、もっと近づきたいと思った。机が広すぎた。

みやふきん(サイトからの投稿)
祖母が管理するようになって石庭は変貌を遂げた。あちこちに緑が繁り花が咲き、虫が集い、植えられたばかりの木の枝には鳥の姿もあった。あたたかな昼下がりには広縁の戸は開け放たれ、日干しされた座布団を見ると、私はそこに顔を埋めて味わうのだ。おだやかな陽だまりの有効期限があと僅かなことを。

ゆま(サイトからの投稿)
僕しか知らない、人の世界と森の境目から小川を辿る。段々、周りには落ち葉と土と杉と羊歯の気配しかしなくなる。小川は大地の裏に隠れて見えなくなる。僕を導くものは森の声だけになる。広場に出る。そこにはグランドピアノが一つ置いてある。おかしいことのはずなのに、そこには完璧な調和がある。

大場さやか @sayaka_ooba
広まらないでと思う気持ちは抑えなければならない。いいものは多くの人に「いいね」と言われて当然で、届かないほうがおかしい。そもそも私があなたに出会えたのは、あなたが不特定多数の誰かに届けようとしてくれたからだ。誰かの中の一人になれた私の幸せに似た気持ちが、今日も誰かに生まれていく。

れん(サイトからの投稿)
重苦しく銀の扉が閉まる。建物の外に出た。真っ青な空に昇る白い煙。広がる白色にどんどん貼り付いていく撮った記憶のない若い頃の茶髪馬鹿と母の写真。どの馬鹿もムスっと不貞腐れてるけど、あんたはどれも満面の笑顔…あんたは今、温かい無償の愛で二十五年振りに会う親不孝馬鹿を打ちのめしている。

福永 諒 @fkngryo
ボールは美しい放物線を描き、これまた馬鹿正直な重力によって盆栽に直撃した。歓喜のホームランのはずが、違う意味で涙ぐむバッターの子。
「怒っていないよ。本当さ」とお爺さんはボールを返して笑った。「広い公園を用意できない大人にも責任はあるんだ。だからせめて広い心を持たんとな」

中村君(サイトからの投稿)
旅館の大広間にぽつりと佇む写真立てを示した女将は「当館の座敷童子です」と誇らしげに語るが、それは確かに私たちの卒業アルバムを直撮りした写真であった。
中央に写る彼は出席番号が1つ違いの広瀬。平野でよかった、と見切れた自身の下の名を眺めながら、私は運ばれてきた会席料理を口する。

kikko @38kikko6
なんとなくで馬頭琴を始めた。モンゴルの楽器らしい。最初は自宅で弾いていたが、馬頭琴が狭いと嫌がるので、河川敷に出た。草がないと言うので野原に。羊を恋しがるので富良野に。やがてはるばるウランバートル。馬頭琴は広い草原にひとしきり喜んだ後、帰ろうと言った。今までで一番美しい音だった。

今田夢(サイトからの投稿)
今日はどんな表情を見せてくれるのだろうと思い、水槽の奥を覗き込む。そこには笑顔があった。僕はうれしくなって、つい笑った。
周りにいるほかの人たちもみんな楽しそうに笑い、同じように水槽を覗き込んだ。
ここはそんな長閑な場所だ。
水槽の外にはどんな世界が広がっているのだろう。    

繭式織羽(サイトからの投稿)
 途中まで乗せて下さい、と頼むと彼女がいいわよ、と言ったので、今にも崩れそうな遺跡の梁から飛び降りる。受けとめてくれた彼女の翼は柔らかな丘陵のように広がって、地平の彼方に沈む陽を目指す。仲間達と世界を渡る。そんな話を聞きながら、助けて貰ったお礼代わりに翼の上で楽器の弦を爪弾いた。

リュカオン @ryukaon_fish
ここに小さな店がある。わたしたち、穏やかな人々は一番気に入ったものを取って店主の方へ向かう。スゴイ、ここには何だってある、と興奮気味に叫ぶ青年の目は虚ろだ。ウチは手広くやってますんで、と店主は呟く。店から去る時、青年は既に何かを決意していた。チクタク、チクタク、もう穏やかでない。

【第3期星々大賞受賞者】
のび。 @meganesense1
とても心が弱っていた時期のことだ。家のすぐ側に急に広場が出来たことがあった。広場はいつも無人で、小さなベンチが置いてあった。そこに座ってじっとしていると不思議と心が落ち着いた。私が元気になると同時に広場は消えた。きっと今も誰かに寄り添っているのだろう。穏やかで優しい野良の広場。

永川さき @nagakawasaki
広寒宮は退屈だ。綺麗な着物。煌めく宝石。贅沢な食事。披露される美しい舞。この世の贅沢を尽くした暮らしだというのに、彼女は穢れた地上が恋しかった。貧しさを笑い飛ばし、限りある命を輝かせて働く愛しい人。捨ててしまった幸せな日々を追い求め、絹髪が乱れるのも構わず、天の梯子を駆け下りた。

永川さき @nagakawasaki
白い吐息と悴む指先。広角レンズを取り付けたカメラ。ファインダーを覗き込み、二度と見ることはできない景色を切り取っていく。星空にたなびく虹色のカーテンは、その原理が科学的に説明されていてもなお美しい。奇跡に魅了されて早数十年。残さなければ。瞬きすらも忘れ、夢中でレンズを空に向けた。

四椛睡 @s_ytskb
『この顔にピンと来たら、連絡を下さい』というネット広告を出して幾星霜。ある女性から接触があった。重要な情報を持っているらしい。何度か遣り取りをし、遂に対面。女性は私を見て「ヒロ」と呼び、泣いた。「あなた、お父さんにそっくりね」「そうかな」私は、あなたに似ていると思うよ。お母さん。

千葉紫月(サイトからの投稿)
「四つ足は机と椅子、二本足は人間以外なんでも食べるって本当なんですね」目の前に並ぶ広東料理に感心してそう言った。「それは嘘デスヨ」料理長はそう言って笑った。「どういう意味……」猛烈な眠気が襲う。「人間は漢方にして食べマス」料理長の最後の言葉を聞くことなく私は深い眠りの淵に落ちた。

石森みさお @330_ishimori
友人がオナモミの実になってしまった。感受性の葉を広げすぎて心が傷だらけになったから、しばらく殻にこもることにしたのだそうだ。実から伸びる棘はしがみつく爪にも見えて、そんなになってもまだ人を求めるのかと胸が痛む。水をやれば芽吹くのかも知れないが、彼女の自由か、と思いそっとしている。

千葉紫月(サイトからの投稿)
「イメージダウンは困るんだよね」そう言って部長は僕にナイフを突き刺した。育休中にSNSがバズり、育メンパパとしてインフルエンサーになった。会社はHPで働きやすさPRとして僕を紹介し、広告塔にした。そして浮気がバレた。会社は企業イメージが損なわれる前に僕を抹殺することにしたようだ。

千葉紫月(サイトからの投稿)
「じゃけえ熱い言うたじゃろうが」舌を火傷した私を見て彼が笑う。初めはキツイ感じがした広島弁も今ではすごく心地良い。「そがいに言わんとって」と言い返した私を見て「言葉うつっちょる」そう言ってまた笑った。彼と一緒にいるとソースの匂いと一緒に言葉も染み込んでくるのがとても愛おしかった。

流山青衣(サイトからの投稿)
重い荷物を運びます。世界を飛び回ります。夢のある仕事です。空を飛べる秘訣を教えます。秘密厳守。求人広告の文章に頭をひねる。飛ぶ話はまだ早いと、誰かが言った。クリスマスの時は重労働です。これも言わない。人間の求人は面倒だ。でも、よく働くらしいから。トナカイはもう旅支度を始めていた。

鈴木林 @bellwoodFiU
生還した恋人は超超広角レンズを搭載していた。視野は鳥並みらしい。だからか埃とか、コップの汚れとか、小さなものに注意を払わない。視界を占める割合が減ったからだ。私の存在も小さくなった。仕方がないから毎朝歌う歌に家事への不満を乗せて、耳から私の存在を復活させている。恋人は笑っている。

【第2期星々大賞受賞者】【星々運営】
へいた
@heita4th
寂しがりやの道がありました。「僕の行き先はどこだろう」うねうねぐねぐね探します。森を抜けて教会を過ぎて、小さな噴水が見えました。「誰かここに来ないかな」寂しがりやの噴水でした。道が噴水の周りをぐるりと囲むと、小さな広場になりました。皆が歩いてやってきて、誰も寂しくなくなりました。

おかゆ @Okayuno140
炬燵の上に広がったままの蜜柑の皮を見て、ぷつりと何かが切れてしまった。これでもか、と粉々に引きちぎってはごみ箱へ投げつける。隣で貴方が「折角、ヒトデ型にしたのに」とぼやいているけれど。いつものように、可愛いとは思えなかった。恋という不確かな感情は、怒りに打ち勝てなかったみたいだ。

濵崎青也(サイトからの投稿)
生まれて初めて海に行った。「ここでなら俺といても恥ずかしくはないだろ」とおっちゃんが言った。そう言われると何だか急に申し訳なくなってきた。おっちゃんは「ほごし」で、俺はまぁ問題のある子だった。肝心な海の方はキラキラして見えにくくなった。広い海っていうけど、広がるのは心なんだな。

神室宗介 @s2kamuro
私たちは双子。果てと果てで想い合う寂しい連れ合い。焼き焦がす者に追われて、その身を分かつ。
でも、天頂に一筋の光。流星。私たちの広域通信網。あちらは元気のようだ。私も送る。愛を、勇気を。また一つ、星が流れ、空が輝く。私たちの絆。私は元気です。だから……また、応答せよ!

75(サイトからの投稿)
クジラは画面に収まりきらないほど、大きくなっていた。先月亡くなった父がくれた最初で最後の贈り物。ネットの海を泳ぐ姿は、水族館を彷彿とさせた。間違いだらけの報道も、一方的な誹謗中傷も、真偽不明な広告もすべて食べてしまえ。もう二度と、誰も悲しまないように。

若林明良(サイトからの投稿)
昔男ありけり。広隆寺のほとけこがるるあまりその頬にふれむとあやまちて指折りけり。みほとけ笑みたたへつつうづくまる男にかぶさりその唇うばひけり。くらき御堂に息ふたつよぢれあふ。風なく紅葉舞ひたまふ。あな、一番鶏啼きけり。ちとせへておもふひとまためぐり逢ひてこころかなしもうつしみ汝は

神室宗介 @s2kamuro
広辞苑を抱くと貴方を思い出す。吐息すら凍てつく空にきらきらと舞う光。ダイヤモンドダスト。細氷とも言うね。貴方の言葉は何時だって美しく、その博識の安寧に包まれていた。
——でも。空。冷たい闇が茫洋と広がる。貴方抜きでは世界はあまりに頼りない。今はただ、盲いたようにページをめくる。

お化けネコ(サイトからの投稿)
 その日僕は不思議な体験をした。 
 僕はベランダに猫のキーホルダーを落とした。するとキーホルダーは広い空に吸い込まれた。
 僕はそのあと怖くて逃げたからわかっていることは一つだけ。 
 その日に猫座という星座ができたんだ。

若林明良(サイトからの投稿)
町の広報誌に長年絵を描いてきた男性が老衰で死んだ。童画風のトラ猫で、河川のゴミ拾いをしたり祭で盆踊りをしたり。名前をニャンといった。ここ二十年は月一枚のパラパラ漫画になっており、溜めていた原稿が死後も五年ほど掲載された。徐々にニャンの背に羽がはえ、飛びたち、最終回誌面から消えた。

風雪ネル(サイトからの投稿)
ある日突然同居人がいなくなった。二人で使っていた部屋には俺だけになりいつもよりなんだか広くて暗くて冷たくて。彼女はどうやら家を出たらしい。一階にいる人達が言っていた。最近、深夜まで机に向かって何か一生懸命していたのはそのせいなのかなと思った。また会いたいな。俺はニャーンと鳴いた。

お化けネコ(サイトからの投稿)
 節分の日、僕は窓を開けた。夜で雪が降っていた。
 その景色のなかに鬼はいる。鬼は雪のなか一歩踏み出し塵となり消えて行く。 
 鬼は広い世界が見えていてそれに怖じけず踏み出している。僕にはそう見える。
 今、鬼の塵は進むように飛んでいる。

葵羽 椿 @TSUBAKI_Aoba
君と一緒に冬の天体観測デート。寒さに身をキュッと縮こませる。温かい飲み物を買って、秘密基地に向かった。着くまでの間、寒い寒いと二人して文句を白い息に零すけれど、星空を前に出てくる言葉は決まっている。広がり続ける宇宙に思いを馳せたフリをして、「また来ようね」と君の手を握った。

ゆまき(サイトからの投稿)
時は進み続ける中心で最期になろうとしている。終わりを知っていた15分。語られることもなく全てを広みに投げ出した。目を閉じ溢れ止まらぬ星屑は彷徨い願うも泡となる。満足した日、居場所すら見つけられなかった僕は月明かりを取り出した眼差しの扉に手をかけた。
夜明けて、君の姿はどこにある。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
雪原でひとり遊んでいた。ふと顔を上げるとオレンジ色を宿した行灯を持つ、髑髏や鬼や妖怪が次々に現れた。さくりさくりと雪を踏む音だけが夜に広がって溶けていく。最後尾にいる二足歩行の狐が、以前行列について行き帰って来なかった友人だと気づくと、僕は待って、待って、と四つの足で駆け出した。

かまどうま @nekozeyakinku
「手伝い、ありがとうな。いいとこ引っ越せたよ。古民家だけど手入れは行き届いてるし、二階もあって広い!それで家賃は前の半分だぜ!地下の部屋さえ使わなきゃいいんだし」
友人はそう言うのだけど。
地下のあの部屋は。
たぶん座敷牢として使われてたはずだ。

永川さき @nagakawasaki
嫌がらせをしてくる上司も、失態の濡れ衣を着せてくる同僚も、何もかもが嫌になった。だから、集めた証拠と辞表を会社に内容証明で送りつけ、職も住居も手放した。手元に残ったのは、使い道のなかった金と自由。「やっちゃったなぁ」白む空はどこまで広い。自由の翼を得た鳥は、天高く舞い上がった。

【星々運営】
四葩ナヲコ
@nawoko140
風呂敷を広げて小首を傾げる。集めてきたものたちを、並べてみたり、積み上げてみたり。たまに投げこんでみたりもする。思ったよりまとまるかもしれないし、どうにもならないかもしれない。ふんわりくるむつもりが、結び目がひどく固くなって苦笑いする。また風呂敷を広げる。次はきっと、うまくいく。

万年青二三歳 @aomannen1108
「なんだって広く言えば同じだろ」
いつだってお前の言葉は適当で、慰めにするには少し足りない。
学校の帰り道、美大の受験に失敗して作品を馬鹿にされた自分を石ころみたいなもんだと自嘲したら同意した。
「石ってことはあれと一緒だな」
指差した先で煌めくのはシリウス。
「広く言えば同じだろ」

Aisu(サイトからの投稿)
折り畳まれた想いが、紙飛行機に載せられて、あてなき航路へ。その手紙には数百字しか綴られていなくとも、文字は紙に深く刻み込まれている。私は見た。人が震える手で広げたそれを、安堵の目で見つめ大事にポッケへ仕舞ったのだ。だから、君にもこの、奇跡を広めてほしい。君の思いを読ませてあげて。

Aisu(サイトからの投稿)
「ネェ、聞いた〜?」大抵この決まり文句で始まる何番煎じの話題。人類はどの時代もこの手の話題に対し免疫がない。
「バド部の三年のイケメンの根岸パイセンってぇ」たった一晩でこんなにも広まるなんて……。密かに荒ぶるは呼吸と心拍。
「一年のコと昨日帰ってたんだって!」っ、私の前で言うな!

ヒトシ(サイトからの投稿)
いつもと違う辻を左に折れると古家が軒を並べる小路。寒風が和らぎ、背中を温める陽射しが心地よい。この道で正解、と安堵して頬が緩む。ふと見上げると、屋根上に長老髭の三毛猫。じろりと私を検分し、にゃーとひと鳴き。そのまま行くが吉の声、と思わず一礼。眼前に広がる新世界は眩しく輝いている。

Aisu(サイトからの投稿)
広い視点をもって考えるとするならば、この何光年もある広大な空間の中、何かしら一つモノが欠けたとしても、イナーシャの原理に則れば何も変化が無いのと同義であると言えよう。従って私が消えても、どうせ何の影響を持たなくて、——
そう考えながら、私は目の前を飛ぶ小さな蚊を叩き落とした。

憂杞 @MgAiYK
事故で死んだ筈の俺は、全身を伝う音の震動を感じていた。恐らく転生したのだ。目を持たない故か周囲には闇が広がっている。「百円のお釣りです」店員らしき声が響き、体が人肌の熱に掴まれ別の温もりへと渡される。「ありがとう」その返事の大人びた声色は、俺が車から庇った妹のもののように思えた。

武川蔓緒 @tsurutsuruo
邸宅で、老人がピアノを弾く。皆で囲み聴く。老人だがプレリュード。第◯番が終るたび席替えをし聴き応えの違いを愉しみ。「次の譜面は?」と老人はよく止る。私は庭に出る。公衆用の如き広い便所は暗く怖い。ここで殺人があったと思い出す。生垣にスクラップの記事が飾られる。プレリュードが聞える。

【第3期星々大賞受賞者】
のび。
@meganesense1
新聞の広告欄に「猫を撫でて電気を作りませんか 募集1名」とある。大変興味があるので、記載された番号に電話をかけると静かな声の人が出て「今、他の人に決まったのだ」と、申し訳なさそうに言った。残念だったが、私以外に猫を撫でて発電したかった人がいたという事実がなんだかとても嬉しかった。

武川蔓緒 @tsurutsuruo
ちいさな民芸館で、入場料の150円を払っただけなのに、日替り定食が湯気をたて出てきた。共にきた友人達も笑う。笑いが途絶えぬうちに、私は味噌汁に浸かっている。椀は広く底が深いから、縁につかまって。岩の如き里芋を視るうちのぼせ、「あの女を蹴落とした」って過去をつい口ばしり。皆また笑う。

光仔(サイトからの投稿)
ティるるるるるッ♪一瞬のグリッサンドが耳に飛び込んできた。その瞬間、暗闇に赤い花びらが弾け舞い上がる映像を見たと思った。降り落ちる隙間から、暖かな光が差し込むように開けっ広げな笑顔がのぞく。逢いたいと願う気持ちはもうない。今はただ懐かしく想う。「お姉ちゃん…」池に映る月が揺れた。

空白(サイトからの投稿)
ガコン。広々とした公園に大きな音が響いた。缶を取り出し手が痺れるような温かさを感じながらプルタブに手をかける。私は何も考えずに缶を傾け、あまりの熱さに驚いて口を離した。舌がヒリヒリする。今度は冷ましてから口に含む。普段のココアより一段と甘くて温かくてほっとする。私の特別な時間。

藍沢 空 @sky_indigoblau
ぐるぐる迷って道も頭も散々に。やっとたどり着いた診療所は待ち時間1か月、診察は5分だった。大量の錠剤を抱えて薬局を出ると、星を抱えたクジラが二頭仲良く藍色の空を泳いでいた。近くの広場で遊んでいる子どもたちが帰り支度をしている。私にも一緒に泳げる人がいたらいいなと思いながら見送った。

pokazo @pokapoka_pokazo
広い海にポツンと浮かんだそれを見て、ぼくはなんだかさみしくなった。これから本土の学校へ行く度、この光景を見る。そしてその度、自分がいかに小さな存在なのかを思い知る。あの島の端から端まで走り回った頃にはもう戻れない。目的地が近づくにつれて船は落ち着いてゆくのに、この心はまだ波の中。

藍沢 空 @sky_indigoblau
あなたは駆け抜けていってしまった。ギターの旋律と歌声とともに。いずれを星を巡って戻ってくるかもしれないと、毎日アンテナを立てて待っていた。七つの季節を越え、ふいにあの歌が耳元に響いた。しかし、振り向いても茫洋とした闇が広がるばかり。それでも信じてる。風に乗ってまたやって来るのを。

Au(サイトからの投稿)
小さい頃、私はよくパパにおんぶをしてもらっていた。タバコ臭くて少しふくよかな背中が大好きで、乗っているとなんだか合体ロボットみたいで楽しかったな。寒い冬の日はそれで暖を取ったこともあったっけ。あの頃のパパみたいに広くはない背中だけど、今度は私がおんぶさせてね。

筒井泰志(サイトからの投稿)
緊張感の張りつめた冷たい空気の漂う試験教室。「用意、始め」の合図で皆がページを開く音。シャシャこつこつ、自分が遅れをとった。問題を見てその質と量に圧倒されてしまう。こんなに広範な知識が求められるのか。この試験一つで人生が変わってしまう。世界は広い、なんとかなるさ。またペンを握る。

山口絢子 @sorapoky
「器を広げる道具だ。不運の大半は、おまえの器が狭すぎたからなのだ。」言い放つ老人。私はもらった輪っかを胸に置き眠るようになった。夢の登場人物は苦手な人ばかりだが、皆笑顔だった。こちらも笑ってみると、体は鳥へと変わる。橙色の空に呼ばれた気がして、私はもう羽ばたくことを迷わなかった。

弥生 @g3pVierFY20PLux
広い世界に広い海、広い宇宙と人は外に外にと旅立つけれど、本当は自分の体ですら、一割もわかっていないのではないだろうか。小宇宙に例えられるこの人体の秘密に私は迫る。冬空の下で食べるラーメンが止められない。この誘惑になぜ負けてしまうのか。それを知るために、私は再び店の暖簾をくぐった。

弥生 @g3pVierFY20PLux
オリオン座を見上げればペテルギウスが赤く光る。星の寿命が潰えそうな今でも、その輝きは夜空に瞬く。今見ている光は640年前に輝いた光。もしかしたら消えた星の最後の輝きを見ているのかもしれない。けれども、この広い宇宙の彼方でその輝きは夜空を照らしている。星が消えてもその光は残り続ける。

弥生 @g3pVierFY20PLux
広い背中を見れば父を思い出す。
寡黙な人。けれど家族の為なら全てを厭わない人。昔父は家族に興味が無いのだと思っていた。相談しても頷くばかりで聞いているのかもわからない。けれど、冬の乾いた空気に火事が起きたとき、一番に母と私を助けてくれた。「君を守るよ」結婚する彼の背中に安堵する。

(サイトからの投稿)
佇んでいた空間は、ガラス越しでがらんどうになっていた。楽器音が響いた個室がひとつの広い部屋となって、あるべき姿へ戻るように。
過去の私へ、"日々を大事にしなさい"とでも言えたら…。
目を閉じれば、自動再生した記憶が後悔と混ざる。
ガラスに反射した日差しがただ眩しかった。

川田京(サイトからの投稿)
男は広大な宇宙に浮かぶある星に向けて円盤を投げていた。男の力は生まれつき一億馬力あったため地上から宇宙空間に円盤を放つことは簡単だった。一人前の円盤投げ士になるために、標的に円盤をぶつける精度を高めた。男が今回の投擲で狙う星は地球。地球人はまだ男たちの存在に気づいていない。

tomodai @phototomop
宿題もやらずにゲームばかりしていたら、お母さんに家を追い出された。夕暮れ時の誰もいない公園はいつもより広く感じる。空を見上げると白く星が輝き始めている。今僕はとても自由だ。けれど丸いお月様を見ていたら急に家が恋しくなった。狭くて窮屈だけど温かな場所へ、僕は帰ることにした。

けろこ(サイトからの投稿)
大仰な自動ドアを抜けて外に出た途端、引き締まった寒さに晒され、濡れて乾いた頬が痛む。慣れないネクタイを緩め、顔を上げると、清々しいほどの晴天だった。その青に煙が一筋。
自ら広い空に飛び出し、そして空へと還っていく君に、もっと色々なことを伝えたかったと思った。

上竹龍之介(サイトからの投稿)
屋上から見上げると、空がいつもより広く感じた。遥か遠くへ続く空を眺めて、ふと懐かしくなる。幼い頃に抱いた、途方もなく広い世界への好奇心と期待。あの頃と目前の景色を重ね、年甲斐もなくあの空の先が気になってしまった。丁寧に並べた靴と遺書を拾って、再び空を見上げる。よく晴れた日だった。

市瀬まさき @ICHiNoSE_Ux_xU
白い息が無数に立ち昇る初詣の様子がテレビに映っている。だが、いまの俺たちに暦は関係ない。同人ゲームの制作が山場だからだ。
「ねぇ、広島編の会話って君の担当?」
「そこは俺だね」
「やっぱり……」
「おかしいところあった?」
「ここ見て。主人公の相槌がすべて『確かに』なの!」
「確かに」

立藤夕貴(サイトからの投稿)
「貴方に幸せをお裾分けします」巨大な広告がビルに掲げられている。幸せのお裾分けというコンセプトをもとに出来上がったビジネス。特殊なシステムで人の幸せを切り離して売る事ができるらしい。今では浸透して皆が笑顔で日々を送っている。しかし、その幸せはどこから来て一体いつまで続くのだろう。

市瀬まさき @ICHiNoSE_Ux_xU
携帯を見る、恋人と会話する、宙を見上げる。赤い信号に導かれながら、スクランブル交差点で見知らぬ人の生き様を眺めた。青を合図に一斉に動き出す、色、音、そして人生。支配されたように統率された動きだった。広い交差点の真ん中で懐かしい香りとすれ違う。振り返るな、優しかった人はもう死んだ。

市瀬まさき @ICHiNoSE_Ux_xU
海を目指して深夜に家を飛び出した。日の出が見たい。大学生に特有の青春という病。今しかできない体験を、今しかできない思い出を。眠気と葛藤しながら車を二時間走らせた。星空の下、高台から広々とした海を眺める。待ち遠しくて心が踊る。でも、水平線はいつまでも暗かった。そうだ、ここは日本海。

立藤夕貴(サイトからの投稿)
皆様を地獄にご案内します。広場で目覚めた者への突然の通告。善良な一般市民なのに何故だと批判が飛ぶ。「それでは嘘をつかず何も盗まず、誰の伴侶も奪わなかった。善良な事を続けたという人は申し出てください。照合いたします」眼の前に晒されるのは鬼籍。嗚呼、なんと奈落へ行く人の多きことよ。

あまなす(サイトからの投稿)
きれいな星空が広がっております
しゃぼん玉のようなお星さまがプカプカしております
中に、ねこが入っております
そのねこを、みんな、見ております
全員が、笑顔でございます
そよそよ、ふわふわ、ぷかりぷかり
ねこは、風に吹かれて、いってしまったのでございます

小林川焦太(サイトからの投稿)
「このロープを掴め。」誰かが僕にそう言った。「やだね。」「ここから出たくないのか?」「どうせ僕を捕まえる気でしょ?」「何言ってんだ。じゃあ知らねえからな。」ロープが徐々に上に上がった。僕は勇気を出してロープにしがみついた。するとどうだろう。井戸の中にいた僕は初めて広大な海を見た。

小林川焦太(サイトからの投稿)
「回れ右!」
僕がそういうと皆一斉に右に向いた。
もう一度言ってみる。
「回れ右!」
数人が間違えて左に向いてしまった。
すると恥ずかしそうに体を丸めながら右に二回回った。
実につまらない。
この広い村でなぜ回れ右をしなければいけないのかを問う人は誰もいなかった。

小林川焦太(サイトからの投稿)
「どうして君はそんな顔をしているの?」「どうして君はそんな態度なの?」「どうして君は正直になれないの?」僕はそう聞いた。「わからない。」「安心するからかな。」「それか一番になりたいからかな。」僕はよく分からないまま今日も家族の前で威張り散らす。内広は臆病と愛情の重ね着なのだろう。

多福(サイトからの投稿)
アッシュグレーとネイビーの千鳥格子。シルク混のビロードが空中の光を拾って鈍く光る。毛並みは短く揃っていて行儀がいい。高く掲げては、丁寧な仕立てを存分に懐かしむ。「後は任せろ」。さらに高く振り上げてから思い切りゴミ袋へぶち込み涙ぐんだ。亡き父の背広を処分する。「これでいいんだ」。

めめこ @memekoubo
一つの広告に出会って私は変わった。いや、変わらざるを得なかったともいえる。人間はどうしようもなく愚かで、たまらなく愛しい存在であることに気づいてしまったから。私はその日、人間を辞めた。人であることに慣れ始めた人生ニ周目の寒い雪の夜だったことだけは覚えている。

八木寅 @yagitola
よしよし、大丈夫。
夜泣きした子を抱きしめ寝かした。やっと、眠りにつける。そう思ったのに、火の玉がちらついた。炎は広がり、人の形をなした。
前に会った時はどうすればいいかわからなかった。でも、今ならわかる。
よしよし、大丈夫。
私の顔を持った炎は涙を流しだし、やがて煙になって消えた。

ちず(サイトからの投稿)
「流れ星って願いの重さで砂漠に落ちてるんだって。
ほら、流れきるまでに3回唱えれば願いが叶うみたいなやつ。
そんなだだっ広い場所誰が拾って叶えにいくんだろうね。やっぱ流れ星じゃ駄目なのかな〜」
そう言って星を探す君の後を追いながら私は呟く。
願い事は叶うよ。だって今がそうだから。

チャコ @bcbbee
私は犬がこの上なく嫌いである。人間に懐柔され、改善の意思もなく、怠惰。世界の広さを知らんらしい。私は道で犬と出くわせば、大抵は黙しているのだが、相手方の吠えようものなら、その何倍も強い声で吠え返すのである。私の家にいる一匹の犬は、私の食事を掠め取る。私はこいつらとは違うのだ。

todaka(サイトからの投稿)
年末なのに、ギリギリまで残業するハメになっちゃった。深夜の街は薄ら寒くて、私はコートをきつく手繰り寄せ、猫背で歩く。歩く。アパートの階段を登り、ふと見上げると、手すりと屋根に切り取られた夜空に、ぽっかり十六夜のお月さま。空はこんなに広く、月はこんなに美しいことを、私は思い出した。

中野翔子(サイトからの投稿)
私は人に好かれたい。そのため、広い範囲で人と交流を持ってきた。しかし、いつも一番になることはできない。私は狭い付き合いの人がいないのだ。周りを見ると、私だけ独りぼっちだった。寂しい思いのまま誰もいないアパートに帰ると、パソコンに通知が届いている。それを見て、私はほっと息を吐いた。

中野翔子(サイトからの投稿)
若い頃、私は運が良かった。しかし、一人の女性と婚約した結果、私は運が悪くなってしまった。ある日、私が原因?と妻が訪ねてきた。それに対して、私は答えた。「この広い世界で君を見つけることに運を使ってしまったからね、運が悪い方がありがたいよ」と。人生は運以上に大切なものがあるのだろう。

中野翔子(サイトからの投稿)
私は挑戦することが怖い。なぜなら、失敗をして何かが変わることが怖いからだ。しかし、私はとある言葉を聞いてから挑戦をするようになった。その言葉とは、「たとえ失敗をしてもこの広い世界から見たらほとんど変わっていないよ」だ。この言葉を胸に秘め、今日も私は自分の世界を少しずつ変えている。

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