ショート: 秘密をぶっ潰せ
ポチが面白い話を始めた。
「ロウ、最近の不倫は専用のマッチングアプリで既婚者が知り合うんだって!」
なんだ、そのウキウキした目は。
バタ子がすかさず口を挟み
「あっ、それ、『oni island』ってアプリよね?
おにぎりが並んだお弁当箱みたいに、一期一会を楽しむって謳い文句があったわね」
かったるそうに椅子へ持たれたウッキーは
「お前ら、詳しいな」
事務所では、リラックスしながら雑談を交えた打ち合わせをしている。
俺は「マーロウ探偵社」の社長で、別れさせ屋としての業務が多忙だ。
元ホストのポチ、ハッカーのバタ子、ハニートラップのウッキーと一緒に依頼を受けている。
真夏の昼下がり。
依頼者の彩菜から
「旦那の行動が怪しい」と相談を受ける。
俺たちはアイコンタクトを取りながら、
旦那は「oni island」を使っているのではないかと疑った。
ポチは旦那の行動を尾行し、
ウッキーは変装してアプリに登録。
バタ子は旦那のスマホを調べる。
それぞれが調査を始めた。
調査が進む中、ポチが旦那は毎週金曜日の夜に、
アプリのオフ会に参加していることを突き止めた。
「なんだ、こりゃ。いかがわしさ臭しかしねぇ」
ポチから連絡を受けたウッキーは潜入し、
旦那が他の利用者と親しげに話している様子を撮影した。
バタ子はアプリのデータベースを解析し、運営が不正な方法で利用者を増やしていることを発見した。
「ロウ。これ、ヤバい案件かもよ」
書類を作成する俺は顔を上げ
「どういうことで?」
「トーマルキッズ絡みかな」
あ〜あ、バタ子は電子タバコに手を伸ばす。
俺は正義感が強くない。
自分自身の出自が母親の托卵によって生まれた子で不倫が許せない。
両親が子どもを諦めた40歳過ぎに、お袋が妊娠。
「まるで川から流れてきた、桃から生まれた桃太郎みたいだね」
無邪気に喜んだ親父は、出産直後の俺を見て、
「顔が整いすぎている」
疑念を抱いて、俺が高校生になりDNA検査でお袋の托卵がバレた過去を背負っている。
表向きは依頼人のために真実を追求する若い探偵。
そんなワケないから。
俺は情報をまとめると、依頼者の彩菜だけではなく
警察や行政に事実を伝える準備を進める。
「フン、ざまあwww」
俺たち4人は集めた証拠を持って、彩菜を探偵事務所に呼んだ。
彼女は不安そうにハンカチを握りしめている。
男前のポチが優しく告げる。
「真相を知るのは辛いかもしれませんが、
あなたに幸せな道を歩んでほしい」
レジュメを読む彩菜は嗚咽し、バタ子が背中をさすって慰める。
この時間は俺にとっても親父の姿に被り、切ない。
「夫とアプリ会社から慰謝料がもらえるの?」
彩菜が尋ねる。
ウッキーは冷静に
「未成年の不倫相手もいるから、弁護士に相談するのがいいと思いますよ」
最終的に、依頼者がパートナーと真剣に話し合い、どんな結果になっても彼女の幸せを取り戻すことが宝だ。
やれ次は「oni island」の解体だ。
警察、行政、頼んだぜ。
俺はいつも考える。
浮気調査は単なる証拠集めではなく、人間関係を深めるプロセスであり、
俺やポチ、バタ子、ウッキーは真実を追い求め、依頼者の安寧を取り戻す戦場にいるのだと。
依頼を終えた後、虚しさや不信感が募る。
「愛し合って結婚したんじゃねーのか」
虚しさと不信感が募りまくる。
不倫するならパートナーへ正直になり、関係性を再構築しろと憤るなんてある。
俺たちはただの探偵じゃなく、依頼者の心を壊している存在なのかもしれないし、
時に自問自答しながら、他人の秘密を知ることがきび団子のようなご褒美で、悪趣味さに笑う自分がいる。