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そのシーンは、必然ですか?(映画「百円の恋」を観て)

今更ながら、安藤サクラブームである。

「かぞくのくに」「万引き家族」と、安藤さんが出演する映画を観て、勢いのまま「百円の恋」をNetflixで鑑賞した。日本アカデミー賞 最優秀主演女優賞を獲得、安藤さんにとって飛躍を遂げた作品である。

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ひと言でいうなら「主役を務めた安藤サクラの演技が凄すぎ」ということに尽きる。

自堕落な生活をしていた30歳過ぎの女性・一子が、狩野(演・新井浩文)と出会って、少しずつ自立の意思を固めていく。周囲とのコミュニケーションもロクにできなかった女性が、ボクシングと出会い「勝利」することの意義を見出していく。という話だ。(脚本を手掛けた足立紳さんは、本作が脚本デビューにも関わらず日本アカデミー賞 最優秀脚本賞を獲得する。国内外で高い評価を得たようだ)

設定や演出の「粗さ」を吹き飛ばしてしまう安藤さんの演技は、素晴らしかった。背骨が曲がった軟体動物のようだった一子が、格好悪くもちゃんとボクサーになっていく。目つきは変わらないが、佇まいはまるで別人、控えめにいって圧巻である。

だがやはり、それと制作のチグハグさは切り分けなければならない。

離婚して帰ってきた妹(演・早織さん)と掴み合いの喧嘩をさせたり、アルバイト先をクビになった女性を「変人」のように描いたり、あげく非力な主人公をレイプ被害者にさせたりといった描写は必然と感じられず、実に堪え難いものであった。

とりわけ刺激的な場面を挿入する場合、それが「必然である」とオーディエンスに示すことは、映画づくりにおける最低限のマナーだ。

前述したレイプシーンは、一子が恋していた狩野との「別れ」のタイミングで発生している。狩野はその日、ボクシングの試合で敗れ、一子の同僚である野間(演・坂田聡さん)と3人で飲みに行く。しつこく絡む野間に対してパンチを打ち込んだ後、狩野は帰ってしまうのだが、件のレイプシーンはその直後に発生する。泥酔して抵抗できなくなった一子を野間がホテルに連れ込み、何度か殴った上で犯してしまうのだ。(本格的にボクシングを始めることになるのは、その後からだ)

言わずもがな、レイプとは最低な犯罪行為だ。

力が強い者が、弱い者に対して実力行使で性行為に及ぶもの。日本ではとりわけ「合意のもとで」というような強弁がまかり通ることが多く、「レイプされた側にも隙があったのでは?」といった二次被害さえも招いてしまう。

殺人といった犯罪と並べるつもりはないが、そういった「最低」の犯罪行為を劇中に持ち出すのであれば、そこには何らかの理由が絶対に必要である。

一子は、レイプされたからボクシングを始めたのだろうか

いや、そのロジックは強引に過ぎる。その安直なロジックは、非力な立場の人たちを愚弄するような趣きさえ感じられる。

これはあくまで一例だが、本作は安藤さんの演技によって「誤魔化された」ような演出が多々あったように思う。

まあたしかに、安藤さんを起用できたことで、数々の映画賞を得られたのであれば、スタッフ陣の「勝利」かもしれない。だが僕は、都合主義の価値観がそこかしこに飛び火している本作を決して認めたくはない。安藤さんが素晴らしい演技を見せた分、複雑な思いに駆られてしまうのだ。

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そんな「百円の恋」を紹介しておいてナンですが……お薦めは「万引き家族」です。異常性と母性を兼ね備えた女性を演じた安藤さんの、終盤に見せた柔和な表情。僕としては、そちらの演出の方にノックアウトされてしまいました。

(Netflixで観ることができます)

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