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静かで、リアリティのない映画は好きですか?(映画「かそけきサンカヨウ」を観て)

昨年、TBSドラマ「ドラゴン桜」で共演していた志田彩良さんと鈴鹿央士さん。ドラマでは長らく反目していた二人が、親しい友人同士の役を演じることに。背筋がピンと伸びている志田さんの姿が、映画にさわやかな風をもたらしています。

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照れくさくなるほどの「好き」「絶対」

監督・今泉力哉さんの作品は「あの頃。」以来。まるで違う作品のトーンに驚いてしまった。

「あの頃。」は松坂桃李さん、仲野太賀さんなどのキャリアの長い俳優が出演している一方、「かそけきサンカヨウ」は若手俳優を起用。志田さんも鈴鹿さんも話題作に多数出演しているとはいえ、スクリーンに映るふたりの演技はどこか、たどたどしい。そういう風に撮っていることもあるが、彼らが「好き」とか「絶対」とか、そんな言葉を惜しげもなく披露するのは観ていて照れくさくなってしまう。(悪い意味ではない)

静かなトーンで問い直す、家族のあり方

前項と重複する点もあるが、作品を通じて声を荒げるシーンがなく、静かにストーリーが進んでいく。主人公・陽が生みの母親に再開したり、陸が心臓の病気を患ったり、それなりにシーンが重くなる場面もある。それでも淡々と進んでいくのは、個人や家族の変化とは、格別ドラマティックなものではないと今泉監督が考えているからだろう。

全ては地続きで、たとえ変化を嫌っても、引き受けていかなくてはならない。人間はそうそうと個人や家族を捨てることはできない。新しい家族になっていく姿は、全員が歩調を無理に合わせたというより、ちょっとした意思を添い合わせて成立したものだ。それくらいの力学で、家族の輪郭は整うのではないかというメッセージだ。(家族仲を切り裂くなど、何かを喪失させて初めて失ったものの大きさを知る……というドラマらしい展開はむしろ不自然ではないか)

SNSが出てこない青春

かろうじてスマートフォンでのメッセージのやりとりはなされるが、劇中の彼らはほとんどスマホに依存していない。喫茶店で会話をし、部活で交流をし、家庭の中でともに食事を楽しむ。

ちょっとした非現実感はあるものの、それはそれで潔い姿ではと個人的には思うし、現代社会に対するアンチテーゼのような意味も(ちょっと深読みし過ぎかもだが)あるのではないだろうか。

陽や陸のような関係が、どれくらい今の高校生に現実的だと映るのか。たぶん面白くもないんともないような感想を持たれるかもしれないが、だからこそ「映画」というフォーマットに残す価値があるのではないだろうか。

リアリティを追求するのはそれはそれで価値はあるが、映画でありフィクションでありという世界において、現実離れした世界が評価されないという理由にはならない。そこに何が描かれているか、が大事なのだ。

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といって、何が描かれていたのか、思い出すことは容易ではないのだけど。

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