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秋の星々(140字小説コンテスト第4期)結果発表

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

秋の文字 「深」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

「季節の星々賞」として一席、二席、三席の3賞+佳作7編(計10編)を選出しました(応募総数582編)。ご応募いただきありがとうございました。

選評(評・ほしおさなえ)とあわせて受賞作は後日hoshiboshiサイトへも掲載します。
また、優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。

一席、二席、三席の方には特製の賞状(ほしおさなえによる手書きのお名前入り)を、さらに一席の方には図書カード(3000円分)を贈呈いたします。

年4回のコンテスト後に、各回の一席のなかから大賞を1編選出します。
年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

受賞作

入選

一席

石森みさお @330_ishimori
熱波から一転、厳しい寒さがやってきて、街は文明を壊す程の深い雪に埋もれてしまった。世界の半分がそんな様子で、寒い代わりに争いの火は消え、みんな静かに身を寄せ合っている。僕は懐に猫と空腹を抱いて束の間のぬくみに微睡むけれど、この子の餌が尽きたら僕も武器を持つのかな、とふるえている。

二席

ケムニマキコ(サイトからの投稿)
深泥池の浮島はな、植物の遺体が積もってできてるんやって。ほんでな、そこに根を張って、新しい草木が生えるねん。私らも、そんな風にしよな。私が一つの島になって、あんたの居場所になったげる。ズタズタにされた上履きを放り投げ、私達は駆け出した。キンモクセイの匂いは、夕方みたいやと思った。

三席

想田翠 @shitatamerusoda
深夜まで勉強していると、母が夜食を作ってくれた。基本的に温かいうどんかおにぎりで、たまに登場する焼うどんの特別感ったら…。踊る鰹節が回想を連れてきた。階段を上がる足音を聞いて、今頃慌てて漫画を隠しているはず。経験者だからわかる。それでも、「味方だよ」のエールを送る心は変わらない。

佳作(7編)

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
少し角が丸い風を深く吸いこむと、肺に透き通った朝が流れこみ波立つ稲の薫りが鼻をかすめる。あの地はアスファルトの下へ消え、あの人は空の上。そのあいだを随分歩いてきたものだ。思い出すたびに胸が締めつけられても一生手放すことのない記憶が、今日も私の足を前へ進める。ほてほてと生きるのだ。

リツ @ritsu46390630
深夜に食べたいちご大福は味がしなかった。いつもは夕食の後にお茶を飲みながら味わって食べるいちご大福を、今日は作業として食べた。長すぎる夜の過ごし方が分からなくて食べた。気を紛らわすために食べた。鼓動を落ち着かせるために食べた。美味しくて幸せな思い出に上書きされて、悲しくて泣いた。

坂本真下(サイトからの投稿)
深海行きのバスに俺は飛び乗った。跳ねる息を落ち着かせながら席に座る。もう何年も使っている肺なのに、まだ呼吸は慣れないらしい。砂浜を出発したバスは底へ向かって走り、光が車内灯だけになって暫く一匹の人魚が窓を叩いた。遠い昔俺が捨てた尾鰭を持ったままの兄が手を振っている。会いに来たよ。

はぼちゆり @habochiyuri0202
ガチャリと家のドアを開けると、私がいた。話してみると、とても趣味が合い、時間を忘れて語り明かした。目覚めるともう夕方で、もう一人の私はいなくなっていた。呑んだ後始末をしながら「私の方が消えればよかったのに」と深い溜息を吐いた。もうすぐ日が暮れる。ガチャリと家のドアが開いた。

鈴木林 @bellwoodFiU
深夜営業のみのファミレスには家族が集まった。一人暮らしの父、ひとつところにいない母、身長2メートルの娘、煙草を食べる息子、漢字を編み出す犬。フライドポテトを掛け金にしてトランプで遊ぶ。朝になるとドリンクバーが調子を崩し薄い炭酸を吐き出すので、皆はしぶしぶ個別会計しそれぞれ帰った。

瓦夜 @KawaraYoru
深い涸れ井戸の底に私は居る。光を求め見上げると、丸い空は人々の顔で埋まっている。彼らの唇は絶えず動き、様々な意見が交わされている。話し合いが終わると、彼らの瞳から、雫がぽつぽつ落ちてくる。その涙で涸れ井戸に水が溜まり、私は地上へと浮上する。これで助かる。千年後くらいには、恐らく。

あきら @akirakekunote
砂利の上に、死んだオニヤンマがおちている。夏の間空を抱いていた羽は深く透きとおり、アキアカネが秋空を無数に泳いでいくのを、大きな眼で睨みつけている。あれだけきらめいていた夏が、呆気なく空っぽになりそこにおちていた。鮮やかな秋に責め立てられ、わたしは恐ろしくて、母の手を握る。

part1 part2 part3 part4 part5 part6 予選通過作 結果発表

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