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8月に入って、猫の奈々はますます弱り
身体が一回り小さくなった
大好きな“ちゅーる”に口をつけない

奈々はわたしと距離を取り
クローゼットへ、こもるようになった

病院に連れて行くも、奈々は高齢で
身体に異常はないが
「年齢がね…」優しく察してくれと

わたしは、こんな時こそ
神や仏に祈り倒して、縋るのがよいのだろう

わたしを嫌う人の幸せを祈るなら
我が子も祈れ、願え
それが道理だよね

善いことをしようと心がけが、そもそもの間違い
それだって
善行を重ねれば、我欲が維持できる根底があるから

でもね、我が子がいると人の不幸は祈れない
親はね、我が子がされて嫌なことはできない

かといって、善いことばかりしていない
相手の都合を考えずに、問い詰めたり
やらかしたこともあった

奈々を見ていると
「生きるって、そんなもんじゃないですか
成功も失敗も、我欲も無欲も
死んだら味わえないんですよ」そう聞こえてきて

ありのままって、奈々みたいに
暑いとお腹を天井を上にして、寝ていたり
虫が入ってくると、宙を凝視したり
TPOなんてなくて、自分の感情と身体が直結して
誰かに見られているなんて、意識もない

だけど、それでも美しいのよ
弱々しい身体で座り、ブラッシングしてもらい
「もう終わり?」なんて顔をこちらに向ける

わたしから離れて
「やれやれ」声が聞こえてきそうな
テーブルの下へ入り、毛繕いをする

人間みたいに、やれ痩せろ
おしゃれセンスを磨いて、知性を向上せよ
そんな条件がなくても、生きている意味があり
気品を醸し出すなんて

人間みたいな節制から生まれる美もあれば
動物のように、自然体が美もあって
…しかし、人間の生きる意味や美は
誰かが言った基準に合わせているだけだよな
まあ、いいけどよ

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