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『オートメーションと労働の未来』試し読みページ

『オートメーションと労働の未来』(アーロン・ベナナフ 著)は、AIやロボットなどの技術革新によって仕事がなくなる・あるいは労働から解放されると謳う「オートメーション論」への痛烈な批判をおこない、別の未来を構想する書籍です。一部を試し読みとして公開いたします。

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 技術と雇用喪失との関係を理解しようとして、オートメーション論者は自分自身を傷つけることになる。機械知能がついにSF小説のように人間の理解力を遥かに超える速さで発達する汎用型人工知能を誕生させ、「シンギュラリティ」が到来するというファンタジーが生み出されるのだ。

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 実際には、技術の発展はすぐれて資源集約的であり、研究者は他を犠牲にして特定の筋道で研究を進めることを余儀なくされている。現代社会では、企業は利潤を生むような技術の開発に注力しなければならないのである。大部分がエンドユーザーにオンラインで無料で提供されているデジタルサービスの場合には、そこから利潤をあげることは容易ではない。
フェイスブックのエンジニアたちは汎用性人工知能の開発に注力するのではなく、いかにして人々を自社のウェブサイトに依存させ、くりかえし通知を確認したりコンテンツを投稿したり広告を見たりするようにさせるかを見つけ出すために、スロットマシンの研究に多くの時間を費やしている。

 それゆえ、あらゆる近代技術の例に漏れず、これらのデジタルサービスも「社会的に中立」というには程遠い。米国政府によって開発され、私企業によって構築された現在のインターネットは、存在可能な唯一のインターネットではないのである

 同じことはロボット工学についても当てはまる。技術的進歩の方向性を可能なさまざまな道筋のうちから選ぶさいに、最も優先されるのは、労働過程にたいする資本の支配である。生産ラインの労働者の力を高めるような技術の開発は追求されないが、それらの労働者への監視を強化する技術はあっという間に人気商品になっている。
資本主義社会におけるこのような技術革新の特徴は、既存の技術的手段を、新たな、解放的な目的のために変革しようとする者に重要な示唆を与える。利益優先の技術的進歩によって──少なくともそれだけで──人間が労苦から解放される可能性は、とりわけ安価で容易に搾取できる労働が大量に存在するという状況のもとでは、極めて低いのである。

【中略】

 21世紀においてもこれまでと同様に、発明家やエンジニアは新たな生産ラインにおいて、技術革新にたいする抵抗を克服する方法を模索するだろう。問題は、低成長期には生産性の伸び率が低下する傾向があることである。企業は生産力を拡大させるような大規模投資を控えるのだ。
それゆえ、見本市で展示される新たなガジェットの多くは店舗に並ばない。生産性が速いペースで上昇する産業がないと言っているのではない。たとえば、長距離運送業や小売・卸売業は今後さまざまな技術革新によって雇用の削減が起こるかもしれない。しかしながら、資本蓄積率と労働生産性の伸び率が経済全体で低下するため、こうした仕事がどの程度まで消えるかを予測することは難しい。

【中略】

 新たなテクノロジーは、これまで多くの労働力を吸収してきた産業部門における機械化への障害を取り払うことで、労働需要衰退の第二の要因になるかもしれない。しかしながら、この現象を説明するための鍵となるのは、これらの産業部門における雇用破壊のペースが速いことではなく、経済全体での雇用創出のペースがそれを下回ってしまうことにある。すでにみたように、後者の原因はオートメーション論者が主張するような急速な技術革新ではない。もしそうであれば統計に生産性の伸び率の急速な上昇となって表れるはずである。実際には、生産性の伸び率は上昇しておらず、むしろ低下している。
経済全体での労働需要低迷の真の原因は、成長エンジンとしての製造業が衰退し、それに代わる成長エンジンが存在しないために、経済全体の成長率が低下していることなのである。このコロナパンデミックの時代において、経済的スタグネーションの傾向はますます強まるであろう。

 パンデミックに誘発されてオートメーション化の波が到来するという警鐘が実質を伴っていない理由はここにある。こうした予言は、オートメーションの技術的な実現可能性(それ自体も実証されていない不確実な仮説にすぎない)を経済的な実現可能性と混同している。コロナへの対応のためにロボット工学に投資している企業は紛れもなく存在する。
たとえば、ウォルマートは自動運転と在庫確認および通路清掃を行うロボットを購入し、米国の店舗に配備している(ただし2020年末にウォルマートはこのプロジェクトを中止した)。まだ広範に実施されてはいないが、オンライン注文の指数関数的な増大を見込んで、一部の小売店では、ロボット工学を取り入れたマイクロフルフィルメントセンターを試験的に導入し、従業員が注文に対応する速度を速めようとしている。しかし、当面のあいだ、これらは例外的事例であろう。
深刻な不況のもとでは製品需要の増加が見込めず、新たな大規模投資をおこなう企業はかぎられる。企業はむしろ労働力を削減し、残った労働者の作業速度を高めることでコスト削減を行い、既存の生産力のままで済ますだろう。これこそまさに金融危機後に企業が行ったことである。
評論家たちは過去数十年のあいだにオートメーション化が加速したとあまりにも単純に思い込み、過去についての誤った認識のもとで未来の予測を行う。だが、そのような投資を正当化する需要を見出すことはできない。アメリカ合衆国では2010年代に戦後最低の資本蓄積率と生産性の伸び率を経験した。コロナは事態をさらに悪化させるだけなのである。

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