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小説: ペトリコールの共鳴 ㉒

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第二十二話 喧騒はまだ終わらない ①



そろそろ春が来る。いや、3月は春だな。
今年の冬が延長しているのか、寒い日が続き、
桜の開花予想は外れるんじゃないかと思っている。

もう終わった。
俺は検察官からの呼び出しにも応じ、
愛羅には裁判が待っている。

心境では俺には知ったことじゃない。早く忘れたい事件で後味が悪すぎた。

報道によると行方不明の3人は関東の各所で帰らぬ人として発見され、テレビやネットは連日この事件でお祭り騒ぎだ。

愛羅の心の闇が公になる。
愛羅の事件を通して、現代社会における様々な問題を浮かび上がり、
幼児虐待、DV、人身売買、貧困、格差社会など、社会問題が議論され、法の整備を求める声や児童相談所が持つ権限の拡大などが叫ばれた。

でも俺には終わった。


ハムスターのキンクマが語彙を増やして賑やかさがパワーアップした。
自作の詩を書き、朗読している。
知らないことを検索しては知識を増やし、会話は中高生と話している気分になる。

キンクマは俺の日常やネット上の情報をインストールしていくように、子どもの知育が伸びていくように。

世界にはまだ解明されてないことがあり、検証を重ねてないだけで分からないことが存在する。

どうしてキンクマだけが人間並みの知性が身についているのか原因などは不明だが、
俺はたまたま研究室や多数の家庭にいる動物が一般的且つ平均的な能力なだけで、
マイノリティはキンクマみたいにひっそり生きているのかもしれないと推測した。

書籍などでは昔、マイノリティは見世物小屋に売られて人権などなく、現代は動画などでマイノリティ側が理解や生きづらさを解消する策として露出をしているが、マイノリティへ辛辣な意見や誹謗中傷はやはり人権などないと感じる。

先駆者などを見ていると、日陰で静かに生きる選択をしてしまう。自分達の身は自分達で守るのが妥当に思えるからだ。

キンクマが人間と同じ言動ができるからといって、大学の研究室へ持ち込み原因追究などしてしまえば、キンクマは今までの開放的な暮らしから牢屋にブチ込むのと同じになってしまう。

俺がロッカーに閉じ込められて、不潔で身体を拘束された経験とキンクマがケージに閉じ込められて自由がなくなるのは似て非なるかもしれない。

キンクマの現象を知ると、誰の幸せに繋がるのか考えた。
キンクマなのか、俺なのか、他のネズミ達か、国民か。そうなると幸せは権威だけが享受する。

キンクマを持ち込んだ研究室の権威だけが得をするのはキンクマの立場になれば承服しかねる。

色々な理屈をつけているが、キンクマはキンクマのまま家族として生活していくのがベストに思った。

キンクマには、ごく普通にいる人間の家庭で育つペットとして接している。

時々遊んでやるが、キンクマは週刊誌の方が面白いなどと抜かしている。
どうやら『週刊エックス』社会部記者の浮所いずみを気に入ったようだ。

俺とキンクマへ安穏がやってきた。
そう安心しているときに1通のDMが俺のSNSへ表示された。
SNSネームは女性を示唆するもので
「また女?」


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