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秋の星々(140字小説コンテスト第4期)応募作 part1

季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。

秋の文字 「深」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局

10月31日(火)までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去の受賞作などは以下のリンクをご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。

優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。

雑誌「星々」既刊ご購入▼


応募作(10月1日〜7日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

10月7日

迷路メィジ @Akumademeiji
あの人を目指して、進路を同じに変えて髪型を変えて言葉遣いを変えた。あの人好みになって、あの人からも愛された。
もっと愛を深めたくて、髪型に合うようアレンジして、キャリアを積んで、人のを動かす言葉を選んだ。
理想に近づいた私から、あの人は離れていた。私の空虚は深いのに満ち足りていた。

灯月晃(サイトからの投稿)
秋分の日を過ぎてから、徐々に夜が深まっていく。酷暑と呼ばれた長い夏は終わりを迎え、ようやく季節が進んだ。夜になると吐く息が白さを帯びる。残暑の余韻にひたる間もなく、秋を楽しむ時間もないまま、ひと足もふた足も早くせっかちな冬が顔を覗かせた。

つゆくさ(サイトからの投稿)
21歳の秋、恋人が消えた。いつも私だけを見てくれた。いつでも優しく抱きしめてくれた。そんな彼にかわって、頭に浮かんでくるのは笑顔の友人。何を言うのかわからない。何を考えているかもわからない。それでも私は、あの笑顔だけで2次元の深い沼の中から引き戻されたんだ。はぁ、彼に会いたいな。

一ノ瀬(サイトからの投稿)
「ねぇ、キスして」たった六文字の言葉で私を魅了させる。「恥ずかしいから無理」と言っても彼はきっと深くキスをする。私が拒むと分かって言っているから。彼の思い通りにはさせないと、背伸びをして近くに行く。二十センチという差は大きく、体が震える。チュという音が鳴り私は言った。たまにはね。

美咲(サイトからの投稿)
秋の人事異動で地元に帰る。出会ってくれてありがとうって最後に言えるだろうか。彼との会話、一言一句覚えている。好きで好きで仕方なくて、その好きの気持ちは、あらゆる嫌な気持ちを吹き飛ばす威力があった。離れられてよかった、好きがもっと深くなる前に。届かないなら、届かない所にいればいい。

リツ @ritsu46390630
深夜に食べたいちご大福は味がしなかった。いつもは夕食の後にお茶を飲みながら味わって食べるいちご大福を、今日は作業として食べた。長すぎる夜の過ごし方が分からなくて食べた。気を紛らわすために食べた。鼓動を落ち着かせるために食べた。美味しくて幸せな思い出に上書きされて、悲しくて泣いた。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
少し角が丸い風を深く吸いこむと、肺に透き通った朝が流れこみ波立つ稲の薫りが鼻をかすめる。あの地はアスファルトの下へ消え、あの人は空の上。そのあいだを随分歩いてきたものだ。思い出すたびに胸が締めつけられても一生手放すことのない記憶が、今日も私の足を前へ進める。ほてほてと生きるのだ。

早希子(サイトからの投稿)
朝方、散歩に出かけた。私は深呼吸をする。澄んだ空気。ひとけもなく、まだ深い青の下を歩く。ポッケに入っている飴玉を取り出し、口に運ぶ。年齢を重ねて、出た白髪を、いつ染めようかと考えたり、服も、年齢相応の物って、どんな物?と歳を重ねた指でスマートフォンのグーグルを開く。深い青の下で

早希子(サイトからの投稿)
猫が、子供を連れ家にやってきた。やがて飼う事になった猫。餌を求めて、何度も顔を出していた。深い目をしている。野良猫、特有の目。星を求めて、ここに辿り着いたのだろう。日が経つにつれ、毛色が変わった。こんなに綺麗な白い毛だったんだね。青空の下、毛繕いに夢中。その後、深い眠りについた。

早希子(サイトからの投稿)
コップの中には水が入っている。コップに差し込む光で、深い海のように見える。私は窓を開けた。星が、一つ、二つ、数えようとすると、数えきれない程に、星が見える。深い青さと共に、深く息を吸い込んだ。そのまま、寝っ転がりたい気持ちが胸に広がる。時間が止まっているような感覚がした。

雪菜冷 @setsuna_rei_
飲み会帰りの浮遊感は歩き方を忘れた人みたい。靴も靴下も脱ぎ暗い床を歩けば冷たすぎて溺れそう。目が回る中ポットの準備。キャンドルをつけたっぷりのミルクティーを注げば空っぽの私が満たされる。空は流星群。私の頬にも流水群。コンビニで買ったプレミアムチョコを頬張り深く沈む夜を乗り越える。

10月6日

御二兎レシロ @hakushi_tsutan
「月が綺麗ですね」ベランダで夜空を眺めていた私に、夫がぽつりとそう言った。そう言ってすぐに「……別に深い意味はない」とそっぽを向いた。このぶっきらぼうが私に敬語を使うなど初めてだったが、その耳が赤いのはきっと、右手の発泡酒のせいにするのだろう。それはある秋の、新月の日の事だった。

草野理恵子 @riekopi158
君の島に辿り着いた。坂道の先に灯りがひとつ見え、君が書き物をしていた。僕が来ることを知っていたという。君は寝巻の上に夫のシャツを羽織っていた。袖が擦り切れていた。彼女はインクが出ないと言ってペンを勢いよく振った。僕の腕に深々と刺さり赤と黒の混じった飛沫が君の夫のシャツを汚した。

藤和 @towa49666
深夜、熱燗を持ってベランダに出る。あれほど猛威を振るった夏はどこかへ消え去り、この時間になると寒いくらいだ。街灯の明かりを見下ろしながら熱燗を飲むと、コオロギの声がより一層響いて聞こえた。ここ近年の秋は短い。こうやって、白い月を深夜にのんびり眺めていられる季節もあとわずかだろう。

一途彩士(サイトからの投稿)
彼は吸血鬼だ。深紅で揃えたスーツ姿がトレードマーク。なぜその色か尋ねれば「僕は囮さ」と返ってきた。
「吸血鬼はこの色に目がない。僕がこれを纏っておけば君が襲われる心配はなくなる。……フフ、安心をし。吸血鬼の血はまずいんだ。それこそ死ぬほどね」
彼は赤い舌を悪戯っ子のように出した。

ブラックココ(サイトからの投稿)
『深く考えないでね、あの夜の事』
夏の日、生温い気温が生々しい感情を沸き上がらせ、恋人がいる相手に告げた。
すると彼は、少しの笑みと涙を見せた。
彼の表情を見て、その場から逃げだした。その日から彼を避けた。優しい秋の風に感情も落ち着き、 やっと言葉に出来た。ズルい彼が好きだ。

一途彩士(サイトからの投稿)
「地上に連れてこられても、深海魚は深海魚と呼ばれるんだね」
水族館の展示を見ながら彼女が言った。「そうだね」と頷くと彼女は頬を膨らませる。
「じゃあ私も天使と呼ばれるべきじゃない?」
天空から落ちてきた彼女は羽を失った。今はもうただの人間としか呼ばれない。それが不満なようだった。

一途彩士(サイトからの投稿)
彼女はタイムカプセルを地の奥深くまで掘って埋めてしまったそうだ。どれくらい掘ったか尋ねたら「地球の核にぶつかったから、そこでやめたわ」と返ってきた。
しかし、それは彼女の冗談だったのかもしれない。だって、もうそろそろ日本の反対側まで掘り終わる。それでも見つからないのだから。

雨琴 @ukin66
未踏の宇宙と深海と、どちらにロマンを感じるか。他人を理解するために、まず自分の正体を知る必要がある。外国語は魅力的だけど、まだ母国語だって満足に扱えない。丁寧に扱わなきゃ伝わらないのに。言葉って何のために使ってるんだろう。どこへ行っても結局、私は引きこもり。思考の海に沈んでいく。

雨琴 @ukin66
押入れの埃かぶった標本箱に鍬形虫が並ぶ。標本だけど虫ピン刺すのは怖くてできなかった。人間じゃなくても尊厳は感じた。死体になっても土に返さない私のことを恨んでたかい。一本欠けた足を見るたび勝手に励まされたなんて、虫がいい話だろ。どっちが人か虫かわかんねえな。深山鍬形は何も言わない。

ともろ @gotogohan555
連日の暑い夜が終わり、少し肌寒い夜。お気に入りの肌触りの良いパジャマに袖を通す。昼間に干したふかふかの布団に潜り、眠りにつく。
朝、穏やかな日差しと爽やかな空気を感じながら眠りから覚めて、深く絶望するの。もう二度と会えないあなたを思い出す。季節がめぐっても心は置いてけぼりのまま。

世原久子 @novel140tumugi
小さな背中が揺れる度に笑い声が漏れ、艶のある髪が陽を反射する。聞きかじりの大人びた言葉でも姉妹で囁きあっているのだろう。聞くでもなしにコーヒーを淹れれば、テレビから流れる旋律に拙い歌声を乗せ始める。あぁ、窓を閉めて。言いかけて止める。溢れ落ちていく夏の午後に深く浸れるように。

せらひかり @hswelt
辺りは暗く、とても静か。まるで深海にいるみたい。もう長いこと、息をしていない。頭の上を、ダイオウイカが通り過ぎていく。はるか海面の方では、鯨が歌いながらプランクトンを一網打尽にする。名前を呼ばれ、窓辺のありきたりの自分に戻る。急に引き上げられたから、意識は深海の気配を引きずった。

千隼ゆうか @m140ss
月から兎がやってきた。
「君は照らす人だから、沈むことはできないね」
褒めてるのか貶してるのか。淡々と兎は水溜まりに飛び込んだ。乾いた月面の潤し方を探すという。
後を追おうと足を浸すと、ペカペカした私の光が邪魔をする。
映しとられた夜空の底に逆しまの街。沈んでいく白い尻尾は遠く深く。

10月5日

雨琴 @ukin66
友達みんなの誕生日を覚えて深夜0時を回った瞬間にメールなんてしない。一番最初にお祝いを言いたいと思ってる大切な誰かができたかもしれない。だから朝起きてご飯を食べ終わった頃にメールは届く。「私の誕生日にはメールいらないから」なんて言ってたけど。それでも祝ってくれる人を探してたんだ。

泉ふく @fuku_izumi
もう秋だというのに、今からスキューバダイビングを始める。この時期はいい。海に人がいなくなり、魚達が深い海の底から浅瀬に上がってくる。透き通った青と色鮮やかな珊瑚に魚達。この文字列だけでも美しい。まぁ僕のお目当てはそれだけじゃない。この時期、深い海から上がってくる彼女に会うためだ。

ハッカ飴(サイトからの投稿)
夫とは「深い」愛以上の結びつき。彼なしに私は生きてこられなかった。それでも、高齢者のサークルで出会った彼にかすかに淡い恋心を抱いてしまう。なぜなのだろう。人生終盤、今一度、ほんのり甘い恋心のせつなさを堪能したいのかもしれない。男の人の横顔を素敵だなと思うのもこれが人生最後。

せらひかり @hswelt
小さな令嬢は深々とお辞儀をした。爪先を揃えて丁寧に。挨拶の後に、似つかわしくない言葉。どうか助けてください。面食らって、旅人は答えた。寒さで悪夢を見るなら、寝具を変えて部屋を暖かくしては。令嬢は首を振る。目が覚めた旅人は、宿の植木鉢を暖かい場所に移す。日差しの中で葉がきらめいた。

たつきち @TatsukichiNo3
眠れない夜は深い海の底を想う。言葉ではなくヴィジョン。光のない海の底で目を凝らす。少しずつ見えてくる。目のない魚や色のない甲殻類。それらがモソモソと行く先には大きな鯨の骨が横たわっている。生き物は皆そこを寝ぐらとしている。私もそこで眠ろう。肋骨の中で眠ろう。静かで優しい海の底で。

10月4日

松宮定家(サイトからの投稿)
ある時、秋はいなくなった。気付くと春もいなかった。エデンを求め宇宙へ出た人類は、その居住空間に四季さえ生み出した。でもそこに「深み」はなかった。地球と全ての生物の営みの中で生まれる不確かな時間こそ「深み」の正体だったから。人類が去った地上で、四季は再会し手を取り合って環になった。

荒金史見 @af_viz0319
水深500mを超えると、世界から色が消えた。750mまで沈むと、今度は音が消える。1000mで手足の感覚が消え、1250mを過ぎると『私』までいなくなる。水温36度に保たれた巨大な円柱水槽の中は、いつだって心地よい。ゆっくりと動く自動昇降機の上で、私は『私』に近づいたり遠ざかったりを、ただ繰り返す。

おどりばの橙 @orange___ohno
ガラ空きの腹に一発キマッた衝撃。音楽と踊る彼女はまるで閃光だ。隠し切れない下心に背中をどつかれる。
「パーティを抜け出そうよ」
って使い回した口説き文句。
彼女はダリアが開くときの香りを撒いて「坊やとは遊べないの」と優しく笑った。深く息を吸って、
「流れ星みたいな女」とやっと返した。

Soraうさぎ @sax_usagi
深い暗い森に迷い込んだ。

私は石に躓き、木に手をついた。木がさらさら揺れる。

その枝葉が隣の木も揺らす。ざらついた音が心を擽る。

そこに一迅、風が吹く。森全体が揺れ、ざわざわ、私を嗤う。

煙の匂いが風に運ばれてくる。火事。私は駆け出したが、木の根が足を絡めとる。また転けた。あぁ、

藤和 @towa49666
やっと仕事が終わって、ソファに深く腰掛ける。もうずいぶんと使い込んだソファだけれども、クッションはまだへたっていないからなかなかだ。ただ、気になるところはあると言えばある。飼い猫が膝の上に乗ってのびをする。そのままソファの肘掛けで爪とぎをはじめた。ソファはもちろんバリバリである。

Soraうさぎ @sax_usagi
ねぇ、織姫。
あれからひとつ、季節が変わったよ。
君はお仕事頑張ってるかな。
僕は先日、牛の世話で一着服が破れました。
新しく、君の織ってくれた服に柔らかく包まれて、深夜に疲れた体を休ませてるよ。
おやすみ。
追伸。夏は白鳥に頑張ってもらったので、秋からは手紙をペガススに託します。彦星

尾崎咲也 @sakuya_ozaki
ついこの前まで頭の中を占めていたのはただ「暑い」の一言。これほど不快な気温が続けば身体も頭も疲弊し、思考が浅くなるのも仕方ないだろう。だが「暑い」が頭を去った今、余白が生まれ、頭は何かを考えたがる。それこそ、文章でも書いてみようとなってくるのだ。私の思考は秋とともに深まっていく。

みなみの(サイトからの投稿)
祖父は星が好きな人だった。Newtonを創刊号から持ち、解像度の高い自前の望遠鏡を持っていた。小学生相手に星座や伝承ではなく星の成り立ちを説明するような人。「見てご覧」そう言った祖父の瞳に映る深遠の方が、望遠鏡が捉えたガニメデ、エウロパ、カリスト、イオより余程印象的に感じられた

イマムラ・コー @imamura_ko
ある日刑事が来て一枚の写真を僕に見せた。
「近くで強盗事件がありましてこの男を探してるんです。ご存知ないですか」
深刻な顔で言う。すぐにわかった。妻の初恋の人だ。以前写真を見せてもらった。今頃何してるんだろうなんて懐かしんでいた。妻に教えてあげよう。立派な刑事さんになってるよって。

甘衣君彩 @kimidori_novel
『深い意味は無いんだけど、魔法って信じる?』あの時「信じる」と答えていたら何かが変わっていただろうか。彼女を笑った僕は薄暗い世界を歩き続けている。今頃彼女はどこを飛んでいるだろう。寂れた電柱の前で呟く。「今だったら、信じるのに」「まだ間に合うよ」声の方を、僕は勢いよく見上げた。

皆川まな(サイトからの投稿)
絢爛たる冬の星たちが来る前の秋の夜空は深くて遠い。そんな秋の空にひっそりと瞬くフォーマルハウト。その昔、吟遊詩人が遠くの国々を漂泊していたが、彼の詩はすぐに忘れられてしまう。憐れんだ神様は、その光がいつでも寂しい人を慰めるようにと彼の魂を空にあげた。それが優しい秋の一つ星

みなみの(サイトからの投稿)
「結婚しないの?」同僚の言葉に私は空を仰ぐ。「私はひとりしか好きになれないからさー」不自然に言葉を区切ると、相手はそれ以上何も言おうとしなかった。帰宅して一人ベッドに転がり、繰り返し夢想する。私の最期にあのヒトが迎えに来る、そんな幸せな生の終わり方を深更に及ぶまで思い描いていた。

高遠みかみ(サイトからの投稿)
百均で買った深皿セットの底に偽ミッキーマウスが顔を見せている。スープを飲み干すたびに目があって気まずい。
ディズニーランドに行ったとき、娘が本物のミッキーを「うそ」と指さし、私は驚いた。娘にとっては百均の偽ミッキーが真実なのだ。
娘はミニーのぬいぐるみを皿ミッキーと結婚させた。

高遠みかみ(サイトからの投稿)
彼の母は深夜に生まれ、深夜に死んだ。父と先祖もそうだ。彼もまた深夜に生まれ、暗闇のなかで息絶えようとしている。彼は思った。この光のない呪いを断ち切ってやる、と。彼は抗ったが、家族が来る頃には息を引き取っていた。妻は「こんな早朝に亡くなるなんて」と泣き、彼以外が悲しんだ。

高遠みかみ(サイトからの投稿)
好きな映画監督:深海誠
私は彼女に話しかけた。
「自己紹介の紙、間違えてるよ。映画監督。深いじゃなくて新しい」
彼女は青いインナーカラーが入った長髪ごと振り返り、にひっと笑った。
「気づいた?」
きょとんとする私に彼女が言った。
「あんたみたいに面倒なやつが欲しかったんだぁ」

10月3日

JNNT(サイトからの投稿)
頑固だった父は意外にも手紙を残していた。期待などしていなかったが、ところどころ滲んだ字がさらにぼやけ、また滲む。ただの紙のくせに、ただの字の羅列のくせに、あの頃の乾いた日常を今更潤してくる。悔しさと感謝を言霊にのせる。いま、私と父の距離は深い。

JNNT(サイトからの投稿)
確固たる事実として、人生には終わりがある。キッチンに行って、包丁の先端を首にあててみるとしよう。現世での欲深い大儀が、私を生かす。私は生かされているのだ。あなたが大義を問うた時、死の恐怖は生きる意味になる。そうして終わりへの恐怖と闘う。それにしても、死ぬのは怖すぎるものだ。

春告草 @PXyVA5QaxwP6hy9
「深窓の令嬢」と、お嬢様はよく呼ばれる。なんて美しく儚い美少女だ、と。
「千草、ちぐさーっ!」
「お嬢様、千草はここに」
廊下で私を呼ぶ背に声をかけると、くるりと振り返って駆け寄って来られた。ああ、そんなに走られたらドレスの裾が汚れてしまうと言っているのに。
今日もお嬢様は元気だ。

東方健太郎 @thethomas3
ざらっとした心に、秋が訪れた。今年は、随分とまた暑い夏の日々だった。このまま、わたしも誰かを殺してしまうのではないか、と疑心暗鬼になっていた。それが現実のものとならなかったのは、図らずもやさしい人間がいてくれたからである。深い海の底から、あの人が手を振っている。わたしは無視した。

兎野しっぽ @sippo_usagino
ついに完成した。動物との意思疎通を図るアプリ。しかしどんな動物ともできるわけではない。これを扱うには、相手の動物と深い信頼関係が必要だ。
さっそく試してみようと、愛犬にスマホをかざした。
「今日も愛してるよ、ポメ美ちゃん」
丸い瞳の愛犬が首をかしげる。スマホはなにも反応しなかった。

雨宮 徹(サイトからの投稿)
私は深い眠り、コールドスリープから起こされた。外から揺り動かされている。きっと私を目覚めさせるためだ。早く外の世界に出たい。
しかし、外界に出ると、いきなり巨人の口が近づく。訳が分からない。絶体絶命だ。
その時思い出した。私はアイスクリームだということを。

MEGANE @MEGANE80418606
「私は、男の子同士の恋愛が好きです」少女は真剣な瞳で、全クラスメイトに向かって宣言した。最初は少女をからかう者もいたが、少女が「好きなの」と優しく繰り返すので今は誰もからかわない。僕は一度だけ「どうしてそこまで好きなの?」と聞いた。少女は深く目を閉じてから「好きだから」と答えた。

世原久子 @novel140tumugi
夜を切り取るような窓がひとつ。両耳を立てたウサギが一羽、赤い瞳で興味深げにこちらを見つめる。
この声は誰のものだろう。暗闇を見守るウサギか、光を辿る僕か、それとも夜の一番深い場所で謳う誰かか。
あの窓の向こうに僕は行けず、ウサギもこちらには来ず、ただ静かな語りが消えることもない。

水眠(サイトからの投稿)
深海魚みたいだね、そう言われた日の事をよく覚えてる。奥底の海へ潜ってマイペースに過ごして、人恋しくなったら浅瀬へやってくる生き方がわたしに似ているんだって。未だに海の底の暮らしを好んでるわたしより人間らしいなと思った。

水眠(サイトからの投稿)
誰かが私を呼んでいるような気がしてはっと目を見開いた。見覚えのある暖かさを感じる。だけど、いくら手を伸ばしてもそこへ近づくことができない。なぜなら夢から冷めてしまったから。冷たい朝の空気の中、深い溝にはまって取れなくなった子供のおもちゃのような気分だった。

雨宮 徹(サイトからの投稿)
深々と剣が私の体を貫いた。どこを刺された?
瞬時に剣が刺さった場所を見やる。左胸、つまり心臓の近くだ。
絶対絶命。血の気が引き、死を覚悟する。
その時思い出した。私は既に死んでいて、ゴーストだということを。

桜 花音 @ka_sakura39
学校の中庭にある紅葉の下で告白すると成就する。そんな噂を信じて連日その下では誰かが告白している。
大抵が人気ある人達で、ほとんど上手くいかない。なんだ、全然成就しないじゃない。そう毒づきながら、こっそり深紅の一枚をポケットに忍ばせた。
下校途中、よく遊んだ公園で幼馴染を待ちぶせる。

Soraうさぎ @sax_usagi
私の棲み家は真っ暗だ。
誰もが光を知りやしない。
だから私が光を与える。
すると皆が寄ってくる。
すっかり一躍有名人。

灯す光もエネルギーが命。
それがきれると口が開く。
すると皆がいなくなる。
そう、まるでブラックホールのように。

また皆を集める私は、
今日も深海に希望与える星となる。

熊野コエ(サイトからの投稿)
刻んだ深傷の痕を数えるたび、私は深層心理に潜る。深海の圧力は否応なしに私ごと押し潰す。苦しくて踠いて、顕在に浮上してはまた、重力と抱き合いながら落ちて行く。だから浮き輪が必要です、それか釣り糸。現実はいつも時間と抱き合いたがる。夢中で深呼吸する。大丈夫、私はまだここにいる。

10月2日

【第2期星々大賞受賞者】
へいた
@heita4th
嫌なことがあると爪を噛む。小さい頃からの癖だ。無意識にやってしまう。休日に大学の友人が来ると言う。久しぶりだ。残業明けだが食事に行く。笑い話。突然「無理してる?」と右手の先を手に取られる。指を見た。深爪に血が滲んでいる。とっさに隠す。「大丈夫」友人が言う。「大丈夫。また伸びるよ」

4423(サイトからの投稿)
いちめんに黄金が広がっていた。どれも深くを垂れている。「お世話になりました」と言わんばかりに。
私も深く頭を垂れる。
遠くのほうで、ばりばりばり……という無機質な機械音が聞こえはじめた。
彼らは見知らぬ誰かの命を繋いでゆくのだ。

七夕ねむり @nemuri_sleep
愛しい人が眠り続けている。もうずっと、数え切れない年月の間。自分が何歳になったかもわからず毎日を送る。食事をして薬を作りを繰り返す。諦めようとは思わない。彼が目覚めた世界が何百年後であろうとも。初めて自分の長寿に感謝した。必ず深い眠りから起こしてあげる。だって私は、目覚めの魔女。

泉野帳 @watage_0804
戻れずの橋を手を繋いで渡った。帰れずの洞窟も手を繋いで歩いた。私たちはどこでも一緒だ。洞窟の最深部で行き止まる。「もうどこにも行けないや」そう囁き合って毛布で二人でくるまった。母の暖かなスープを飲む夢を見た。翌朝、あの子はどこかに行ってしまった。一人残された私はどこに行こう。

桜 花音 @ka_sakura39
あなたと会った日の夜は、いつも以上に淋しくなる。楽しい時間を過ごす程、静まり返る深夜に思い出すのは、あなたの声と温もりばかり。
声が聞きたい。触れたい。抱きしめて欲しい。
だけど約束したから。
深夜に連絡しないって。
その理由は想像したくないのに。
こんな夜は色々想像してしまうの。

10月1日

@tatami_tatami_m
深く深く海の底へ潜るかのように高く高く、空へと上がっていった。轟音に体が包まれ、体が押し潰されるかのようだ。窓がないので外の様子はわからない。いや、液晶モニターが映し出してはいて既に地表がかなり遠いのがわかった。昔、犬がこうしてたった一匹で射出されたんだっけ、と気持ちが暗かった。

泉野帳 @watage_0804
九回裏ツーアウト二三塁。深く沈んだシンカーをバットでぶっ飛ばす。自信満々の投手の顔が歪んで、打球は彼方へ。二人帰って逆転だ。俺が今日のヒーローだ。母は試合に勝ったら、コロッケを作ると約束してくれた。しめた。チームメイトが歓声を上げて、駆け寄ってくる。まだまだ四番は譲らない。

泉野帳 @watage_0804
深皿が割れてしまった。僕は無残にも床に散った朝食と皿の破片を回収した。参ったなあ。この深皿は気に入っていたし、亡くなった恋人との思い出の物なのに。片付けていて、いつもの電車に間に合わなかった。いつもの電車は車と衝突したと、駅員が言った。僕は恋人はそういうやつだったと思い出した。

冨原睦菜 @kachirinfactory
天に届くんじゃないかと思うよな大木の下。誰もいない。口笛吹いてみる。ピィーのつもりはヒぃ~と掠れる。喉が渇いているからさと嘯き、水筒の水を飲む。これでいけるさ。もう一度吹いてみる。ヒ…ュッと音が詰まる。その途端、声が響いてきた。「深呼吸してみぃ。喉じゃなくて腹から鳴らすんじゃ!」

結城刹那 @hungsei194807
全身に浸る湯の暖かさに気持ちよさを覚え、仕事で溜まったストレスを発散するように深く息を吐いた。湧き上がる湯気が夜空へと流れていく。彼らの行き先を辿っていくと真っ暗闇に輝く満月の姿があった。それはまるで仕事で行き詰まった私に『どんな暗闇でも光があること』を教えてくれたみたいだった。

結城刹那 @hungsei194807
頬を伝った涙が握った母の手へと垂れる。窓から見える枯れ葉が同調するように下へと次々散っていった。視界が滲むほど私は力一杯泣き続けた。涙が枯れてしまえば、また笑顔を咲かすことができると思った。病室に響き渡る心電図の音が変わってもなお、深い眠りについた母は笑顔を絶やすことはなかった。

結城刹那 @hungsei194807
みんなに最後の別れを告げ、校門へと向かった。庭園に植えられた紅葉が地面へと散っていく。木は時期に全ての葉へと別れを告げ、孤独になるだろう。でも、悔やむことはない。僕たちはまた咲き誇ることができる。だから今は出会えたことに感謝をしよう。校門をくぐると、校舎に向けて深々と頭を下げた。

八木寅 @yagitola
世を憂い、深い森を歩き続けた。満月の光も届かない森を。すると、柔らかな明かりが。そこには小さな池に蛍の群れと黄昏れてる狼一匹。
「どうしたの」
「あなたこそ。怖くないのですか。狼男が」
「ううん」
だって食べられてもいいって思ったから。なんて、蛍の光を映す瞳が美しくて言えなくなった。

むこねーさん @susumco
煙草を1本吸い終わり、服を着ようとしたところであなたが言った。
「もうこんな関係終わりにしよう。」
私たちはお金で身体を繋げている。それがなければ出会うこともなかったでしょう。私の心は誰にも触れさせない、深く暗い海の底に沈めてある。さよなら、のあとにあなたは深くため息をついた。

むこねーさん @susumco
「君の作品には深みを感じないね。」
僕は筆を折った。もう二度と物語を紡ぐことはないだろう。好きじゃだめだった。がむしゃらでもだめだった。どれだけ文字を、言葉を積み重ねてもだめだった。原稿用紙と悔しさをゴミ箱に投げ入れ、枕に突っ伏して泣いた。でもなんでまだ書きたいんだよ。

木戸秋波留紀(サイトからの投稿)
路は―冷えた。手の先から、透き通っていくのが分かった。足の下では、歯車が低く、唸っていた(しかも、微妙に、かみ合っていない)。息が凍る前に、眼が、凍った。月の裏側のような歪みの中、気が付けば、夜の、その最深部まで来ていた。―その時、言葉が凍った。

木戸秋波留紀(サイトからの投稿)
 深海から、微かな音が、反響していた。……それは、人魚の寝息だった。人魚は骨の内側で、縮こまって、眠っていた。その周りを、鮫たちが囲んでいた。鮫たちは、動くことを許されていないかのように、闇の中に、佇んでいた。そして、人魚の唇から零れる泡を、ただ、じっと、見守っていた。

木戸秋波留紀(サイトからの投稿)
空の深さが、頂点に達しようとしていた。風はもはや、下から上にしか、吹くことができなかった。生き物の姿はなく、その影もない。その、果てしない空洞の中心で、残された建物が、初めての言葉で、うたった。―それは、遠い、星の消滅のようだった。

雨宮 徹(サイトからの投稿)
私は走った。バスは今にも発車しそうだ。なんとか間に合った。天国行きのバスに。
疲れで寝ていると外は真っ暗だ。それに深く深くと進んでいる。何かがおかしい。
「あの、行き先を間違えていませんか?」
 運転手は不気味な笑顔を浮かべて答えた。
「いいえ。こちらは地獄行きのバスですから」

月乃(サイトからの投稿)
教室。そこは、私にとって深海のような場所だった。藻掻いてもどうにもならないことを知っていた私は、藻掻くことを諦め、ただひたすら苦しさに耐えていた。だけど、貴方がくれた「またあした」というたった一言で、私は再び上へ上へと藻掻き始めた。そして気づいたの。案外、海面は近かったんだって。

ナゾリ @Naz0n0vel
「ひぃ〜、疲れる。さっきからずっと掘ってるけど、この穴何に使うんスかね。ねぇ、兄貴?」
「さぁな。俺たち下っ端はただ、ボスの言うことに従うだけだろ」
「そりゃそうッスけど。でも、これ以上掘る意味あります? まさか、誰か埋めるとか?」
「深掘りするな」
「じゃあもうやめていいッスか?」

山尾登 @noboru_yamao
父親が子守歌代わりによく話してくれた、王様の耳はロバの耳だ!というギリシャ神話。聞きながら深い眠につけた幼い頃を、いまでも思い出す。大きな父親の掌で私の小さな耳が熱くなるまで、何度も擦ってくれた。私の自慢の優しさは、あの深い父性愛が源流なのだ!この歳になって初めて知る後悔は深い。

ナゾリ @Naz0n0vel
先日、道端に落ちている枯れ葉を見ていたら、友人がふと『深みがある』と言った。

正直、私にはわからない。今が夏ならまだしも、なぜ深緑が失われた葉っぱに彼は深みなど求めたのか?

大体、彼はいつもそうだ。この前珈琲を飲んだときだって――

――いつの間にか深みにはまっていたのは私の方だった。

ナゾリ @Naz0n0vel
「全く、何で俺ばっか頭下げなきゃいけねぇんだよ!? ふぅ〜……」
「おじさん、タバコって美味しいの?」
「じゃあ吸ってみるか、坊主」
「子どもは吸っちゃいけないんだよ」
「冗談に決まってんだろ! ふぅ〜……」
「ほどほどにしなよ、ぷかぷかおじさん」
「(……深々おじさんよりはマシだな)」

八木寅 @yagitola
「あ」
髪切りすぎた。普通ならワックスで誤魔化せる。けど、この方は国民的スターで、毛の一本まで大切にしている。どうしよう……。
「今日はアロンア●ファしときますね、波平さん」
「え」
「サービスです」
「アロンア●ファとは何だ」
「あー別に深い意味はないっす。サービスって意味っすよ」

ヤマサンブラック @zantetsusen
競馬中継を消すと、俺はベランダへ出て、煙草に火をつけた。澄み切った空に、紫煙が溶けていく。目の前を、なにかが通り過ぎた。赤とんぼ。目で追いながら、元自衛官の友人の言葉を思い出した。焼いて食うと、雲丹の味がする――。煙を深く吸いこみ、俺は煙草を消した。河原なら、たくさん獲れるだろう。

迷路メィジ @Akumademeiji
虚ろな瞳の深海魚を見ている君とは、マッチングアプリを通して初めて会った。話は盛り上がらず、僕はこの景色を眺めている。偶然が重なって今の視界に入っている、本来交わらない生き物たち、と考えながら。
「次行こうか」と君が僕の手をとった。僕は、この奇妙な縁にもう少し身を任せることにした。

玄蕃莉子(サイトからの投稿)
秋が深まり、ひんやりとした星夜に、心がきゅっと透明になる。大学の後輩である、片想いのきみと帰り道を歩く。5秒間あう目とそらした横顔がどうしようもなく可愛い。好きという透明なフィルターを通して見える世界は愛おしさが溢れて止まらない。深まった好きという気持ちを、今、伝えようと思う。

月乃(サイトからの投稿)
「秋っていい季節だよね。涼しいのに冷たくなくて、深くて優しい安心感があって。夏の終わりを受け止めて、ひと時の誰かのノスタルジーに付き合いながら、冬を抱きしめる準備をしている。静かに季節を回す役」「それ、あなたの自己紹介みたいだよ」「そうかな。きみは、秋、好き?」「うん。大好き」

ひふみとおこ(サイトからの投稿)
白雪姫が大きく成長する前、女王は、
「鏡よ、鏡。 国中で一番美しいのは、だーれ?」
と魔法の鏡に聞くたび、
「それは貴女です。貴女の肌は、とても美しい」
と言われていたが、現在の状態を暗示する意味深な言葉であった。

神谷怜来 @Reira_Kamiya21
未明3時33分。眠れずに外へ出る。スマホが鳴る。彼から金の無心だ。
「おまえしかいない」 なんと甘美なパワーワード。これで何度目か。
あんなパパいらない。背後から更なるパワーワードに驚く。深い闇夜が明けていく。そうか。私、誰かに必要とされたかっただけか。
「さよなら。今までありがとう」

神谷怜来 @Reira_Kamiya21
深夜2時22分。惚れた弱みとは実に恐ろしい。浮気性で見切りを付けた方がいいとわかっていても、いざ本人を目の前にすると理性なんぞどこへやら。この男の何がそんなにいいんだろ。顔? 好きよ。優しいし。けど、それなら他にもいない訳じゃないでしょ? 自己嫌悪と高揚感を無駄に行ったり来たり。

神谷怜来 @Reira_Kamiya21
深夜1時11分。姦しくなって30分ぐらい経ったか。いつもなら引っ掛けに行くところだが、生憎幼女は範疇外だ。流石に心配になった辺りで止む。時計を見やると随分数が揃っている。パチスロなら大当たりだ、あそこで辞めておけば今頃は…と未練がましくゴチて酒を呷る。むせる。金。女。金が要る。

久保田毒虫 @dokumu44
あれ? あれは受水槽じゃよ。深くて大きな受水槽。あの中には沢山水が入っとるんじゃ。え? あの大きな音はなんですかって? 人が飛び込む音じゃよ。あの中で沢山の人が溺れ死んどるわい。ほら、次はお前さんの番じゃよ。え? 聞いてない? もう遅い。飛び込むのじゃ。深くて大きな受水槽へ。

久保田毒虫 @dokumu44
深海はいわば一つの箱だ。真っ暗で何も見えない、黒くて青くて広い箱だ。私はこの箱の中で永遠に彷徨い続けるのだ。時折、発光物が前を横切り、透明物がパクパクと口を開け、潜水艇が深海には似合わない眩しい光を放つ。誰か……ここから出してくれ! 私はベニクラゲ、応答せよ。私はベニクラゲ……。

久保田毒虫 @dokumu44
秋の深い森の中に私たちはいた。木の葉は舞い散り、鳥は鳴く。不意に私たちの身体は宙に浮き、空を漂う。明日を探すために。君はいつのまにか大きなクジラに変身していた。私は大きなシャチに。赤い空を泳いだ。「そろそろ帰っておいで」と森の声がする。帰ろうか。木の葉は舞い散り、鳥は鳴く。

ひふみとおこ(サイトからの投稿)
耳をすますと、静かだった水面が突然泡立ちはじめたような音がした。 ボコボコ ボコボコ 泥深い池から恐ろしい形相の何かが出てきそうだが、薄目を開けてそれを確かめる勇気など俺にはない。 しばらくすると、タイマー機能付きコーヒーメーカーから湯気とともによい香りが漂ってきた。

ひふみとおこ(サイトからの投稿)
大きなカウンターテーブルに隣り合って座っていても、二人はほとんど向き合っている。どこをどう見ても七十代にはなっているカップルだと思われ、けれど長年連れ添っている夫婦には見えない。二人の顔には無数の小ジワが刻み込まれていて、私はふと、この人たちの人生の深淵をのぞいている気がした。

紗秋(サイトからの投稿)
私は突然深い穴に落ちてしまった。「もっともっと頑張らないといけないのに」と暗闇の中で泣きじゃくる私。そんな中、徐々に見えた一筋の光。その先には優しく微笑み手を差し出すもう一人の自分がいた。「今までよく頑張ったね」その手を掴むため、私は深い穴の中で未来への階段を創ることにした。

4423(サイトからの投稿)
よく晴れた気持ちの良い朝だった。いっそどしゃ降りの雨だったら悲劇のヒロインになれたのに。
「ばいばい。元気でね」
私たちは「おはよう」の代わりの挨拶を交わす。夜、ひとりぼっちの部屋で深呼吸をしてみる。お揃いの食器も、ベッドのシーツも、壁紙も、玄関も。まだ彼のにおいがした。

東方健太郎 @thethomas3
亜麻色の髪が似合う人がいた。挨拶をすると、挨拶を返してくれる。とても心地よい挨拶だと思う。その人の人生を思うと、私は何者として、ここにいるのだろうと考える。いつか雨の降る日に、雨宿りをした納屋がある。そこから、西へ向かうべきだったのか。或いは、北上して、深い雪の中で暮らしている。

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