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ショート: 諸行無常は音すら無く

「ケーワイ株式会社の音沙汰知ってるか」
蝉しぐれをかき分け、近道する道中に
課長から携帯があった。

「特に。岡田さんに訊くのが早いかと思いますが」
岡田さんは、番頭みたいな人物で会社関係なら、
取引先の色恋まで知っている。

「岡田さんも知らないって言うんだ」
「岡田さんがご存知ないなら私も」
「キミ、あそこに同級生がいると言ってたよな」

また課長の決めつけが始まった。
私は就職で上京してきた。東京に友人がいない。

「ナントカと秋の空は」というが
雷鳴ともに雲隠れした陽は翳り、
ケーワイ株式会社の音無しで倒産した時を想う。

疫病の蔓延で、夜逃げがあり、
今更ケーワイ株式会社の音沙汰を知り何になる。
株式会社ってだけで、
元々いつ潰れるか分からない家族経営だった。

喫煙所で、火をつけた煙草は足早に煙と灰になり、二年で様変わりした世情を重ねる。

「驕れる者も猛き者も居なかった」
諸行無常は金の音すら無く、
風に散るウイルスを避けるためマスクした。

#毎週ショートショートnote #たらはかにさん
(406字)