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秋の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part4

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

秋の文字 「深」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

10月31日(火)までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去の受賞作などは以下のリンクをご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

雑誌「星々」既刊ご購入▼


応募作(10月22日〜27日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

10月27日

UFO @index_0512
「……ごめん。 美味しそうだったから、つい」
冷蔵庫のプリンの行方について尋ねると、彼は驚くほど素直にそう言って、困り顔で謝罪した。しらを切るとばかり思っていたから、私はそれ以上深入りできなかった。文句を言うはずだった口の中に、苦味が溜まる。今朝食べたプリンのカラメルと同じ味だ。

UFO @index_0512
深海魚特集の映像を見た。摩訶不思議な生物たちが地球の底を泳ぎ回っている。そんな中、砂にまみれた茶色い酒瓶が一瞬、画面端に映った。祖父がよく飲んでいた酒と同じ瓶だった。海が好きだった祖父の面影が、大海の源で根を張っている。まるで海と祖父とが共生しているような気がして、笑みが溢れた。

一羽 @cheese__crane00
余りにも、日常。
いつもの喫茶店、かき氷を頬張る彼女。金木犀くらい深い甘みを帯びた香り。
「最近ちょっと冷たいよね」
「…別に、普通じゃない?」
「あんた、寒がりじゃなかったっけ」
自分から冷たさを求める季節はさ、もうとっくに過ぎたんだよね。と笑う君からは、思い出の香りが漂っていた。

りんこ(サイトからの投稿)
どんな場面でも「君の話には中身がないね。」と呆れられる僕だが、この一言を聞くたびに僕の心の温度は急騰する。僕は思い切って接客業に足を踏み入れてから1ヶ月後に常連客と世間話をしてみた。すると、話し終えて彼が僕に放ったのは「君の話は意味深だね。」という一言。僕の心は穏やかに温まった。

こしいたお(サイトからの投稿)
「あんな馬鹿なこと二度としたらあかんよ!」小学生の息子が橋から川へ飛び込んだ。泳ぎが下手な息子は溺れかけている所を運良く救助された。病室で理由を聞いた私たちは俯く。私たち夫婦の別れ話を偶然耳にした息子。悩んだ末、私たちの間にあった深い溝を埋めようと、自分にできることをしたのだ。

野春菊(サイトからの投稿)
「私は何がしたいんだろう」
深く、深く沈んでいく。思考の中は幕を下ろした暗闇に、今日も一人落ちていく。私は何者でもない。私ができることは、他の誰かもできる。私が知っていることは、他の誰かがもっと詳しく知っている。
『私には何をやらせてもらえるんだろう』

光仔(サイトからの投稿)
さあ、と手を差し伸べているかのようなピアノの音色に誘われて表紙をめくると、果てしない草原に緑の風が吹き渡っていた。首筋をくすぐられ、思わず一歩を踏み出す。地面の奥深いところから軽やかな靴音のような音が響いた。待っている。そう聞こえた。大きくうなずく。行くよ、あなたのもとへ。

ゆかしかりしかど(サイトからの投稿)
刑場へ赴くわが身を顧みるに、あらためてその罪状の悪辣さにあきれる。婦女幼児殺害。しかし後悔は一片もない。陳腐な正義の仮面を捨て、生涯初めてわが赤心に添うたのだから。死に際の彼女の気高い笑顔と、去り行く少年の清冽な決意を胸に、いざその時は来た。真実は深く心の奥にこそ。

中川悠兎(サイトからの投稿)
名前はずっと「ちゃん」付けだ。
この授業では隣に座っても他の授業では話さない、この授業だけの友達。お昼ご飯は一緒に食べても夜ご飯は一緒に食べない、お弁当だけの友達。
深い関係は望まない。浅くて広いのが一番だ。
でも今日は今日だけの友達になってくれる?そんなこと許されるわけないか。

天琳(サイトからの投稿)
その少女は触れたものの想いを見ることができた。
滅多に手袋を外さない少女が珍しく触れたいと思ったのは、閉館間近の博物館のクジラの骨格標本。
触れた先から鈴のような音が鳴り、深い海底の絵が現れた。夜の海。クジラから出る水泡が海面を越え月へと昇っていく。星に憧れた想いの軌跡が見えた。

文月ノ文(サイトからの投稿)
舞台に整列してそっと周りを見る。みんな緊張している。けれど笑顔をこらえきれない。4年ぶり。全員そろうのは4年ぶり。やっと歌える。思いきり声を出せる。このホールの一番うしろにいる人にまで、声を届けたい。
先生がやわらかくほほえんだ。すっと指揮棒が上がる。わたしは深く息を吸った。

鈴木さら @SuzukiSara
水たまりの底を踏み抜いてしまった。思ったより深くて、やけにゆっくり下りているせいか、いつになっても本当の底に辿り着かない。遠くに、同じように下りている人の姿が見える。ああ、あの人もきっと昔、水たまりの「本当の底」の事を考えたことがあるのだろう。不思議な親しみをおぼえ、私は微笑む。

10月26日

Sawadamaki(サイトからの投稿)
コンコン。ドアを叩く音がした。深く息をする。今日は家族みんなが大好きな唐揚げにしようか。作り置きもしておこうか。何年ぶりかに家族写真を撮ろうか。幸せだね。あ、ポチの世話も頼んだよ。幸せだな。ありがとう。幸せだな。ありがとう。

名瀬 ふう @fuuuunase
深愛なる君へ。これは誤字ではない、よく聞いて欲しい。夜空から夏の三角形が消え秋の四角形が現れる時、僕の恋と人生は終わるだろう。そんなこと言うな?いや、最後まで聞いてほしい。そもそもこの恋は始まっていなかった。だから命と一緒に無理矢理終わらせるんだ。勝手な兄を許して欲しい、妹よ。

葉山シュロ @shuro_palmiers
星が降ってきそうな夜、僕は爪先から海の中に入っていった。数日前から、水底が光を放つようになったのだ。一体あの光はなんだろう。水深は分からないけれど、辿り着けるところまで行ってみるつもりだ。小さな魚になったように僕は泳ぎ続ける。僕の声が深海まで届けばいいと思う。

鈴木林 @bellwoodFiU
喫茶マントルの入り口でストローを受け取る。キレのある味を好む者がそこらの壁にストローを挿すのを横目に、梯子を降りていった。途中、カップル席に一人で座る者が「思い出の味なんだ」と言いながらストローを吸っていた。私はまだ降りる。壁から味わえるフレーバーは潜るほど深いコクが出るという。

高瀬あこん(サイトからの投稿)
旅に出るよ。ある日の真夜中、彼が言った。どこに?そう聞くと、深い海か、または空の奥。そんな場所、生きていけないよ。私はムッとして言った。彼は笑って、そうだね、だから君は来ないで、と言った。君は来ないで、生きるんだ、と。目を開けると、新しい朝がやって来ていて、私は自分の部屋にいた。

サツキユウ(サイトからの投稿)
夜、1人で出歩くのが好きだった。なんだか大人になれたような気がしたから。
夏から秋にかけて、涼しくなった空気が身体を包み、夜の匂いが充満している。そして自分の服が擦れる音だけが残る。昼は明るかった道も、今は先が見えない。
夜はどんどん深くなる。その瞬間だけ、僕は子供を辞められる。

空ヤマメ(サイトからの投稿)
王子のキスで彼女は死の眠りから目を覚ます。乙女の笑顔で彼女は王子を見つめ返す。あいつが悪い奴なら、僕が彼女を取り戻す物語もあり得ただろうか。けれどそんな事はなく、君は間違いなく幸せになるんだろう。胸の痛みを心の深くに押し隠し、小人の一人は笑顔で白雪姫を見送った。

サツキユウ(サイトからの投稿)
「雪はね、神様の贈り物なのよ」
お母さんは昔、私にそう教えてくれた。
雪は、皆が明るくなる、希望に満ちた贈り物。神様が気まぐれで私たちの世界に落としてくれるって、お母さんは笑って話した。
深く積もった真っ白な雪に、子供達が飛び込む姿を見て、次は私が伝えるんだねって心の中で呟いた。

空ヤマメ(サイトからの投稿)
あなたに見つめられた瞬間「これはもう、間違いない」と感じた。少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべて、暖かい手が私に触れる。ゆっくりと顔を近づけられ、私は直感が正しい事を確信した。あなたは深く息を吸い込み、勢いよく「ふーっ!」と私に吹きかける。沢山の綿毛が大空に向かって舞い上がった。

Shomin Shinkai(サイトからの投稿)
家族で山に登った。山頂にて僕は深く息を吸って、深く息を吸って、深く息を吸って、何も言えなかった。父は笑った。「吸い過ぎて窒息するぞ」窒息するのは嫌だったから、吐き出してみた。「お父さんは、不倫、してる!」口に出すって大事だ。前方の景色がより壮大に瞳に映ったから。後ろは見てない。

Shomin Shinkai(サイトからの投稿)
貴方にもっと深い質問を投げかけたい。貴方の最深部を知りたい。深海の底まで貴方と一緒に落ちたい。貴方と深い関係になりたい。でも不快にさせたくない。私だけ深い谷底に落ちるのは嫌。その時に急に閃いた。貴方が先に落ちればいいのにって、深い沼に。「突然なんですけど、私は貴方が大好きです」

矢樹諦(サイトからの投稿)
手帳を書くのがあまり好きではないくせに、最近手帳を買った。ボールペンの色とかスタンプを押したりとか、流行っているから気になって買い集めたらこうなった。特に書くこともないからシールを貼って間を埋める。朝から深煎りのコーヒーなんかいれちゃって、何か、悪くないかもしれない。

矢樹諦(サイトからの投稿)
まだそんなに遅くないと思っていたのに、外は深い紺色に覆われていた。長袖を着てきたのに少し肌寒い、風もうんと冷たくなっていて季節が移り変わるのを感じる。暑かったあの日より月も星も綺麗に見えて、不思議と笑顔になる。やっぱり私に太陽は眩しすぎるのだ。

Shomin Shinkai(サイトからの投稿)
先生、久しぶり!やっぱり先生のクラスは明るいね。先生明るい雰囲気が好きだったもんね。ところで先生、あれ見たことある?深作欣二監督のデスゲーム映画。そう、生徒同士の殺し合い。このクラスでやってみようか。私今デスゲームの主催者やっててさ……誰も許してないの。あの時の先生も、クラスも。

矢樹諦(サイトからの投稿)
親と喧嘩した夜は真っ暗な部屋で床に寝ることが多い。冷たいフローリングが頭を冷やしてくれる気がするから。涙でびしょびしょになった顔が、弱々しく続く口呼吸が、冷たい。リビングで弾む声が聞こえるたびに心が沈む。一人だけ深く遠いところに落ちていくみたいだ。

右近金魚 @ukonkingyo
「深淵」に遭遇してしまった。ふさふさと闇を纏い星座のような光が時折しっぽに走る。出会ったら、もう黙って取り込まれるほかない。そこで私達は本当の姿になる。羽根を得る者、醜い角を生やす者もいた。まだ準備なんてできていない。けど私は深く息をする。この闇の奥の奥から、光を掴みとってやる。

かまどうま @nekozeyakinku
「きて」
そういって、
あのこはわたしにてをのばす。
このはのみどりのこいこもれびが、
ふたりののばした
ゆびさきのかげをつくる。
深い黒。
えがかれるかたち、
きのえだみたいに かぜにひとゆれ。
そのあとはもううごけない。
わたしたちは、じゅもくになっていた。

@AoinoHanataba
一緒に、探して。
幽霊の少女が僕の家に来た。だが、何を探して欲しいのか分からないらしい。とりあえず一緒に過ごした。遊んだり、ご飯を作って食べたり。孤独だった日常に彼女が増えた事によって、心身共に深く満たされた。
見つかったわ、ありがとう。
少女はやがて笑顔で去っていった。僕の心は、

otodayori @kou_novelmusic
左は白藍に溶入る紅霞。右は深藍に浮上る月代。今日がまた沈み往く。いつか、太陽になりたいと願った。月にもなれなかった私は、爪先に軸を預けた。
左は薄月。右は落陽。切り刻まれた制服に纏われ、宵闇に沈み逝く。チャイムが響いた。明日、私がいない教室を想う。
ざまあみろ、これが私の復讐だ。

あきら @akirakekunote
砂利の上に、死んだオニヤンマがおちている。夏の間空を抱いていた羽は深く透きとおり、アキアカネが秋空を無数に泳いでいくのを、大きな眼で睨みつけている。あれだけきらめいていた夏が、呆気なく空っぽになりそこにおちていた。鮮やかな秋に責め立てられ、わたしは恐ろしくて、母の手を握る。

朝本箍(サイトからの投稿)
深夜高速道路、電灯が星、ありきたりな考えに笑えば同僚の首が傾く。星、オレの指先で察したらしく、頷いてフロントガラスを指差した。何、判らなさに眉を寄せると、明日。この先にあるのは明日、大事なことらしく二回呟く。そうだな、アクセルを踏み込んで明日に近づく深夜。

あきら @akirakekunote
この命のひとつまえは森でした。そのひとつまえには旧い家の扉にはまる硝子でした。脈々と、意味をなさない永遠の連続性の中にわたしの魂は深く深く織り込まれ、今生のたったひととき意識と自我を持つヒトになりました。人差し指から再びほどけていく感覚。この次は、あなたを暖めるマフラーになりたい

朝本箍(サイトからの投稿)
深海魚みたい、いつかの第一声が消えない。訳もなくそう感じたの、理由などあってなきが如く、あなたは常にそうで、それこそ理由のようだった。深海魚みたい、それは私じゃなくあなただった。悲しみの深度は計り知れない、流れる涙に終わりはない。冷えた身体がふたつ寄り添う。

天願詩都 @sizubook
金木犀の香りがした。不意に懐かしい貴女のことを思い出す。
笑った時に見える八重歯。「お帰り」と優しく出迎えてくれる声。お菓子を口一杯に頬張る顔。抱きしめた時、微かに香る金木犀のシャンプー。
匂いは記憶に深く結び付くらしい。僕にとってこの香りは貴女だ。今も昔も変わらずに大好きな香り。

冬林 鮎 @fybys1_ayu
一等星はひとつだけ。明星を探す冷たい鼻先を、煙ったい金木犀の香りがなでて過ぎました。
「石は故人と同じだよ。何も応えず、ただ静かにそこに在る。死んだら星になるでしょう。星は大きな石だから」
優しかった貴方はどの星になったのでしょうか。深縹に明ける中、私は独りお星参りの帰路に居ます。

kai(サイトからの投稿)
穴がある。

とても深く底を知るのは不可能だろう。
童が孵化した芋を穴に投じた。
すると不可思議なことが起きた。穴から金貨が出たのだ。
噂は忽ち広がり、大人達が付加価値を求め穴に物を捨てた。布貨を投じる者までいた。

暫くすると穴は消えてしまった。やはり人の悪意は負荷が大きい。

kai(サイトからの投稿)
ゴォ―――――
エスプレッソマシンの甲声と共に眼を覚ます日々が続いていた。ゆりかごから今までずっとだ。
深い眠りから強制帰還させるその過保護な声を五月蝿く思っていたのだが、今となってはそれすら懐かしい。

携帯のアラームが気まずそうに鳴っている。
さあ行かん。わが戦場へ。

kai(サイトからの投稿)
人生の半減期が来た。
深みある半生だった、嘘である。
如何せん実験だけしていた。後悔こそゼロだが、空んば行きたかった等、他の思想あった。その場合、意義ある半生だったろうか。
だが一回性こそ人生の醍醐味だろう。
言葉足らずだがウランの半減期が来たとて、このガイアと月の関係は一定だ。

KonKe(サイトからの投稿)
私は人とすれ違うことから始めた。あの日と同じダウンを着て外へ出てみる。ポケットに入れた携帯がブルブルと鳴りながらちょっとだけ歩いてみた。もう息があがっている。向こうから人がやってくる。私は少し離れてすれ違う。脇腹にある深い傷跡が見えないように。

多福(サイトからの投稿)
深緑色をした長楕円形のやや肉厚な葉がますます艶やかさを増す。
築45年の実家が売れた。
父母が亡くなり、姉妹もみな嫁いで行ったその空っぽの家に、
久しぶりの外気が隅々にまで行きわたる。
玄関横で主人の気配を感じながら、椿は今年も花をつける。
新たな住人は喜んでくれるだろうか。

多福(サイトからの投稿)
抹茶をすする君の背中はいつになく丸い。
枯山水の庭に乾いた空気が漂う昼下がり。
縁側で足をぶらぶらさせながら、ふと思いついたように呟いた。
辞めようと思う、仕事。
踏石の傍に遠慮深く生える苔が深く染まっていく。
君の涙を受けた箇所だけ色濃く変わる、その様子を笑顔で見守った。

多福(サイトからの投稿)
コインパーキングの青白い光。
深爪を無理に噛む君の黒目がジロリとこっちに向いた。
観察ノートにようやく現れたTの文字。
またうつむく君が教えてくれる。
満月らしいよ、今日は。
見上げた首が少々痛い。
次は1時間後ね。
一か八かでYと書き添えてみようか。
君のヒントは少なすぎる。

Garashi, @garaship
彼女は大将が加熱しすぎたパサパサのもつ串を食べて「少しクサいくらいが良いよね」と言った。僕は彼女の気遣いに感謝しつつ、程なくして、書くことも、どうにもならない過去を少しは許せる思い出に変える作業だよなと振り返る。クサいくらいが良いと言える懐の深さを持てれば多分人生はウェルダンだ。

緒川青(サイトからの投稿)
足に深くガラス片が突き刺さる。彼の大切な薔薇のガラス細工を粉々にした。ガラスの花びらは、私の血に塗れていっそう綺麗だった。
(さようなら)
そう言い出したのはどちらが先だったか。彼との別れは、私の一部をもぎとるのと同義だ。だから、彼の一部も、ちょっともらって別れるのだ。

10月25日

ぽかぞー @pokapoka_pokazo
その湖の深さは愛に比例する。あなたと過ごす時間が長くなればなるほど、どこまでだって深くなる。溺れるくらいに深くなる。できるなら外の空気など吸いたくはなかった。溺れたままでいたかった。干上がった湖の底、あなたとの思い出がほらこんなにも苦しそうに、ぴち、ぴちと跳ねている。誰か掬って。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
夜は静かに深まってきていた。焦れば焦るほどに方向感覚が狂う。かじかむ手でマッチに火をつけると、友人の幻想が浮かんで自嘲した。これじゃマッチ売りのなんとやらだ。このまま凍えておっちんじまうのか。すると幻が、なに悲劇のヒロインぶってんだ、と俺を小突いた。「キャンプ場で迷子になるなよ」

@maki_text
ひと仕事終えて夜の繁華街を歩いていると、すれ違った男女の会話が耳に飛び込んできた。左眼の赤い、人間の形をした魔物が週末の夜に人を襲う。同じような話をさっきも聞いた。噂がたちまち街じゅうに広がっている。ここももう安全とは言えない。僕は帽子のツバをぐいとひっぱり、目深にかぶり直した。

@maki_text
何かに導かれるように入った路地裏の見知らぬ骨董屋で、濃い青色の木箱が目に留まった。蓋を開けた中には水が満たされていて小さく波が立ち、かすかに潮の匂いがする。これは海だという店主の説明に試しに手を入れてみると、どこまでも深く入る。私はそれを買って帰り、灰となった彼女をそこに撒いた。

Sawadamaki(サイトからの投稿)
子供の頃、母にしっかりしなさいと言われる度に自分が嫌いになった。大人になり私も子を持った。子に自分の姿を重ね、つい、しっかりしなさいと言いたくなる。母と同じ立場となり、母の言葉が否定ではなく私の幸せを考えた深い愛の言葉だと気付く。しっかりしなさい。だが心に根付いた鎖は外れない。

穴ゃ~次郎(サイトからの投稿)
例により深く屈み、ケアした一時を想いつつ、未だ見ぬ若い御姿に胸を踊らせ遺影を仰ぎ見た。数多の飲み比べや恋敵に勝ったとされる、半世紀前のナンバーワン嬢が染み入った。後日夜長を語らう中、実は駆け落ちの際に袖にされた方だったと判り、内縁夫の名を呼び捨てにし、三人、笑って泣いた。

飛龍さつき @ryuhi_T
近所を散歩した時、ふとキンモクセイの香りが鼻腔をくすぐった。
「お母さんね、この匂いが好きなのよ」
母と外出すれば、小さな橙色を見つけると必ず足を止めてゆっくり深呼吸。その横顔は今でも脳裏に張り付いている。
あの時の母と同じように、深く息を吸って、吐いてみた。
(……わたしは苦手だよ)

貴田雄介(サイトからの投稿)
もし生きていたら今年で二十二歳になります。父と二人で切り盛りするその中華料理店の女性店員は初対面の僕たちにそう話した。僕たち夫婦が生まれたばかりの娘を抱いていたから娘が彼女の二十二年前の記憶を引き出したのかもしれない。僕たちは絶句し、ただ深く頷き彼女の言葉に耳を傾け続けた。

草野理恵子 @riekopi158
空色の壁の美術館に入る。何の展示だったのか入った途端に忘れ、辺りは急に暗くなる。色とりどりの折り紙が単純な形で展示されている。折り紙が手を伸ばし私の体を掴み、その小さな手を付けたまま帰途につく。深緑色の川面に魚が小さく跳ね、折り紙は魚を掴もうと手を伸ばし地面に落ち、踏んでしまう。

しもむら(サイトからの投稿)
血と汗に代え手に入れた星々は、流れ星となり輝かしくも騒がしい空へと吸い込まれる。だんだんと懐が寒くなり、更なる深みに嵌まっていく。正常な判断はもうできない。酸素も薄まっているのか。空どころかこれでは海のようだ。手元の星が尽きて、はっと我に返った。まるで深い夢から覚めた時のように。

草野理恵子 @riekopi158
「関係ないからさ帰ろう。触っちゃったりするとほらあれじゃん、感染とか」彼は言った。凍っているような海辺だった。ラバースーツのような深緑の人型が真っ白な玉を抱いて倒れていた。海面にも同じ物体が沢山揺らいでいた。白い玉だけが昇り物体を上空から照らした。終りを内在した入れ物が光った。

如月恵 @kisaragi14kei
未明、猫に起こされた。小さな灯りを点けると眩しげに目を細める。猫は深い闇を見通し遠い声を聴く。夜明け、鳥の声が聞こえる。鳥は空を広く見渡し、紫外線までも見る目で光を深く知る。猫でもなく鳥でもない私は哺乳類でありながら闇を見通せず、鳥類でないのに色を見て、闇と光の間に立っている。

山尾登 @noboru_yamao
深夜帰宅途中、警官2人に呼び止められた。「その自転車は、あなたのですか」ボクは戸惑いながら「いえ」というと。明らかに2人の表情が変わった。犯罪者に思われたのだ。狼狽するボクは「いえ、アッ!そうだ、私のものです」事態はますます悪化。深呼吸をして「いえ!家内のです」と嫌疑を晴らした。

10月24日

本宮笙太(サイトからの投稿)
公園で深々とお辞儀する男を見つけた。しかし、男の前には誰もいない。「誰にお辞儀しているのですか」と私が聞くと、男は、「地球にいつも汚してごめんなさいと詫びているのです。しかし、今日は機嫌が悪いようで、なかなか話がつかないのですよ…。すみません。え…、もう今度は許さないですって?」

秋透 清太(サイトからの投稿)
毎年、秋が深まるころに同じ記憶が甦る。幼い私、町を染める夕焼け、金木犀の香り、そして、小さな私の手を包む温かい手。きんもつせー!娘の明るい声が澄んだ空気に溶けてゆく。右手で指差す先には、橙色の花が鈴なりにはじけていた。繋いだ左手は少しだけ冷たい。今は私が、小さな手を包んでいる。

pepo @mintdoordoor124
あなた達は地上で暮し、私達は地中へ移った。茸の森の腐葉土の下深く。
地上の煤煙、地下の人熱れ。息苦しさは同じだと、あなたは嘆きを綴って寄越す。
確かにそうね、換気孔は役立たず。
だけど地下では茸が光って足りない空気を胞子が満たす。
私達は楽しくなって踊る。
あなたが言うほど悪くない。

pepo @mintdoordoor124
バインダーのクリップに仕掛けた装置が、うまく作動するといいんだけど。
執務室の前で警備員のボディチェックを受けてから、中に入って扉を閉める。幾つか機密を報告した後、バインダーごと書類を差し出し深々とお辞儀して退室。
そして急いで官邸を出て起爆スイッチを押した。
私の上司は独裁者。

pepo @mintdoordoor124
我ら熊には一頭に一羽、それぞれ憑魂がついている。どれも主に懐いて可愛い。
ところがお茶の時間に来た狼が一羽残らず屠ってしまった。血の惨事。
我らは狼を縛り上げて卓に載せ、皆で囲んで話合う。殺せと言う者、許せと言う者、深い悲しみ、燭の炎が尽きる。
闇の中で狼の憑魂がすすり泣いている。

@Z9hmdBIPGCSspEx
悲しい時は深夜にアップルパイを焼く。林檎をくたくた煮るうちに悲しみもだんだん透き通ってきて、しまいには飴色に成り果てる。情け深いパイ生地の表面に×をつけて焼くと、甘くなった悲しみの匂いが夜に溶けてゆく。パリパリと平らげれば、明日には生きる糧に変わるだろう。そうして私を作るだろう。

@Z9hmdBIPGCSspEx
もう恋なんてしないと決めていた。深い深い夜の底まで潜ってゆく鰭に、溜息の泡がまとわりついている。沈む私と浮かぶ泡。昇ってゆく泡がぱちんと割れると、中から恋が溢れ出した。波間に揺れる後ろ髪に絡みつく恋をほどく。所詮世界が違うから。地上のあの人の耳に届かぬように人魚は夜しか歌わない。

憂海 @kiyu77777
空き缶と吸殻と弁当の容器が散乱した部屋で、今日もキラキラした他人の人生を観察していた。「己はあちら側になれなかった」という現実に深く傷付き、徐々に自分の心身も周囲のゴミへと同化して行く。
それでもこの部屋では手元の画面の中が1番綺麗だから、きっと明日も明後日も見るのを辞められない。

亜鉛(サイトからの投稿)
一年という約束で妖怪に目を貸してやった。渋々の決断だったが、存外楽しい
深々と降る雪の音 桜を運ぶ風の優しい手触り 深夜の蝉の断末魔 肺を侵す少し鋭い空気
全て、こんな都会の四畳半で味わえるとは思っても無かったものばかり。そろそろ約束の一年。アンコウ鍋でも用意して待っといてやろう

10月23日

葉山シュロ @shuro_palmiers
「深川めしを食べに行こうよ」
深川めしを食べたことがない、という僕に彼女が連れて行ってくれた食堂。
「アサリがたくさん入っていて、美味しいんだよね」
運ばれてきた丼の蓋を開けながら、彼女が言う。湯気に混じって、出汁の香りがふんわりとただよう。下を向くと、アサリと目が合った気がした。

やまなつ(サイトからの投稿)
「痛っ」人差し指の爪と皮膚の間から血が滲む。指を咥えると口の中に血の味が広がった。また切りすぎた。深爪になった指を見る。ピアノはもう随分前に辞めてしまったのに、爪を短く切りそろえる癖だけが消えない。白く固い鍵盤に触れることのなくなった私の指先。代わりに白くやわらかい頬をなぞった。

鈴木雄太(サイトからの投稿)
真っ暗な深海で光る生物がいる。追いかけると逃げ、追うのをやめると逃げるのもやめる。この光は夜空の星よりも強く輝き、それなのに柔らかい光である。光る生物は『ここまでおいで』と言ってあっという間に遠くへ行ってしまった。

泉ふく @fuku_izumi
気温の落ちた秋夜。白いカップに深紅の液体。液面に映る君は、先程まで寒空の下で彼を待っていた。いくら待っても彼は現れず、君は1人、この店へ。
外が寒かったからか、彼が現れなかったからなのか…そんなことはどうでもいい。
今はただ、赤くなった君の顔を、この香り高い紅茶へ溶かしてしまおう。

七月夕日 @twilight_7moon
楓の葉は黄と紅の中間色へと染まっていた。紅葉色だ。季節は秋へと深く足を踏み入れている。メールの着信音、『四十九日法要に行ってきた』の文面。いつか共に見た季節を思い出す。そうだ、祖母に教えてもらったんだ。この美しい色の名は。滴る雫が地面にぽたぽた。ああ、もうあなたはいないのね。

野々村あこう @nonomura_akou
「めっちゃ不快」
ふいに彼女は言う。
「え? 嫌だった?」
私は隣に腰かけて、持っていたアイスクリームを差し出す。
「違う違う、不快じゃなくて、深い。来てよかった」
今日、私は双子座流星群を見に来た。
彼女と二人。
「ってか、この時期にアイス?」
風邪ひくよ? と彼女は笑う。

野々村あこう @nonomura_akou
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」
これは確か、ニーチェの言葉だっただろうか。
都会の空に、星は一つも見えない。
目を凝らし、どんなに天を見上げても、輝きの一つも現われやしない。
まやかしの夜景に惑わされて、上京してきたあの頃を思い出す。
もう、帰る家は無い。

憂海 @kiyu77777
戦地から戻った兄は気が狂ってしまったようで、毎日何も喋らず食事も摂らず、微笑んでいるのみ。生きて帰って来てくれただけで良いと思い直し、少女は諦めずに話し掛け続ける。通り掛かった隣人が深い溜息を吐き、呟いた。
「あの子また1人で喋ってるわ。お兄さんが戦死しておかしくなっちゃったのね」

春うか @UkaHalu
見栄っ張りの奥深くに押し込めていた弱気の虫が、咳をした拍子にコホンッと飛び出して、それが矮小な蚕であることを知った。独りでは生きることさえままならない籠の虫。掌にのせてそっと力を込める。次は蝶になるといい。薄様の翅をしなやかに翻して、どこまでも飛んでいけたら。そうしたら、私も、

朝本箍(サイトからの投稿)
深海から見上げる漁火、あなたを孕む影。喧騒と活気に混じる声へ無い耳をそばだてて眩しすぎる目を閉じる。銀鱗がいつかの雪らしく剥落しては、溶けていく。冷たい肌に喜んだ時は遠く、温かな頬に泣いた日は近い。また、あなたの今は叫ぶ。わたしはここで待つの、落ちてくる日。

こしいたお(サイトからの投稿)
またお客さんがやって来た。「あの…」「どうぞ!」聞けばお迎えが来ないという。僕はかつて一番信じなければならない自分自身を裏切った。生きる気力を失い、衝動的にタクシーごと海へ飛び込んだのだ。現世と常世の狭間を彷徨う子羊たち。そんな彼らを愛車で天国へ送り届ける。それが罪深い僕の贖罪。

想田翠 @shitatamerusoda
深夜まで勉強していると、母が夜食を作ってくれた。基本的に温かいうどんかおにぎりで、たまに登場する焼うどんの特別感ったら…。踊る鰹節が回想を連れてきた。階段を上がる足音を聞いて、今頃慌てて漫画を隠しているはず。経験者だからわかる。それでも、「味方だよ」のエールを送る心は変わらない。

Garashi, @garaship
青黒い海。ダイレクトな日差し。秋の冷たい風。酸味がかったビール。好きな人しか視界に入らぬ世界。理想を追わないのは勿体無いと週末決意を改める。そしてまたどうしようもなく現実を写しだす平日へと飛び込む。週の比率は二対五だから人生は多分切ないヨリ。それでも僕らは深度に突破口を見出して。

大場さやか @sayaka_ooba
眠れなくてスマホを光らせる。画面に触れてふいに開いたラジオのアプリから、低めの声が聞こえた。「頑張らなくていいんだよ。本当の願いなら無理しなくてもできるんだよ。私はそんな感じで、今、歌えてる」流れだした歌が耳元で小さく鳴っている。「頑張らなくていいんだ」つぶやいてみる、深夜二時。

10月22日

名瀬 ふう @fuuuunase
深海で彼に会った。
「やあ、元気?」
「元気なわけない」
「だよね」
「どうしてこんな所にいるの?」
「なんだか海の底が恋しくなって」
「連れて行って欲しかった」
「ごめん」
「嘘つき」
「愛してる」
私は一人で陸に戻った。
言葉はいらない。
あなたの一番深い場所に、触れさせて欲しかった。

二郎丸 大 @JiromaruHiroshi
もう時間がない。あの人の心に残るような深いことを言いたいのに。
「あなたの唐揚げが好きでした」
違うな。
「あなたの存在がご馳走様でした」
全然違う。
行きつけの定食屋が閉店する。最後の唐揚げ定食も食べ終えた。
「オヤジさん、やめないでください!」
「もう手が動かないんだ。ありがとよ」

神崎鈴菜 @suzu_nasuzusiro
軍帽を目深に被り、遮ったのは真夏の陽射と君の泣き顔。「冬までには帰ってきて」約束を果たせぬまま、項垂れた目に映るのは地獄花が並ぶ滑走路。「まだ帰れそうにないな」キャノピーを閉じると押し寄せる孤独感。上昇する轟音に消えた叫び声。冷たい操縦桿ではなく、温かな君の手を引いていたかった。

二郎丸 大 @JiromaruHiroshi
私の心の奥の深いところから声がする。
「このままでいいの?」
そんなの、まだ分からない。考えたくもない。今はまだ夢の中にいさせて。
こんな世界があるなんて知らなかった。朝、目が覚めたら自然と歌い出してしまうの。私、アイドルになるべきかしら……。
「ミキちゃん!幼稚園、遅刻するわよ!」

二郎丸 大 @JiromaruHiroshi
秋の過ごしやすい気候に気を良くして散歩していたら、ぬかるみにズボッとハマってしまった。肩まで浸かって首だけ出ている。相当深い。
軽くパニックになっていると、「大丈夫ですよ」と言う声がする。首を動かして周りを見ると同じ境遇の人がチラホラ。
なんだか身体がポカポカしてきて気持ちがいい。

四条藍(サイトからの投稿)
私は深い眠りについた。ベッドの代わりに無機質な機械に包まれて。100年に及ぶコールドスリープ。肉体はそのままに、ただ時間だけが過ぎていく。
未知の病を治すため、隣で同じように眠る妻が目を覚ましたとき、いつものように「おはよう」を言ってくれる人がいないと、きっと寂しがるだろうから。

水原月 @mizootikyuubi
行ったことのない地下深くの世界を開拓するのが好きだ。鳩仲間たちには笑われるが、かまわない。
今日は駅の地下に足を踏み入れる。人間たちが少なくなる時間にホームに降り立った。果敢に階段を下りていると、隣の人間が僕に付いてくる。この人も冒険がしたいのだろう。胸を張って相棒を導く。

灯月晃(サイトからの投稿)
話がしたいと友人から数年ぶりに連絡があった。これはあれだな。さぁドケチな私をどう勧誘するのか楽しみだ。
そして当日。「久しぶり」と他愛ない会話が続き、本題に入った。ひとしきり話を聞き「考えさせてくれ」と答えた。
数日後。口車に乗せられた私は落ちていった。推しという沼の深みへ。

otodayori @kou_novelmusic
虫食いの落葉を拾った。その穴を覗きながら、君に豪語した。「ぼくには幸せな未来が見えるんだ」
25年後、30になった僕はまた、虫食いの落葉を拾った。穴に目を凝らすと、君に似た娘が破顔し手を振った。視界が滲む。深い蒼穹を仰ぎ、そこにいる君を偲ぶ。僕は嘘をついた。
…この子は幸せにするよ。

友川創希(サイトからの投稿)
 霧が俺の周りにまとわりつくみたいに邪魔をして前が見えず混乱している。慣れてないのにもかかわらず、こんな深山に来てしまったのが原因だろう。でも、俺はどうしてもこの山から朝日の写真を撮りたいのだ。だって、ここから遠く離れた病室で彼女が頑張っているのだから。

Shy-da(シャイダ) @Shyda_ss_7
今宵は月が美しい。夜空に瞬く星々も綺麗だ。遠く離れた地で、あの人もこの宙を見上げているだろうか? 汗ばむ夏祭りの夜、一緒に見上げた花火は想い出として心にずっと刻まれている。愛していたあの人を忘れられず、叶わぬと知りながらもまた逢いたいと願う私を他所に、秋はゆっくりと深まっていく。

madder(サイトからの投稿)
月明かりと星々が辺りを優しく照らす頃、シャカシャカと軽快な音を立てながら真夜中のお遊び。束の間窓の外をふと見ると、隣の家の窓辺に月明かりに揺られながら筆を持つ人影が。何を描いているのかな。音が止んだと思ったら隣の家から良い匂いがしてきた。何を作っているのかな。秋深し、隣はなにを。

チアントレン @chianthrene
怒ってないよ。君は何もしてない、全然変わってないし。ほら、俺舌バカだからさ。今。唐揚げに深い愛とかないし。同じだってこんなもん。ちょっと湿ったなってくらい? いやいやいや別にカリカリを求めてないって、ジューシーなのが良いんでしょ最近はさ。美味しく食べてよ、君の好みになったんだろ?

チアントレン @chianthrene
世界のすべてを欲しがる業を抱えた赤子が生まれる運びとなった。自動政府は保育器が空くや否や完全密封型の幻覚装置で取り囲み、その寸法を当該生体の最大長に整えた。全生命の幸福は政府の第二位義務である。第一位に背かない限り、欲深き人間には手に入る大きさまでの世界しか与えることができない。

此糸桜樺 @Konoito_Ouka
「迷ったなあ」山菜採りをしていたら、知らぬ間にこんな山奥にまで来てしまった。木々の隙間からは既に緋色の夕焼けが見えている。日が落ちる前に下山しなければ。僕は半ば導かれるように、夕日のもとへと足を進めた。すると突然、木々の密集が途切れた。ふと足元を見れば、そこは深い谷底だった。

Garashi, @garaship
「出かけよう」「どこ行くの」君は不思議そうに問い返す。目的も無くただ君とプラプラ歩きたかった、と白状するのが恥ずかしく0.2秒で咄嗟に答えた「月でも見に行こうよ」がもっと恥ずかしかった。昔の人も、理由は足りないけど誰かと居たい深夜、月や星に一緒に居る口実をなすりつけていたのかな。

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