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子を思う母はみな愚か「オレがマリオ」俵万智

歌人の俵万智さんの歌集「オレがマリオ」から。


子を連れて西へ西へと逃げてゆく
愚かな母と言うならば言え


東日本大震災から5日後に
福島に住んでおられた俵万智さんが、
息子さんを連れて石垣島へと移住されました。

不安だらけで島に向かった日や
移住までの決断、
徐々に島に慣れ親しんでいく様子
が短歌で綴られています。



「西へ西へと」

この言葉に震えます。
余震や原発事故がどうなるかもわからない中、とにかく遠くへ遠くへ。
不安なことから子どもを遠ざけようとする親心。

きっと、

「そこまでしなくても。」
「きっと大丈夫だよ。」
なんて言葉もたくさんあったろう中、
夢中で子どもの手を引いて、
守ろうと思われたのでしょう。



「愚かな母と言うならば言え」

母親って、子どものためならどこまでも愚かになれますもんね。

「我が子を守りたい。」
ここにスイッチが入ると、
そばで見る人からすると、本当にカッコ悪い生き物だと思います。自分の命だって投げ出すと思います。

心底子どもを思う母の決断ならば、
それが正解なんですよ。
他人には何を言う権利もありません。
涙が止まらない一首でした。


子を守る小さき虫の親あれば今の私はこれだと思う



石垣島まで行ったものの戻ろうか、住もうかと迷う日々。

「オレが今マリオなんだよ」島に来て
子はゲーム機に触れなくなりぬ


「自分の家に帰りたい」と漢字練習帳に書くほど帰りたがっていた息子くんの

この一言が母の決断に勇気をくれたのでしょうね。


島の自然と共に暮らす毎日の歌が清々しくて、一緒に島の空気を味わえます。


大変な生活の中でも湿っぽさがなくて、
明るく爽やかな歌が並びます。


震災直後も

電気なく水なくガスなき今日を子は
お菓子食べ放題と喜ぶ


食糧の備蓄、という考えがまだ薄かったこの頃。あるといえば、買い置きのお菓子ですからね。

悲惨なことを悲惨なまま歌にするのでなく、
明るくからりとユーモアに変えてしまうその生き方が俵さんそのものなのでしょうね。

母は母、マザーはマザーでいいのにね 
しんぐるしんぐる銀杏振る道


これは前歌集「プーさんの鼻」の歌ですが、

世間のシングルマザーへの批判に傷ついても、こんなに軽やかに晴れやかに跳ね返しています。


子どものためなら、何もかも投げ打ち、
どこまでも愚かになれる。
母親がこの世で一番強いのよね。やっぱり。





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