見出し画像

短編: ねぇ、みんなの秘密ってある?

ねぇ、秘密ってある?
そうか、じゃ、私だけかな。
時効だし、聞いて欲しいんだけどいい?

ありがとう

私の幼なじみに変な子がいて、悪魔みたいな子。
その子、健ちゃんっていうんだけど、健ちゃんは
健ちゃんの親が「うちの子が来たら追い返してください」って電話してくるほど、
やんちゃな子だったのね。

みんなで公園で遊んでいると、健ちゃんだけは
ママの所へ行って
「クソババ、死ね!」
持っている縄跳びで健ちゃんのママを叩いて、
お砂場遊びのバケツで水をかけたとかね。

健ちゃんのママが妊娠していた時、健ちゃんが後ろから飛び蹴りして…赤ちゃん死んだんだって。

私達や近所の人にも悪態を突いて、散歩している犬を追いかけて棒で殴るような子。
通行中の車に石を投げてガラスを割るような。
自転車がパンクしたら、健ちゃんの仕業。

健ちゃんの親も困って、病院に連れて行っても
どこにも異常がなくて……。
「涼香ちゃんはアスペルガーでいいね」
うちの母が返事に困っていた。

健ちゃんのパパやママは一生懸命に健ちゃんへ
注意していたし、一生懸命に周りへ謝ってた。
運動会とか大勢の前で可哀想だったな。

健ちゃん?今?今は居ないよ。

私が小6のときね。お祭りの日。
健ちゃん、空の貯水槽に落ちて。
でもね、いつかこんな日が来るんじゃないかって思ってた。

お祭りの日、みんなでお神輿を担いで。
健ちゃんは太鼓のバチで、近所のおじさんを叩いて悪態突いててさ。
健ちゃんのママが注意するんだけど、聞かない。

健ちゃんはお神輿の列から走って貯水槽の縁へ。
健ちゃんのママは
「健太!いい加減にしなさいよ!」
貯水槽には柵がなかったから、危なくて、健ちゃんのママが追いかけて
「危ないからこっちへ来なさい!」

健ちゃんの手から太鼓のバチがスルッと貯水槽に落ちて、健ちゃんがバチに気を取られて身体のバランスを崩したとき。

健ちゃんのママが健ちゃんの手を貯水槽へ押したの。
私はスローモーションで健ちゃんが落ちて行くのを見ていた。
お神輿を担いでいた人達も声を上げたの。

でもね、誰も反射的に健ちゃんを助けようとか
健ちゃんのママが助けを求めるとかなくてさ。
「ああ、と思ったらドタっていう低い音が」

不思議なんだけど、誰ひとり咄嗟にスマホを取り出して救急車を呼ぶなどしなくて。
軽トラに乗ったおじいさんが異変に気づいて、
みんなが我に返った感じ。

警察が来て、事情聴取があったんだけど
誰も健ちゃんのママが不利になる証言はしなくて。

家に帰って、うちの親がコソコソ
「あれで良かったんだよ。なまじ賢いから
あの子が大人になったら」

月曜日に学校へ行っても健ちゃんの話はしない。
もしかすると、うちの親みたいにどこの家庭も同じ話で完結したんじゃないかって。

親友よ、聞いてくれてありがとう。
大学受験まであと1年、これで集中できそうよ。