小説: ペトリコールの共鳴⑩
第十話 ごほうびはマンゴーがいい
手書きの手紙はたしかに嬉しい。
しかし、メールの手紙も味気ないかもしれないが、絶対にコイツは手紙を書かないと思っていた相手からもらうのも、読後に歓喜が込み上げてくる。
多分、この世界でネズミから手紙をもらったのは俺だけだと思う。
あのときの新着メール2通が今後を上向きにした。
タツジュンへ
元気ですか? ぼくは、きんくまです。
ぼくは、今、198ー4530東京都青梅市八幡町1丁目15ー3八幡ビル1F101にいます。
あいらのアジトを見つけました。ロッカーの中に人間が2人閉じ込められています。はやく助けてあげてください。いちみは女が5人です。今からたくさん、タツジュンにメールをします。警察に教えてあげてください。
そしてぼくをつかまえに来てください。ビルの近くにコンビニがあります。ぼくはずっと、タツジュンをまってます。いちみに見つからないように、気を付けてください。
それから、ごほうびはマンゴーがいいです。
それから、タツジュンが元気だったら、ぼくはすげえうれしいです。
きんくまより
タツジュンへ
ぼくは、きんくまです。
あいらのスマホにジーピーエスをいれました。
たつじゅんとはるかとおなじやつです。
パスワードは198956です。あいらのたんじょうびです。
それから、あいらのほんとの名前は、あいだりこです。
警察におしえてあげてください。
そしてタツジュンが発見したことにしてください。
きんくまより
……キンクマ、お前生きてたのか!!!
次に送られてきたメールは中二病を拗らせた、
「こんな連中に監禁されていたとは」
不謹慎な発言だが、オフレコで言うなら
違う意味で警察へ出頭するのが恥に思える内容で、同じ詐欺に遭うなら唸るような賢い詐欺がマシに思えた。
『誓いのことば』『メンバールール』『メンバー自己紹介』『復讐マニュアル』『出納帳』
『日誌』『犯罪者予備軍リスト』『シフト表』『報酬分配のルール』『入会・退会届』
これらが続々と受信メールにきた。そしてプリントしたものへ目を通す。
同時にキンクマが示した住所を検索し、
俺が不同意性交等罪で逮捕される覚悟を持った。
自分の罪を認めないと今いる監禁された被害者はいずれ解放されても、今後減ることはない。
恐らく、女に騙され監禁や脅迫されようが被害者は証拠がなく、泣き寝入りになっているのだと思う。
女から酷い目に遭ったところで、命があれば儲けものだと警察へ行くのを躊躇うヤツもいるのではないか。
身体への怪我の有無は分からないが、中には5日間の監禁で精神科へ受診したヤツもいるかもしれない。それは立派な暴力であり殺人だ。
ガン治療、鬱病などの精神疾患、人工透析などを受けている人が含まれていたら……。想像するのも悍ましい。
皆が俺のように健康体と言い切れない。
縦長の箱がロッカーだとして、俺が監禁中に解放された奴等は2人とも出ていく時には静かだった。
生死は不明だ。
外部からみれば
「スケベ心のあるオッサン、ざまあwww」だ。
では野放しにしていいのかと問われたら、違う。
『犯罪予備軍リスト』とリスト化されても、
犯罪者に仕立てる目的で男に近づき、心を煽る。
金も命も助かったなら女がやったこと。誘惑に負けた男が悪い。女を許してやれと声が上がるかもしれない。
立場が逆ならどうする? 大事件じゃないか。
警察へ提出するプリントを束にしようとするが、四隅が整わなかった。
嘔吐しそうな緊張が手を震えに表して、やむなく、
使い古しのクリアファイルにプリントを馳せた。