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多選自粛条例を廃止させた杉並区長本人の多選が阻止された話

杉並区長選挙2022が終わりました。新区長が7月11日に誕生します。

現職杉並区長の落選は、1999年以来です。当時の当選者は山田宏候補(現参議院議員)でした。

区長選挙はとりわけ関心が低く、東京23区全体でみても「現職区長の落選」は、過去ごく僅かの例が存在するのみです。

ところが、今回「同じ区で2例目の落選事例が出るサプライズ」が発生しました。

開票が確定する最後の最後まで誰が当選するか全くわからない緊迫した状況が続きました。「一票の重み」を実感しますね。

開票確定を伝えるJ:COMチャンネル


ヨーロッパでも報道が相次ぐ

当選人となった岸本聡子候補は、つい最近までベルギー在住(在外20年)だったということもあって、欧州でも「サプライズ」と報道が相次いでいます。

■The Guardian
Tokyo mayoral win a ‘huge surprise’ for candidate living in Belgium | Belgium | The Guardian 

■The Independent
Satoko Kishimoto: Woman in Belgium elected mayor of Suginami, Tokyo more than 9,000km away | The Independent

■Het Laatste Nieuws
Vrouw uit Leuven verkozen tot burgemeester... in Japan | VRT NWS: nieuws https://www.vrt.be/vrtnws/nl/2022/06/20/leuvense-verkozen-tot-burgemeester-in-japan/


国による法制度の違い(選挙制度の違い)の影響か、やや誤解に基づく報道もありますが、それでも在外20年の岸本候補が区内在住(国内在住)となったのは選挙の2ヵ月前とのことです。

過去に全く区内在住経験がなかったことを含めて「大きなサプライズ」でした。

過去に区長を応援していた議員が次々に応援を取り止めた


今回の選挙は、大括りでいえば「田中良区長(現職区長)4選の是非」が争点となりました。

当落そのものは僅差だったものの、過半数が現区長に投票しなかった事実と重ね合わせると「現区長の4選は認めない」との判断が強かったというべきでしょう。

今回の選挙では、過去に現区長(元民主党都議/元都議会議長)を応援していた議員が次々に支援を取り止めるなど大きな変化もありました。

田中良区長は、民主党・社民党・生活者ネットワークの推薦候補として杉並区長に初当選しています(2010年)。

その後、2回目の杉並区長選挙(2014年)からは、石原伸晃氏の支援も取り付け、その結果、自民党議員の多くも支援の輪に加わっていくようになりました。

もともと自民党と公明党だけでは過半数に届かない杉並区議会ではそれが現実的な大人の判断だったのでしょう。

ところが、4回目の今回は様相が大きく変わったのです。

現在落選中の石原伸晃氏は田中良区長に借りがあるようで引き続き支援をしたものの、自民党区議の過半が支援を止めてしまいました

これが大きかったですね。政党として一糸乱れず明確に支持を打ち出したのは公明党だけになったのです。

かつて現区長を支援していた立憲民主党や生活者ネットワークなども岸本候補を推薦しました。

最終的に候補者乱立とはなりませんでしたが、立候補された3人以外にも、田中良区長の4選を認めない立場から候補者擁立の模索がありました。

これらの変化が生じた原因は多様ではあるものの、杉並区政は直近だけに限っても問題噴出で「さすがに区長の4選はないよね」という点で概ね認識が共通していたのです。


就任直後に自らの多選自粛条例を廃止させていた田中良区長


2010年に田中良区長が初当選した後、最初に手をつけた大きな仕事は、杉並区長の在任期間に関する条例(区長の4選自粛を定めた条例)の廃止でした。

選挙公約(経済状況を考慮した減税政策の推進)を早々に放棄し反故にしながら、我先に自らの任期延長に対して布石を打つ、その態度には驚かされたものです。

杉並区長の在任期間に関する条例は、杉並区が全国に先駆けて平成15年に制定していた条例でした(田中良区長の当選直後に廃止)。
この条例は、独任制で数多くの権限を独占している杉並区長の在任期間を「最大3期12年」を目処とするよう定めていました。4選自体は禁止されておらず、区長が4選をめざす場合に相応の説明責任を果たすことを求める趣旨で制定し、公布されていたものです。

権限が一人に集中している首長の多選(長期固定化)は、弊害があまりにも大きく、議論の末に定めたのが「杉並区長の在任期間に関する条例」でした。

就任早々、田中良区長から議会側にこの条例の廃止を要請してきたこと自体「サプライズ」でしたが、議会側がこれを唯々諾々と受け入れたこともまた「サプライズ」でした。廃止に反対した議員は私を含む5人のみだったのです(条例制定に賛成した議員が相次いで廃止に賛成していったのです)。

常識的には考えられないことで、いかに田中良区長が老獪に立ち回ったか、よくわかる事例の一つです。


しかし、多選自粛条例を廃止させるなど老獪に立ち回ってきたにもかかわらず、田中良区長は狙っていた多選を果たすことができませんでした。

策士策に溺れるということでしょう。

区長の多選自粛(上限3期12年)の制度化に言及した岸本候補


日本の地方自治制度は、二元代表制(大統領制)が採用されており、首長も議会議員もともに公選となっています。ただし、その一方で、首長に権限が集中する仕組みを採用しているのが日本の特徴でもあります。

例えば、アメリカ(合衆国)では、大統領といえども予算編成権を有しておらず、法案提出権も持っていません。これらはいずれも議会側の権限です。それこそ上院議員に30人、下院議員に15人ほどの秘書がいるのは、このような背景もあるわけですね。

また、地方政府においては、シティマネージャー制度が導入されている事例もあります。議会から市長を選ぶケースを含め議会の権限が強いものです。

一方、日本では知事・市町村長(特別区長を含む)が必置であり、それも単に執行権を有しているのみならず、予算編成権を独占し、議会の招集権もほぼ独占しています。

議会事務局も議員より遥かに少ない職員数で維持されている地方議会が大半となっています。その職員もまた執行機関(区長)側から定期的に人事異動で送られてくる事務職員ばかりで、専門職や公設秘書などはいません。

この結果、多選首長の支配下にある自治体で著しく組織の硬直化が進むなど弊害の発生が指摘されてきたのです。

この課題については、岸本候補自ら「区長の多選自粛(上限3期12年)を制度化します」とさとこビジョンの中で宣言されていましたので、対応を期待したいですね。

まずは「風通しのよい組織づくり」を


田中区政における杉並区は、年度内に次の改定手続を予定していました。

①杉並区まちづくり基本方針(都市計画マスタープラン)
②杉並区住宅マスタープラン
③杉並区バリアフリー基本構想

いずれも現在の杉並区基本構想・総合計画に整合する改定が基本になっていたものです。4月にスタートさせたばかりの杉並区基本構想・総合計画を継続するか否かを含め、新区政の大きな課題になります。

残念ながら、スタグフレーションに陥る中では、誰が区長になっても厳しい現実が待っています。次期区長も理想と現実との落差から難しい舵取りを迫られるでしょう。

この夏は私もしっかり充電し、過去を振り返りつつ改めて将来を展望したいと思っています。考えなければならないことが山のように出てきているので、秋以降また忙しくなりそうですね。

老獪な前任者が長かったことを考えると、まずは「風通しのよい組織づくり」が不可欠というべきです。

人事面でいえば、田中良区長とともに吉田順之副区長(区長職務代理順序第2順位の副区長)が7月10日付で退任されます。任期を約2年残してのご勇退となります。

また、第1順位にある宇賀神雅彦副区長も10月14日に任期満了を迎えます。

次期区長には行政実務経験がないことから、副区長の不在は好ましくありません。公私混同は避け、バランスの良い人選を願っています。

杉並芸術会館(座・高円寺)芸術監督の任期満了も来年6月です。こちらは公募開始にちょうど良いタイミングです。

在任15年近くともなる芸術監督の交代を強く求めているところですが、これについても過去の経緯を踏まえ、新区長が賢明な判断をされることを願っています。

今回の投票済証からなみすけ・ナミーなどが登場


投票率は37%まで回復


投票率は37%を超えました。前回比で5ポイント以上の上昇です。

前回が32%、前々回は28%だったことを考えると、これも「サプライズ」といえる結果でした。

統一地方選挙から外れたことで急低下した投票率を回復させることは大きな目標の一つでしたので、これは嬉しかったですね。

隣区である練馬区長選挙が32%弱(4月)、中野区長選挙が33%(5月)と比較しても有意に高い数値であることがわかります。

投票者数では前回より約2万7千人の増加となりました。地道な啓発活動にご協力くださった皆さん、投票管理者ほか事務従事者の皆さん、お疲れ様でした。

岸本聡子区長の任期は7月11日スタートです。

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