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掃除と共に旅に出よう。(無印良品『掃除 CLEANING』を読んで)

パンデミックが猛威を振るった2020年8月、無印良品が「気持ちいいのはなぜだろう。」というメッセージ広告を発信した。

メッセージ広告と共に発売された『掃除 CLEANING』は、500ページを超える写真集だ。グラフィックデザイナーの原研哉さんがディレクションを務め、「掃除って何だっけ?」と問いを投げ掛ける。

掃除とは「〜しなければならない」イメージがある。「掃除しなさい」といった指示を受けた人も少なくないだろう。

本書のページをめくれば、そんな掃除の後ろ向きなイメージがガラッと変わる。

掃く(SWEEP)
払う(DUST)
吹き飛ばす(BLOW)
はたく(BEAT)
洗う(WASH)
拭く(WIPE)
ならす(SMOOTH)
かく(RAKE)
ととのえる(GROOM)
清める(PURIFY)
磨く(SCRUB)
剥がす(SCRAPE)
消す(DELETE)
すくう(SCOOP)
除く(REMOVE)
片付ける(CLEAR)

これらは本書で紹介されていた掃除の種類だ。「あ、」というような発見があって、一括りに掃除といっても、内容は多岐にわたることが再認識できる。

例えば苔庭では、苔を傷つけないように掃き掃除をするらしい。ただただ汚れを排除すれば良いだけでなく、環境が「あるべき姿」に落ち着くよう調和させる営みがなされている。

またお好み焼きの鉄板磨きは、鉄板が熱いうちに磨かないと汚れや焦げが落ちないそうだ。火傷のリスクがあるものの、鉄板を長持ちさせるためには必要な掃除だ。

これらは掲載されているシーンのごく一部にしか過ぎない。普段は「ゲスト」として訪ねている場所が、掃除によって、環境が維持されていることが分かる。

*

無印良品の「気持ちいいのはなぜだろう。」で添えられているのは、こんな言葉だ。

2019年、私たちは世界中の掃除のシーンを撮影しました。COVID-19が世界を席巻する前のことです。文化や文明を超えて営まれる掃除というごく普通の営みの中に、ヒトの本質が潜んでいるのではないかと考えてのことでした。世界が止まってしまった今、その写真や映像を見直すと、ごくあたり前の暮らしがとてもいとおしく感じられます。この先の未来においてどんなに技術が進んでも、ヒトは生き物。身体の奥底に響き続ける生のリズムがあります。ここに耳をすませていきたいものです。

(無印良品(2020)『掃除 CLEANING』、無印良品、P484より引用、太字は私)

本書で紹介されている、国内外の様々な掃除。

コロナ禍で移動が制限される中で、さながら「旅」の擬似体験といっても差し支えない。

だが、本書が示す「旅」の魅力はそれだけではない。

心の奥底で眠っていた美意識のようなものが、ふつふつと立ち上がっていくのを感じる。

整理されると気持ち良いよね、綺麗になると元気になるよね。

そんな「ふつう」の価値観を、あらためて再発見できるという意味でも「旅」だと思うのだ。

本書の販路は限られており、無印良品の店舗やネットショップ、一部書店のみで販売されている。価格も2,750円と安くはないが、心身の整理整頓に寄与してくれるはずだ。興味があれば、ぜひ手にとっていただきたい。

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*おまけ*

無印良品『掃除 CLEANING』の感想を、読書ラジオ「本屋になれなかった僕が」で配信しています。お時間あれば聴いてみてください。

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