ショート: やがてくる現実
今朝の月は寂しげに輝いている。
薄曇りの空に浮かび、私は月を見上げながら、
彼と過ごした一夜は私の肌に余韻を残していた。
彼とは会社の同期としての付き合いだった。
人に話すまでもない動機。
憂う彼の表情で私の胸が熱さを覚え、何かと気にかけてくれる彼の思いやりに惹かれていく。
でも彼にはその気がないのを知っていた。
「ああ見えて、女癖は悪い」もっぱらの評判で、
学生時代にモデルをやっていたのが噂の原因だろうと思う。
同期としての距離を保つ、昼間の顔。
夜は彼が私に体重をかけないよう、汗だけが顔に落ちてくる。
始発が出る頃、私の身体は軽くなる。
「楽しかったよ」
言葉が伴わずどこか遠くへある眼差しは、
私を特別に思っているわけではない、現実が映っていた。
私の手に一万円札を握らせ
「女の子はタクシーで帰りなね」
彼は「またね」と言い残し、私の手を離れた。
今朝の月が私を見守っている。
月を見上げながら彼との短い一夜を思い出し続けていく予感がする。
秋風が吹くたび、思い出が次第に色づいていくのを感じていた。
30年後、彼がハゲ散らかした
満月みたいな腹の夫になると思わずに。