ラティーナ追悼記事「文学とポップの作曲家ヨハン・ヨハンソン」補足音源集
音楽雑誌ラティーナで、今年2月に急逝したアイスランドの作曲家ヨハン・ヨハンソンの追悼記事を書きました。
詳しくは本文をお読みいただくとして、記事をより楽しんでいただくための試聴音源や、他の人が書いているためにわざと挙げなかった主要作品についてなど、こちらに挙げておきます。
ヨハンの本領は、映画や文学と同じくらいの豊かさを持った音楽のストーリー作りにあると思います。
お父さんがカセットテープに録音していた、IBM1401を使ったメロディ演奏との共演がコンセプトの『IBM 1401:A User's Manual』
自動車王フォードがブラジルに建設したユートピア的ディストピアを描いた『Fordlandia』
現代音楽、ポスト・クラシカルの傑作として絶賛された『Orphée』。ドイツで流れるラジオの乱数放送のテープなどを導入。
ヨハンの曲って、けっこうメロディがリリカルなんですよね。あと「音楽だけ聴けばわかるだろ」ってタイプではなかったような気が。コンセプトとなっているストーリーも併せて、豊かに楽しんで欲しいと考えていたと思います。
個人的には、上で挙げたような大編成のものではなくて、小っちゃいアンサンブルで演奏された作品のほうが好きです。
デンマークの映画監督Max Kestnerのドキュメンタリー映画『Copenhagen Dreams』のサントラ。弦楽四重奏、クラリネット、チェレスタ、キーボード、エレクトロニクスという生電混合室内楽。
絶作のひとつとなったサントラ『マグダラのマリア』(ガース・デイヴィス監督作品)でも共作している女性チェロ奏者Hildur GuðnadóttirとLichensことRobert Aiki Aubrey Loweと制作した『End of Summer』
ではその『マグダラのマリア』はこんな感じ。
ヨハンはHildur Guðnadóttirの名作『Without Sinking』にも参加しています。
Hildur、Loweらおなじみの面々に加え、サックス奏者Colin Stetsonもレコーディングメンバーの傑作サントラ『メッセージ Arrival』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品)。
ヴィルヌーヴとヨハンと言えば『ボーダーライン Sicario』も。こちらはHildur、Loweに加え、アイスランドが誇るスーパー・ベーシストSkúli Sverrissonが参加。Skúliは先日亡くなったアラン・ホールズワースやワダダ・レオ・スミス、ベン・モンダー、Ólöf Arnalds、坂本龍一など多彩な活躍ぶり。
ヨハンが映画音楽家としての評価を高めたのは『彼女と博士のセオリー The Theory of Everything』(ジェイムズ・マーシュ監督作品)サントラのゴールデングローヴ賞受賞でしょうか。ただ、ヨハンによると本作のサントラ製作はいつもと違うトラディショナルなやり方で進めたので、個人的にはチャレンジだったようですね。
サントラでもポストクラシカルでも、ヨハンの根底にはやっぱりポップ・フィーリングがあったのではないかと思います。実際彼はキャリアの初期にポップ・シーンに深くかかわっていました。
レイキャヴィクという街を凝縮したようなポップ・アルバム『Dís』
自身もメンバーのポップ・グループApparat Organ Quartet
そんなこんなでいろんなことをやってきたヨハンですが、絶作はデビュー作+交流のあったミュージシャンたちによるリミックス集の『Englabörn & Variations』です。
デビュー作の再発と現在の交友関係のお披露目を兼ねたこのアルバムの発売と彼の死が重なったのは全くの偶然ですが、期せずして彼のキャリアが本作の発表をもってきれいな円環として閉じたように思います。
本記事の最後に、ヨハンとのより深いコラボを望んでいたという坂本龍一によるトラックをどうぞ。
実は、昨年のラティーナの「新しい世界の作曲家 北欧・中欧編」でヨハンにインタヴューを試みたんです。でもちょうど『ブレードランナー2049』の作業で超多忙で、他のことがまったくできない状態なんです、すみませんとう返答がマネージャーから来たんですよね。結局それが最初にして最後のコンタクトのチャンスでした。
きっと彼は、会って話すると面白くて温かい気持ちにさせてくれる人だったと思っています。今回の追悼記事のために海外のものを含めたくさんのインタヴューを読んだのですが、さらにその気持ちが深まりました。
どうぞ安らかに。
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