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秋の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part3

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

秋の文字 「深」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

10月31日(火)までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去の受賞作などは以下のリンクをご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

雑誌「星々」既刊ご購入▼


応募作(10月15日〜21日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

10月21日

懐中蛍 @lake_fall
私はゼウスの愛神でしたから。身籠った子は流れました。あのカミから詫びの言葉などありません。子の魂はラピスラズリに入れて海へ還しました。深い深い悲しみも数十億年経れば砂になります。今は下界を旅して美しいものを見るのが趣味です。日本の秋は美しいですね。数多の紅い葉が星座を見るよう…。

otodayori @kou_novelmusic
赤く染まるとは。深い愛情?醜い独占欲?
彼に好かれる為に買った香水も橙の口紅も、今や女を穢す道具でしかない。テーブルには赤くキスされたグラスと肉の匂いが残るナイフ。
初めてこの部屋に来た日に萌えた楓の葉が赤く堕ちた。これで合ってる。
ナイフが刺さった彼の胸が赤く染まる。私が、好き?

海風まひる(サイトからの投稿)
『ねえねえ、めっちゃ晴れてて綺麗』
『こっちは曇りなんだけど』
 スマホから顔を上げる。電車の窓の向こうにはやっぱり、雲ひとつない東京の朝。空の深みに手を伸ばしても、透き通った青に手を浸しても、きっと曇り空には届かない。
 君の存在を確かめるために、私は返信を送った。

かすみ草 @jikkkkkkokkkk
深い穴に落っこちると、そこにどでっかいネズミがいた。ネズミが尋ねた。「上に戻りたいかい」私がはい。と答えるとネズミはニヤニヤ笑っていった。「実は僕もそうなんだよね」そういえばネズミは直立に昇ることが出来ないんだと思い出した。私は空を見上げた。秋の空は夜へと深まっていく。

かすみ草 @jikkkkkkokkkk
今日のコーヒーも味わい深く、妻の料理もうまい。秋が深まり、外が寒くなってきた。妻がコートを差し出してくれた。仕事にいって帰った。妻はソファーでくつろいでいた。今日は私が料理担当。ワインに合うチキンのトマト煮を作った。ネットで調べたものだが口に合うだろうか。妻は微笑んだ。

小雪 @koyuki_ps
「綺麗だ」
ずっと舌の上で転がしていた言葉がとうとう溢れた。同時に、耳が熱くなる。
「あ、いや。紅葉が」
と誤魔化そうと街路樹を見上げても、その葉はまだ青い。
代わりに、全てを察した君の頬が深紅に染まる。
きっと僕も同じ色をしていただろう。
秋は始まったばかりで、これから深まっていく。

魂達(こんたち)文音
「金木犀は特別なんだ」
先生は私にそう教えてくれた
「香り深くて風に揺れても薄くならないから?」
と私が聞いたら笑って
「お前は面白い奴だな」
と言って優しく頭を撫で後
「星の花だからさ」
と教えてくれた
今年も深い香りが漂い星の花が降る
先生のお墓はそんな金木犀の木下にある

魂達(こんたち)文音(サイトからの投稿)
私には色がない。
あるにはあるけどそれは皆に合わせた色。
だから私の色じゃない。
皆の色を混ぜただけの醜い灰色。
死ねば真っ白になれるだろうかと考えてしまう。
大人になった私は、きっと黒。
私も秋の紅葉の様に。
色に深く染まれればいいのに。

魂達(こんたち)文音(サイトからの投稿)
深くため息をついた。
そのため息と一緒に枯葉が落ちてきたので手にのせる。
秋の真っ赤なお手手がかわいくてギュッと握るとバラバラになった。
その手の匂いを嗅ぐと秋の匂いがした。
不思議と嫌な感じはしなかった。
私は大人になる度に、残酷になっていくんだ。

リツ @ritsu46390630
表に出ると叩かれる。だからもっと深い穴を掘ってもぐろう。そこでひっそりと生きていきたい。しかし長い爪を持つ前足でカリカリやるも、全く進めない。どうしてだ。俺はずっとこのままなのか。疲れ果てて穴から顔を出した瞬間、ハンマーで叩かれた。軽快な音楽と、「よしっ!」と喜ぶ人間の声がした。

イマムラ・コー @imamura_ko
たとえばクラスに好きな女の子がいたとして、その子が他の男子と喋っているとあいつのことが好きなのかな、と深読みしてしまう。僕が好きだった子もそうだった。ある日彼女が学校帰りに僕に言った。「私好きな人ができたの」やっぱりあいつか。そのことを言ったら彼女は「鈍感」と怒って去って行った。

達美 @Rinda09Rinda
夜勤明けの疲れた体に追い打ちをかけるように、ネガティブな情報を吐き出すテレビ。深い溜息をつきながら箸を置き、犬の散歩へと出かける。いつもの散歩道。顔見知りの人達との他愛もない世間話。テレビの中と現実社会のどちらに真実があるのか?目の前を、見えるはずのない風が通り抜けるのを見た。

193(サイトからの投稿)
ふぅと深呼吸。ポケットの中を確認して歩き出す彼は緊張していた。はぁと手に息を吹く彼女は荷物を腕にかけて待つ。「おまたせ」と彼は言い「それとこれ…」とエメラルドの指環を差し出す。「私からも…」と彼女は深緑色の手袋を渡す。緑の縁に笑い合い、片方ずつ指環と手袋をはめ、空いた手を繋いだ。

10月20日

穴ゃ~次郎(サイトからの投稿)
食べて支援と頬張った秋刀魚の旨みを、遠くの「おらげ」の酒をそろそろと含み流す。多幸感も刹那、動悸と痒みに襲われ、オラが村に馴染めぬ酸っぱさも込み上げてきた。
帰郷を呪いつつ深く息を吐くと、夜空に響く鳴き声。見上げると去年も見かけた白い渡り鳥。鳴き声でセッション。また来年会おう。

若林明良 @sbWoOKoqO92763
「お前の文章ってポキポキしてるねん」「うん」「なんか表面だけで陰影というか深みがないねん」「うん」「お前さ、友達おらへんやろ?」「……」「あっ」「え?」「もしかして俺のこと友達と思ってた?」「思ってへんよ」「そうか、そっかあ~。いらんこと言うてごめん、ごめんな」「友達思てへんて」

冨原睦菜 @kachirinfactory
森にもなく沼の底にも海にもない。ましてや宇宙の果てにもない。探し物は君が持つ御守り。その菫色の小瓶の中だ。そう言われ、慌てて中を覗くと、新緑の香り漂う光のトンネルが見えた。その奥深く俺が探していた水晶の飴玉・未来の記憶があった。ころんと口の中に落として頬張ると甘い記憶が広がった。

かげる @rrugp6ui
深夜。テレビを見ていると、昔の友人から電話がかかってきた。今から家に行ってもいいか?という内容だった。僕は断ったが、いつの間にか軒下まで来ていた。しかも、僕の知らない人達まで、連れてきている。帰らそうとしているのに、悪びれもしないで、さも当然のように家に侵入してくる。警察呼ぼう。

はむ @monokaki_Hamu
深夜、スマホ片手に酒を飲む男。見るのは娘の写真や動画。必死で育てて叱ってばかり、もっと愛情を表現してやれば、と寂しさで涙を零す。
「パパ……寝ちゃってる。明日宜しくね」
毛布を掛ける娘の左手には指輪が光る。男の手の中で光るスマホには、娘の一歳の誕生日を祝う動画が繰り返し流れている。

秋透 清太(サイトからの投稿)
パチン、パチン。祖父の爪を切る。意識を失ってから、一段と細くなった気がする。パチン、パチン。祖父は深爪だった。私は臆病なんだ。そう呟きながら爪を切っていたことを覚えている。パチン、パチン。病室の扉が開き祖母が顔を出す。今日もありがとう。そう言って、頬に伸びた傷跡を撫でる。パチン。

10月19日

yomogi @yomogi585354524
月夜の晩に草笛を吹くと、小さな竜が深い湖の底から飛び出してくる。幾度も飛び上がっては身体をよじる度、月光に銀の鱗が煌めく。「姫!こんなに高く飛べるようになりました。三百年もすれば姫を乗せ何処へでも行けます」得意げな顔を見せるこの美しい竜は、まだ人間の寿命がどれ程かを知らない。

緒川青(サイトからの投稿)
7才の時、吃音を揶揄われてから一言も喋っていない。代わりに爺ちゃんの宝物の蓄音機を鳴らす。滑らかな音。
でも、蓄音機は、シャックリみたいに音が途切れるようになった。爺ちゃんは修理どころか「お前が喋ってるみたいだ」と笑った。
「ち、ち、違う」爺ちゃんはさらに笑い皺を深くして喜んだ。

籾木 はやひこ(サイトからの投稿)
水晶をながめていた。深い森が見えた。そこに底がどこまで深いかわからない池があり、そこには主がおり訪れるものをじっと見つめる。その奥深い瞳に見つめられると見つめられた者は正直に自分の起こした罪を話してしまうという。男は、罪を犯していないといった。その男の名はエンザイイカンと言った。

結満 こゆ @koyuhascomehere
娘のおやつに皮も食べられるロゼ色の葡萄を出す。
「ぶどう!おいしー!」
食べる前から美味しいのは決まっているらしい。
小さい手で葡萄を軸からもぎ、齧り付く。笑顔で咀嚼するが、だんだん眉間の皺が深くなっていく。
「噛んでると味が深くなってくるの」
皮の渋みの美味しさはまだ難しいらしい。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
暮方、深山路をゆく小さき影1つ在り。「あれは……昔斬り捨てた筈の坊主」呟く男。影は、男が昔捨てた妾の子に似ていた。そこまで考えた後でふと彼は気付く「はて、そういや儂は何故深山路になぞ」子の影がフフと微笑み男を最奥へと誘う。丁度その頃、山を去る本妻の子が姥捨山の出入口を壊していた。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
閉め切った窓から微かに聴こえる鈴虫の鳴き声が、深い眠りへと誘う。
ことはなく。さっきまで練っていた物語の続きが頭の中でぐるぐる踊る。布団に入ったものの言葉や場面が浮かんでは、スマホの明るい画面と格闘しメモしていく。
ま、秋の夜長やしええか、とか言ってるからほんと寝つけないのである。

yuhi @YuhiHaru
浅瀬のサワガニ不動産に、ヤドカリがやってきました。新しい宿を借りたいんですが、と背負ってる宿を返します。ご希望は?深い宿を。と言うヤドカリに、サワガニ不動産は、透明な貝の宿を貸しました。プライバシーが心配だけれど、浅瀬から見る夜空に深く潜り込める最高の宿だとヤドカリは思いました。

ARR @arr_rock
すっかり氷が溶けて薄くなったコーヒーを一口飲み、「秋の深まり、なんて言うけどさ、深まりの反対って何?」と君が言う。「……さあ?浅まり?」と答えると、君は「聞いた事無い無いそれは無い」と笑う。釣られて僕も笑う。そうそう、このくらいの浅くて他愛の無い話が丁度良い。
別れ話の後は特に。

河原 敬太(サイトからの投稿)
落ちていく中でしか感じ取れない愛があったことは確かです。けれど、深度が分からない恐怖を持ち続けていたのも確かなのです。それら二つの事実は矛盾ではなくどちらも本当として自立しているからこそ私を蝕んでいくのです。今も落ち続けている私は小さくも大きくもならない光を見つめています。

ikue.m @ikue_mini
君の考えは浅いんだよ、と言われて腹が立った。私は腹を立てながらぬか床をかき回す。底の方まで深く、深く。ぬか床に関しては浅い所しか混ぜないのはよくない。ふと、脳みそとぬかみそは似ている気もした。それなら確かに深く混ぜた方がいいだろう。でも多分こういう考えを浅いと言われるのだ。ふん。

ikue.m @ikue_mini
深煎りの珈琲、が好き。それが好きな人が好き。深煎りの珈琲という字面には魅力がある。ここにはきっと深い秘密がある。でも秘密は黒く深い水底に沈めて、華やかな香りで私を欺いている。僕はね、深煎りの珈琲が好きなんだ…と目の前に座る人が言う。この人の胸の奥深くにも秘密がある。私を欺こうと。

ikue.m @ikue_mini
秋。町を歩くと甘い匂いがする。金木犀の姿はどこにも見えないのに、香りだけが濃く空中に溜まっている。その中に知らずに足を踏み入れると、なにかにぶつかった時のような衝撃を受ける。あっ。瞬間目を閉じる。と、濃い香りが私の深部を通り抜ける。溜まりから抜けると、秋がまたひとつ深まっている。

結城熊雄 @yuki_kumao
海面は光を反射しきらきら輝いている。潜れば、光の届かない暗闇や塵芥の舞うところも見える。深くなればなるほど苦しく、もう簡単には抜け出せない。でもこの海なら溺れてもいいと思えた。そのうち呼吸が楽になった。魚になったらしい。仕方なく舟に帰り、人間に戻る。次の海を探さなくてはならない。

モサク @mosaku_kansui
顔もあげない店員の「あざっしたー」は深度0。タバコの味は変わらない。妻子がいなくなり言葉にこもる何かが見えるようになった。「お気の毒に」同情をよそおう好奇心の深さに、悲しみの底は見えない。それでも、合挽き肉200gをピタリと計った肉屋の「ありがとね」のおかげで、今日も飯がうまい。

結城熊雄 @yuki_kumao
さっきから、きみがなにかしゃべっている。僕の耳はそれを聞かないことにした。代わりに僕の中のきみの破片が、僕に語りかけてくる。モノクロの服で統一したこと。窓際に小さなサボテンを飾ったこと。バナナを先まで食べるようになったこと。残像の実験をするように、僕はずっときみの深爪を見ている。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
心深き人と出逢った。泣かず、怒らず、笑わず。ただ黙々と働き、小屋に帰ると僅かな飯を喰らい、泥のように眠る人だった。
死に際に私が「こんな醜い村八分の私を嫁にしてくれて有難う」と伝えると「お前は美人だよ」と答えて、初めて彼が笑って泣いた。
翌日、優しい顔の赤鬼は村を全て焼いて消えた。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
「教会の屋根の上に十字架があるのは、あそこに帆を張る為なんだよ。あの中の幾つかが、いつか再度現れるノアの方舟の帆柱になるんだ。でも、どれが選ばれるかは誰にも解らないんだってさ」星たちが遠い深宇宙より地上を見下ろし噂話をしている。「それなのに爆弾で帆柱を壊してるぞ。人間って変なの」

10月18日

羽都華 @shino69043908
義母を看取る事になった、離婚してもう他人同然の。私の介護ならと言った理由は不明、病院も施設も拒否したのに。思えば、親よりも長く一緒に暮らした人。好物の葛湯を出した日、おいしいと言った後に私の名をよんだ。その時一度だけ。そんな彼女が今朝、深い眠りについた。

かぼすサワー @boaluz0829
好きな事を表現するには売れなきゃ意見は通らない。なぜなら金がかかるから。売れたら金になるから我儘も通る。泣けてくる。これ以上の言葉が見つからない。何を言っても無駄。自分の感情は深いとこに沈める。ただ届いてると願うだけ。センターマイクに口を近づける。「聞いて下さい。無表情のワタシ」

えきすときお(サイトからの投稿)
吸血鬼の悩みは深刻だった。町の美女たちが頭からすっぽり強化プラ製衣服をまといだしたのだ。それには吸血鬼も手も足もでなかった。ひとり、首すじをあらわにした女がいた。舌なめずりして吸血鬼は女にとびついた。美女しかねらわない彼に血をすわれて、美女でない彼女は、満足そうにほほえんだ。

紫野(サイトからの投稿)
こんな夢を見た。深い海の底を透明な隔て越しに観ている。永遠に陽の光の届かない闇の世界を泳ぐ魚たちは、みな怪物のような異形の形をしている。そして悪魔的に美しい。私は初め潜水艇に乗っているのかと思う、しかしある瞬間に気づく。私は巨大な人喰いの魚の、透き徹る胃袋の中にいるのだ。

もざどみれーる @ThanxXThanx
秋は躊躇しながら、夏の陽気と冬の冷気に己の命を与える。夕刻の西日が我々の生活圏に深く刺さって、否応なく季節の移ろいを悟らせる。情緒の底に訴える斯様な景色の端には、せっせと焼き芋を頬張る我が娘たち。沈まんとする太陽が、この子らを強く照らしている。……ああ、私も太陽にならねばならぬ!

えきすときお(サイトからの投稿)
あなたと私の間には埋め尽くせない深い溝があいている
もう別れましょう
たしかに溝は深いけれど
溝の間は、一歩でのりこえられるほど狭い
きみと僕ならこの一歩ぐらいこせないわけがない
それもそうね私、みていたのは深さばかりで、
幅まではみてなかった
それじゃいっしょに、ジャンプ

えきすときお(サイトからの投稿)
ワーワー、キャーキャーの間をぬって
少年グループの歌が響く。
何を歌っているのか、さあわからない。
それでも私もみんなも
ワーワー、キャーキャーの大合唱。
ライプが終わり、外に出ると、
空からひらひらおちてきた。
「深」
もうこんな浅い生き方やめろと
言われているようだった。

弥生 @g3pVierFY20PLux
欠伸を噛み殺した映画の帰り道、彼女が「深いね」と呟いた。単調で一本道のシナリオなんて感想を微笑に隠して尋ねた。絶妙な間合い、古典からの引用、僕には見えていないものが君には見えているようだ。「同じ物を見ても受け取りかたは人によって違うから」彼女の言葉に思わず「深いね」と返していた。

弥生 @g3pVierFY20PLux
冷たいナイフが深く突き刺さった。最後まできちんと殺しきるように、深く深く肺に押し込まれる。酷く思い詰めたような彼女と目が合い、そんな顔をさせるつもりじゃなかったのに、なんて。最期の優しさが裏目に出た。あーあ、仰向けに倒れて北の空を見上げれば北極星が見えた。いつも空にはあったのに。

弥生 @g3pVierFY20PLux
深い深い海の底、その暗くて遠い水の底にアンドロメダ座から溢れ落ちた星の雫が溜まるという。水面に映る数多の星々にダイブして、深くて暗い虚無の世界に落ちていく。音も空気も生き物さえ届かない、その暗闇の先にある銀色の雫を目指して。遠い空の彼方と深い海の彼方。似て非なる近しい闇に揺蕩う。

鈴 叶望(サイトからの投稿)
食欲の秋など、なんとかの秋がたくさんある中で、私は恋愛の秋にしたくて初めて合コンに参加した。一人一人特技を発表することになり、一番顔が微妙な男性の特技は、「誰よりも深いお辞儀」だった。私はなんだこの人と思ったが、なぜかその彼が一番女子からモテていた。恋愛って、よくわからない。

鈴 叶望(サイトからの投稿)
名前は男の子でも女の子でも大丈夫なよう「深月」と決めていた。穏やかで魅力的な人になってほしいという意味を込めている。

「深月」は、出産予定日より早く産まれてきた。そして、早くに病気で亡くなってしまった。きっと、お月様のところへ帰って空から私たちを見守ってくれているんだね。

ライリーゲイツ(サイトからの投稿)
秋、天高く、自分が深い所に居ると知る。秋、夜が長く、自分の深い所と接する機会が増える。秋、自分の深さを鑑みてやはり私は私なんだと気付く。秋、冬はもうすぐそこまで来ている。秋、心が何かを求めてる。秋、春になかった風が吹く。秋、そうだ!私は決意を固め、行動に移す。
秋、始まりの音色

もざどみれーる @ThanxXThanx
迸る命の輪郭を、月の裏側に文字で遺した詩人がいると云う。一瞬の過誤に魘され続ける女に対し、深甚の憐れみ以て詠まれた一篇であるらしい。
尤も、その詩が実在するかどうかは不明である。……成程、出鱈目やも知れぬ。だが、そんな姿勢で半歩も踏み出せぬ輩に、どうして命の迸りを理解できようか?

もざどみれーる @ThanxXThanx
太陽が墜ちた。歴史という血を吹き付けられた欲望が、誰かの心の深処にある暗室を徘徊している。真の精神の光を持たぬその赤塊の瞳には、春の芽吹きも夏風の宴も、紅葉の峡谷も雪に燥ぐ子供らの温みも映らない。かのゲルニカを描いた絵筆に染み込んだ哀涙でさえ、その血を拭うことは終に出来なかった!

友川創希(サイトからの投稿)
仕事から疲れていつも通りすぐにベッドに直行し、眠りについた。ただ、途中で目が覚めてしまった。デジタル時計を確認するがまだ深夜。なんだろうか、リビングの辺りで物音がするような気がする。俺は不審に思ってリビングに行くと、そこでは娘が明日の俺の誕生日パーティーの準備をしていたのだ。

はむ @monokaki_Hamu
「俺の着信音可愛いよ。鳴らしてみて」
そんな誘い文句で、私の番号は彼のスマホに記憶された。それからデートもしたが、深い関係にはならなかった。
真夜中。物音で目を覚まし、暗闇に人影を見た。トイレに逃げ込み、咄嗟に助けを求めて彼に電話した。ドアの向こうで耳馴染みのある可愛い曲が鳴った。

10月17日

KG @JGPK6378
初恋の生徒会長に堕胎の噂が流れたのは夏休み明けだった。ようやく交換したLINE。何か困ってない?と聞くと、p活はやめたと言いましたよね?との返信がすぐに削除された。今の見た?何を?何でもないけど、困ってるかも…。意味深な返事。手って震えるんだな。深呼吸をした後、僕は通話をタップした。

若林明良 @sbWoOKoqO92763
深海に横たわる一枚の鋼鉄。ぼこぼこに変形したその下にサメの子が潜んでいる。毎夜彼は夢をみる。ここをうんとうすくした青。火の球のぎらぎら。熱い、熱い。羽の生えたやつ飛んでった。四角い街遠ざかり。緑がさわさわゆれ、白や黄色もゆれる。いい匂い。黄色のひとつが手折られ小さな指にわたった。

かぼすサワー @boaluz0829
ドキドキと後悔が一緒にくるとは知らなかった。深呼吸をする。でも、二人きりになれるチャンスを逃すまいと苦手な観覧車に乗ったのが失敗だった。「手、痛い?」彼女が言った。「どうしたら手を繋げるか考えたらこの方法しか思い付かなくて」と、そう続けた彼女の顔を見るとしっかり目をつむっていた。

ヤマサンブラック @zantetsusen
野営訓練六日目の富士登山を怪我で断念した俺は、雑用をして過ごした。中隊が帰還した。班長が来て、俺に小石を渡した。「お前のために拾ってきた」富士山の石を持ち帰ることは禁止されている。それにどう見てもその辺で拾った石だ。しかし自衛隊を辞めた今でも、その石は抽斗の奥深くにしまってある。

月歩兎(サイトからの投稿)
気付けば周囲に暗い青が広がっている。真下には陽の光を、朧げだが確かに感じる。自ら零れ落ちる様に死に向かった。既に体は引き摺り込まれ、今にも潰れて無くなりそうだ。それでも変わらぬ胸の内。張り詰めた孤独を癒すのは光か、暗い静寂か。もうすぐ水深100m。脈打つ体内に生を感じる。

結城熊雄 @yuki_kumao
「不快」氷を飲み込んだみたいにさあっと胸が冷たくなる。無口で読書ばかりしている私が、急に饒舌になったら気持ち悪いよね。「もっと聞かせて、その小説についての考察」え。重い前髪の隙間から見る彼の目はきらきら輝いていた。あ、さっきは「深い」って言ったんだ。体温が氷を溶かす。「あのね、」

小卜(サイトからの投稿)
「へえ。料理って奥深いんだね」つまらなさそうにつぶやく君に返す言葉を探す。視線の先に落ちたリンゴ。それを手に取り口を開くと、君は鼻で笑う。
「あんたさあ、説明長すぎ」
料理道具を放り出し帰る支度を始める君。残された僕の耳に「奥深い」がこびりつく。ぼとん。リンゴが苦しそうに落ちた。

みなみの(サイトからの投稿)
夜を深み雲の波間の黒に溶ける月星眠る……ここまで書いて筆を止めた。季節はいつだろう。春であれば空は霞み夏であれば短い、秋であればもの淋しく冬であれば空は澄む。濃灰色の雲が行き交う空は、どれだけ眺めていても飽きそうになかった。この空の、雲の色は、数千年前から変わらない気がした。

モサク @mosaku_kansui
深夜3時。暗闇にうかぶ画面では白い歯をみせて男が笑う。「病は気からと申します。動悸、息切れ、頭痛に肩凝り。お悩みのあなたにこの2錠」彼が手にしたのは気の薬。感嘆の声がもれた。よかった間にあった。特別なあれならきっともう一度羽ばたけるだろう。私は期待を胸に、眩い光に引き寄せられる。

達美 @Rinda09Rinda
彼にハグをしてもらうと不安や悲しみ、怒り等の負の感情を吸い取ってくれるという。今日もまた仕事帰りの人達を中心に、街角に立つ彼の前に列を作る。深刻な面持ちだった人達がハグをしてもらう事で皆穏やかな表情に変わり、愛する人の元へと帰ってゆく。明日を生きるために。自分を抱きしめながら。

小鳥遊 @takanashi_25325
「爪を噛むのはやめなさい!ヨッキュウフマンと思われるぞ」よく幼い頃から父親に怒られた。ヨッキュウフマンって何?そう思っていた。爪噛みは二十歳になっても治らず、常に深爪で形も悪く血が滲むまで噛んでいた。でもある日凄く好きな人が現れてからピタッと止まった。欲求不満がやっと解消された。

リツ @ritsu46390630
心のずっと深いところにしまっておいたものを取り出してみた。誕生日には、一緒にケーキを作ってくれた。運動会の日は、朝早くから場所取りのために並んでくれた。逆上がりの練習に、日が暮れるまで付き合ってくれた。私はじっくりと懐かしんでから、一番手前に収納した。またすぐに取り出せるように。

花草セレ @hanakusasele
我々が土へと高く根を伸ばすように、人間は深く深く、空へ潜っていく。人間における脳は、我々における根に似ている。人間とは逆立ちした植物なのだ。我々が土の高くまで帝国を築きあげたように、人間も、空深くまでの征服を企んでいる。あぁ、愚かしい。どうか我々の二の舞だけは踏まないでくれ。

10月16日

【第2期星々大賞受賞者】
へいた
@heita4th
人を訪ねた帰り、駅まで送ってもらう。なんだか名残惜しい。「さようなら」とその人が言って「さようなら」と返事をする。手を振るのが恥ずかしくて、かしこまってお辞儀をする。「また会おうね」その人が屈託なく手を振る。「はい」慌てて返す。深く深くお辞儀をする。大きく大きくうなずくかわりに。

兎野しっぽ @sippo_usagino
恋人が深刻な顔で切り出した。
「あなたより大事な人ができたの」
彼女の手が優しく腹部を撫ぜる。浮かれた僕はその場でプロポーズし、勢いのまま入籍。
あれから4年。美人な妻と可愛い娘に恵まれて、僕はとても幸せ者だ。
「本当に?」
妻にも僕にも似ていない青い瞳が、まっすぐに僕を見上げていた。

星見玲桜 @reo_hosimi
文字の海は深い。最初は一文字。次に数文字、数十文字と深度を増して潜って行く。文字の海に沈む時、私もまた絵梨花という文字になる。その三文字が離れぬように文字の中を泳ぎ無意味な意味を見出すのは楽しい。死ぬ時は文字の海に没したい。バラバラの、無意味な文字列になって、儚く散りたいと思う。

星見玲桜 @reo_hosimi
老人の頭は深い森になっている。白髪は雪を被った樹々であり、それをかき分ければ、頭皮の上を人々を乗せた橇やそれを引く犬が走り回るのが見えた。森に指を突っ込めば、驚くほど冷たい。この森に温かいお湯をかけるのかと思うと悩む。人や犬のことが心配だ。でも、仕事だからと、自分の心を鬼にする。

葉山みとと @mitotomapo
深々とお辞儀をするとき何を考えているかといえば、適切な秒数を数えるのみ。おじぎ草はいちいち触られてそのたび葉を閉じて迷惑千万。日々をこなすために深淵のやわらかなところには触れずにいるけれど。光を浴びればどうせまた葉を開く。生きるしかないんだよと皆が言う。

モサク @mosaku_kansui
好奇心旺盛な孫娘が、頁に書かれた「深まる秋」という言葉に首を傾げた。快適な地下都市に四季はない。私はかつて撮りためた映像を壁に投影する。花見の宴、打ち寄せる波、紅葉した木々、溶けかけの雪だるま。天井知らずな気温上昇で我々が手放したものを、夜空の星のような瞳が飽くことなく見つめる。

10月15日

かぼすサワー @boaluz0829
モンシロチョウが羽を休めてる。それを見て、水墨画のような柄シャツを好む彼を思い出す。モンシロチョウを見ると、レモングラスのような香りを漂わせる彼を思い出す。深く刻まれた溝には、抗えない、こじつけの様な痛みがすりこまれる。散歩のつもりが、ランニングのような心拍数を感じて僕は泣いた。

翠を読む @midori_yomu
コレクションされたお面達は、
さまざまな表情が施されている。
お面をかぶることで私の生きる道標が明確に明るくなる。
笑うお面を手に取る。
私はそのお面をかぶると高揚する。
素顔を隠すと、過去の失敗は無に等しくなる。ですが深い夜はお面を拒む泣きっ面な私であったのだ。

大原 史 @Ayaohhara94922
太陽が遠くなる、寒い季節に深々と星は降って、山のてっぺんに積もり、墜ちた星たちは朝方には土の中に沈み、そうしてゆっくりと大地のもっと深い深いところまで堕ちていく。
ほらこれが星のかけらだよ。
彼はそう言って、つけていたラピスラズリの指輪を外した。
作り話にしてはロマンスが過ぎた。

あぽろ @poro_poro_do_
君は知っているか。波に揉まれ沈んでゆく時、その奔流に身を任せるのがいいことを。打たれて痛みと苦しみを味わう時、踠かずただ呑まれ、深く深く沈んでゆくのだ。手足を縮め、底へ、底へ。そうして足が着いたなら、水底を力一杯蹴りつけてやれ。お前を沈めたものを振り切り、誰よりも速く水面へ行け!

春うか @UkaHalu
運命にも賞味期限があるらしい。小指の赤い糸は日一日と褪せていく。明るい未来と結ばれている。と無邪気に信じきっていた、いつかの私ならば、躊躇いもせずに辿って行ったのだろうか。でも、いまは。乾ききった指に、細い糸があまりにも重い。遠からずこぼれ落ちる、深緋の出会いから、目を逸らす。

瀬戸ケイ(サイトからの投稿)
銀の糸は瞼を縫って、深い森へとたどり着く。歌う小鳥と笑う風の中に、あなたを見つけた。嬉しくなって、私は駆け出す。髪に花を飾り合って、手を取り合って、ワルツを踊る。しばらくすると、あなたが「今日はここまで」と言った。糸がゆっくりほどけていく。眩しい。今朝もあなたの顔を思い出せない。

牧村信(サイトからの投稿)
深緑の季節が終わり、夕日で染めた葉が落ちる頃となった。早まる日没までの時間は、傷心気味の私に優しくしてくれない。ほら、もう星々が空を埋め尽くしている。共に寒空の下を歩いたあの人の手のぬくもりは、カイロを入れたポケットの温度に上書きされた。

しらふ(サイトからの投稿)
 手作りスパイスカレーに手を出してしまった男は泥沼にはまった。スパイスを揃え、タマネギは飴色になるまで炒める。鶏ガラでスープを取り、ホールトマトを入れてじっくり煮込む。だが、納得出来ない。味に深みがない。一味も二味も足りない。男は今夜も負け、鍋にカレールーを投入するのだった。

しらふ(サイトからの投稿)
 「秋は景色が深いわね。ほら、あの山の上の所の紅葉」
 「深いていうより濃いじゃない?」
 「何言ってんの、深い景色よ!」
 「いやいや濃い景色だって!」
 「ねぇ、あんたはどう思う?」
 「え~、私は深い恋がしたい。大人の恋ね」
 「まったく、この恋愛ジャンキー!!」

山尾登 @noboru_yamao
「ここって、栄養はあるんだけど苦いのよね」ピーナッツをそっと割って、その先の胚芽を、白く細い指先で上手に取りながら彼女は言った。そんな半世紀前の光景が、深くボクの心の底で、いまだに蠢くことがある。その手を握ったこともなく、彼女と過ごした数日間は、多分、男性への助走だったのだろう。

しらふ(サイトからの投稿)
 そのお婆さんはいつも駅にいる。壁際に座り込み、周りには15センチから20センチほどのダンボール箱を五、六箱置いている。多分、ダンボール箱は堤防で、それで外からの攻撃を防いでいるらしい。あの箱の中には何が入っているのか。きっと、お婆さんの深い深い心の闇が詰まっているに違いない。

MEGANE @MEGANE80418606
深く、深く、私の中を潜って探す。それは、最初からきらびやかに輝く宝石と違ってただの石ころみたい。だけど、丁寧に磨いて、カットして、光に当ててやれば一等輝く。ときに烈しく、ときに静謐に。この石を活かすも殺すも私次第。怖い。石を台無しにするかもしれない。それでも何度も潜って輝かせる。

伊古野わらび @ico_0712
手渡された折り紙は「深白」という色らしい。深紅は見て知っているが深白とは一体。ただの白い折り紙にしか見えないが。
「全てを飲み込む白です」
目の前の人はそう言った。
「貴方の罪も心の汚れも飲み込んでなおずっと白いのです。鶴でも折ってみますか?」
どこまでも白い歯を見せて看守は笑った。

甘衣 君彩 @kimidori_novel
かつて私と弟は、世界の果てを夢見ていた。でも、私は夢を叶えられない。だから私達は、とある約束をしたのだ。
二十歳になった弟は深海に行く。二十歳のままの私は翼を羽ばたかせ、空高く飛んでいく。
今、それぞれが世界の果てにいて、夢と約束で繋がっている。私と弟は、世界で最も遠い姉弟になる。

永津わか @nagatsu21_26
「季節は前に進むの」彼女は右足で踏み切って銀杏並木を軽やかに跳んだ。「気づかず夏に取り残された人が、落ちたと思うだけよ」その隣に並びたいのに、そうすべきなのに僕は動けなかった。いつ間違えて、どう溝ができたかと聞くのは馬鹿だ。彼女が振り向いて笑う。「秋が深まったね、なんて傑作だわ」

永津わか @nagatsu21_26
胸に触れた指先は、ほんの少しの抵抗をもってとっぷり吸い込まれた。肘から手首までと足のサイズは同じらしい。もう二の腕までがない。君の眼の優しさに耐えられずに目を伏せて、深いね、と言った声は臆病だった。たった十数センチの厚みすら通りけられずに、君の心にたどり着くまではあとどのくらい。

どっぺる(サイトからの投稿)
一面に広がる橙の海を、星明かりだけが照らす世界。僕は一歩ずつ、水深の浅い水面をひた進む。腹が減れば、彼方から流れくる緑の果実を口にする。荒波に襲われれば、じっと息を止め時を待つ。そんな夢を、僕は毎晩見ている。朝、日光の届かない天井を眺め想う。何故と問いかける誰かが、現れる未来を。

蟻の背中 @dayandmore
冷たい夜が雨を伴いやってくる。墨色の闇は空っぽの心をツンと刺す。逃げ込んだ深夜の電話ボックスから濡れていく世界をただ眺める。忍び寄る孤独の裾を踏んで、まだ大丈夫と声に出す。途端に景色は霞み喉が締まる。怖くてもいつかはここから出なくては。終の行き場は分からず傘も手立てもないけれど。

193(サイトからの投稿)
そこには深い愛があると信じていた。深緑が雨粒を垂らす頃。傘をくれた君に僕は恋をした。名も知らぬ君を探すのはそれはもう苦労したよ。深海魚を追うように必死で探したんだ、君…深雪をね。でも扉を開けた君は心の底から不快感を示した。だから僕は青ざめた君を埋めることにした。深い森の奥底にね。

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