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著…桜木紫乃『ホテルローヤル』

 教師と女子高生の心中事件が起きてしまったせいで廃墟と化したラブホテル「ホテルローヤル」。

 このホテルと多かれ少なかれ関係を持った男女が、時代も場所も立場も少しずつ隔てながら交錯し合う…というオムニバス小説。


 なぜ事件のあった一室のベッドが丸いベッドに変更されたのか?

 なぜその丸いベッドが使用済のまま長く放置されているのか?

 なぜ教師と女子高生が心中に至ったのか?

 そもそもなぜホテルローヤルという名前なのか?

 といったことが、ページをめくる度、腑に落ちていきます。

 謎が解けていく、なんて大袈裟な言葉は相応しくないような気がします。

 なぜなら、「ホテルローヤル」はフィクションな存在だけれど、ここで描かれている男女のあり様は、今まさに日本のどこかで日常としてリアルタイムに発生していることでしょうから。

 きっと、こんな風に打ち棄てられたラブホテルって、日本全国にあるのでしょうね。

 この小説の中で、

部屋はまるで男と女のなれの果てを見るようだ。

(著…桜木紫乃『ホテルローヤル』 単行本版P14から引用)


 という表現が出てくる通り、男と女ってとても哀しい。

 心も身体も愛し合っているカップルなんてそうそう居ないし、相手を理解するなんてこと、出来やしない。

 ホテルローヤルの持ち主にあたる女性が、部屋に入り込んだ蛾を外へ出してやろうとするくだりがあるのですが、

ティッシュの先で蛾をつついてみる。窓の方へと誘いながら、ようやく外へとだした。もう羽ばたく力が残っていないのか、ふわふわと秋風に乗りながら少しずつ落下してゆく。

(著…桜木紫乃『ホテルローヤル』 単行本版 P81から引用)


 なんてことになってしまい、なんだか凄く寂しいです。

 救えないし、救われない。

 ホテルローヤルの三号室で死んだ教師と女子高生は、飛び降りたんじゃなくて四角いベッドの上で亡くなったのだけれど、その蛾とこの二人は、本質的には同じような気がします。

 救われるための最後の力すら残されていない感じが…似ている。

 哀しいくらいに似ている。

 けれど、この小説の中においては、わずかではあるものの、男女の幸せなひとときもちゃんと描かれているので、読んでいて少し安堵しました。

 まるで、闇夜の中で小さく光る星を見つけたかのような印象。



 〈こういう方におすすめ〉
 廃墟にまつわる小説を読みたい方。
 男女の情のもつれ合いに関心がある方。

 〈読書所要時間の目安〉
 2時間くらい。

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