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ポーランドに行くと、毎日ビールを飲んでしまう

もしポーランドに行って、昼間に現地人の友達とカフェに入ったとする。

「ところで何飲む? お茶? それともビール?」

こんなふうに訊かれるはずだ。もちろん必ずではない。ただし確率はかなり高いだろう。それにしても、カフェに入ったのだ。ふつうお茶かコーヒー?じゃないのか

内心そんなツッコミを入れつつも、「もちろん、ビールだぜい!」と答えるのが常だ。

僕はこれまで取材で4回ポーランドに行ってるのだが、滞在日数を全部足すと計1か月半くらいになる。そのうち余裕で1ヵ月はビールを飲んでいた。つまり、少なくとも3日のうち2日はビール。ついでに言うと1日に1回とは限らず、昼も夜も寝る前も飲む、なんて日もあった。平均したら「毎日飲んでいる」のと同じくらいになる。

なぜそんなに飲んでしまうのだろう。

ポーランドは中欧(中央ヨーロッパ)に位置する国だ。しかし中欧でビールと言えば、みなさんの頭の中に思い浮かぶのは断然お隣の国チェコだと思う。だから、ポーランドってビールおいしいの?と疑問に感じるはずだ。

しかしあえて言おう。ポーランドのビールは最高なのだと。大事なことなので二度言ってもいい。ポーランドのビールは最高なのだ

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僕は残念ながらまだチェコには行けてないので、名高いチェコビールを味わったことがない。チェコ人の友人によると、チェコのものは旨味が強くけっこうコクがあるようだ。それはそれで飲んでみたい。

口の悪いチェコ人はポーランドのビールを「(味が薄くて)馬の小○みたいだ」と酷評するらしいが、それでもあえて言うならば、ポーランドのはとにかく飲みやすいのだ。もちろんこれは、比較してどっちが優れているという話ではない。

ポーランドにはじめて取材に行くまで、僕は決してビール好きなわけではなかった。乾杯の時に飲む冷えたひとくち目は気持ちよく味わえるものの、あとはもう苦いのを飲み会のハイテンションでドーピングしてむりやり消化する。「ひとくちだけのビールがあればいいのに」とさえ思っていた。

ただ、2014年に中欧各国のカルチャーに関するコラムも交えた『中央ヨーロッパ現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』という本↓を監修し、そこにポーランドのビール紹介コラムも載せたので気にはなっていた。

執筆してくださったのは、富山県の高岡市で有限会社塚本商事を営む塚本雅彦さん。同社はポーランド雑貨の輸入などを手掛けている。

そんなビール嫌いの僕がいろいろ飲んだ経験から言うと、ポーランドのビールは基本的にさっぱりした口当たりときりっとシャープな苦みが魅力のものが多い。なんか、スパスパいけちゃうのだ。ビール味のジュースなのか?とさえ感じることもある。いや、言いすぎだけど(笑)、ともかく僕のようにふたくち目以降のビールが苦手な方にこそオススメなのがポーランドビールなのだ。

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はじめてのポーランド訪問では、最初のランチですでにビールを口にしていたのだが、日本で言う大ジョッキ超のサイズのものが出てきたのにもかかわらず、クイクイいってしまい、想像していた以上のあっさりした飲み味に驚きつつ、おかわりした。

「ティスキェ」や「ジヴィェツ」(↓写真)など、日本で言うキリンやサッポロ、アサヒのようなポピュラーな定番銘柄もある。ラズベリーなどのフレイバービールもたくさんあるし、各地で地ビール生産も盛んだ。シナモンがたっぷり効いたホットビールなんて変わり種も。

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隠れたビール大国や~~!!!

今まで行ったポーランドの都市の中でいちばん好きなポズナンという街は、特に地ビールづくりが盛んだ。昔のビール工場をリノベした、デパートやホテル、美術館や公園などがドッキングした複合施設(↓写真)があるくらい。1泊2日の滞在で6種類くらいの地ビールを飲んだ。

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ポーランドの京都と言われる古都クラクフでは、ジャズフェス取材の際、ホテルの部屋に帰ったら7種類もの地ビールがお土産として置いてあった(↓写真)。ビール推しのスピリットがビンビン伝わってくるじゃないか。

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そしてこれはヨーロッパあるあるでポーランドに限らないことなのだが、レストランに行ったら水よりも安い場合が多い。冒頭で紹介した「お茶か、ビールか」という常套句は決して誇張ではなく、ビールとお茶やコーヒーの値段にほとんど違いがない(時にはより安い)という環境も影響しているのだと思う。とりあえず、水とビールが同じ値段だったら、ビール頼むでしょ。

こうして、旅の日程が長ければ長いほど、ポーランド・ビールの沼にはまっていく。

ポーランドのビールがおいしいのは料理の影響も大きいと思っている。ポーランドの料理では個人的に「スープを飲むという単語がなく、"食べる"を使う」と言われる具だくさんスープ(↓写真例・ジュレク)の数々をオススメしたいのだが、その他の名物料理がまた日本人向けだったりする。

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肉やチーズや、時にはジャムなんかも入れたりする水餃子のピエロギ(↓写真1)。ちなみに揚げるのもあり。うすいとんかつのコトレト・スハボヴィ。ジャガイモをすりおろしたので作るパンケーキ風(というかプレーンのお好み焼き風)のプラツキ。キャベツとザワークラウトと豚肉をじっくり煮込んだビゴス。ロールキャベツのゴウォンプキ。むちむちのいも団子、クルスキ(↓写真2)

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そしてレストランに行ったら付け合わせで必ず出てくるでっけえピクルスや、パンに塗って食べるラード・・・。

ってこれ、ビールのつまみとしてもむっちゃイケますやん!

そうなのだ。あっさりめの味付けのものも多く「ごはん」として食べてもおいしいのだけれど、ビールをおともにやるのもまた最高!という料理がとても多いのだ。これがまたポーランドビール沼を深くする。レストランに食べに行くと、ビールをついつい頼んでしまうのだ。なんせ、水より安いしね。

そして肉がむちゃくちゃうまいというのもポーランドの良いところ。庶民的なスーパーで200円くらいで売ってるハムのサンドイッチからスープに入っているソーセージやベーコン、がっつり系のステーキなどなど、肉は何を食べてもおいしくて驚く(↓写真・お肉系名物料理勢ぞろいプレート)

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一説には、やがて「連帯」にまで発展する労働組合が発足されたきっかけの一つは、政府による肉の値上げに対する反発だったとかなんとか。肉LOVE!の国なのだ。

それにしても、うまい肉にさっぱりしたビール。最強じゃないか。エンドレス・コンボである。

もっとも最近はポーランドでもビーガン・レストランが一時代を築きはじめていて若者が集うようなおしゃれなお店も増えている。野菜も美味なのだ。特にきのこ類はヤバい(↓写真1)。ヘルシーで彩り鮮やかな野菜料理(↓写真2)をいただきながら軽い飲み口のビールを一杯、というのも楽しい。

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しかしやっぱりポーランドでビールがおいしい最大の理由は、基本的にいい人が多いってことかもしれない。

僕のポーランド取材は音楽ライターとしての仕事がメインだ。海外の現場に行った時ならではの貴重でフレッシュな話もたくさん聞けるのだが、正直そういう「オフィシャル」な時間より、ミュージシャンたちと個人的に談笑しながらビールを飲んだ思い出のほうが強く残っている。

「昔セーラームーンにはまっちゃってさ。あの短いスカート、男を狂わすビジネスだよな」と爆笑しながら打ち明けたベーシスト。真夜中の空港まで車で迎えに来てくれ、翌日一緒に出向いたランチではじめてポーランドのレストランに行き、一皿一皿の巨大さに目を丸くした私に「これがポーランド式だよ。ようこそ!」と笑ってビールのジョッキを差し出したピアニスト。

自宅に招いてくれ、旬のアスパラやソバの実を使った手料理をごちそうしてくれたドラマーとデザイナーの夫妻。一緒にバーをはしごしていたら女子大生二人に逆ナンされ「僕たち両方外国人だと思ったから声をかけてきたみたい。若い女の子は外国人好きだよね。ああ、僕も外国人だったらなあ!」と言って噴き出したジャズ・ジャーナリスト。

他にもたくさんの音楽関係者たちと、ビールを乾杯し合った。どれも楽しい思い出で、今思い返しても口がほころんでしまう。

ポーランド人は基本的にみんな穏やかで話しやすいし、互いに母語ではない英語で会話しているからか、じっくりのんびり対話できる気がする。もちろん、毎日のように会う仲になったらどうかはわからない。でも、今のところこの国の友人たちとは、おいしいビールばかり飲んでいる。

ポーランドではこうして毎日、ビールを飲んでしまうのだ。

ちなみにポーランドの旅の必需品は「お役立ち旅グッズ」などの他に「ポーランド語のあいさつや単語」だと思っている。なまじ英語が通じる国だからか、世界一難しい言語の一つだと言われているからか、外国からの訪問者はほんとうに何一つポーランド語をおぼえてこないらしい。だからすごくかんたんな言葉でもポーランド語をまぜると、一気に距離が縮まる。僕は何度も「お前、ポーランド人だったのかよ!」と言われた(笑)。ポーランドの旅を楽しくするコツだ。ではまず最初の単語を。ビールはpiwo ピヴォ

コロナ禍で外国との行き来が先行き不透明なうえ、仕事先の雑誌の休刊や大幅な方針転換、担当編集者の退社などが相次ぎ、音楽ライターとしての仕事がほぼなくなってしまった。だから、次いつポーランドに行けるのか、もうわからない。しばらくそういうチャンスは来ないかもしれない。

でもまたいつか行けるような気がしている。その時はきっとまた、おいしいポーランド料理をつまみに、友人と楽しく語らいながら、あのさっぱりしたビールを毎日飲むのだろう。

(終わり)

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