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暴れ風鈴とうちの母

風鈴と台風の相性はよろしくない

いつだったか、隣家の風鈴が激しく鳴っていた
夜になっても不安を煽るように鳴りまくる

いい加減、昼間から鳴っているので外せばいいのに
でも風鈴の音がうるさいと隣家へ電話する勇気がなかった

「お母さん、隣の人って煩くないんかね?」
リビングで呑気に新聞を読む母へ問いかけた

母は老眼鏡をずらしながら
「気にならないんじゃないの?」
「お母さんは気にならんの?」

母はぽやんとした表情で
「暴れ風鈴は台風が来たって感じじゃない」
暴れ風鈴?

「ほら、風鈴が
『助けて!台風が怖いよう』風鈴が怯えてるのよ」

「それって残酷やん」
「残酷だけど風鈴を擬人化したらそう」
「尚更外してやらんと」
「いいんじゃない? 台風ならではでしょう?」

そしてまた新聞に目をやった

日頃から、気持ちに余裕のある母だと思っているが
ストレスを溜めない人は心持ちが違う
変えられない他人や状況を楽しんでいる
というより、関心がない

母は頭のネジが5000本ぐらいぶっ飛んでいる


「他人へ関心を持たなくてもいいことがある」
一方通行で突っ込んできた車の男性から
わたしはすれ違いざまに窓を開け
「お前はバカか」と言われた
人生、何回か遭遇するシーン

わたしはここの住民で男性より道路事情を熟知している自負がある
それでもわたしが間違えた、ヒヤッとした

多分
わたしは男性へ何か言いたげだったのだと思う

「放っておきなさい」
涼しい顔して優雅な母はとても冷静だった

母は
「人を正そうと思わなくていいからね」
どうして、と聞いてみた

自分が気に食わないから相手を自分に従わせようとしている様子は、他人から見ると見苦しいのよ
自分は正しいことをしたと気持ちよくなっているんでしょうけど、それを見ていた他人は不快よ

いつものんびりしている母と正反対のわたし
「自分のことに忙しくしていればいい」

あたしはね、自分のために生きている
ももちゃんが悲しい顔をする世界は
あたしが嫌だから元気でいたい

100均に並んでいる風鈴を見ていると
家主に置き去りにされた暴れ風鈴と母の言葉を思い出す

人には何か事情があるんだと想像しながら
自分は別の角度から自分を生きる視点

他人の意見に振り回されず、自分の価値観を静かに保ち続けるありかた

母は本当に他人へ無関心なんだろうか

人と人が対立するのを
母は俯瞰して自分の身の振り方を決めているような
風で音を出す風鈴と対極にある姿勢に見える

#シロクマ文芸部
#小牧幸助さん

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