文…山下明生 絵…町田尚子『だれのものでもない岩鼻の灯台』

　灯台守がいなくなった灯台を描いた絵本です。

だれのものでもない岩鼻の灯台

　※注意
　以下の文には、結末まで明かすネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。

　お役御免になった建物を見ると、わたしは寂しい気持ちになります。

　その姿を、自らと重ね合わせてしまうからでしょうか…。

　でも、この絵本の灯台はちっとも寂しくなんかありません。

　灯台から人がいなくなったので、「ちょっとおじゃましてもいいですか？　間借りができると聞いたもので」と、島に棲む生き物たちが灯台に集まってくるのです。

　空を飛ぶ鳥たちも、雨をしのぎに集まってきます。

　海の生き物たちも、灯台が作る月影のもとに集まってきます。

　月影のもと、おびただしい数のホタルイカがその青い光を輝かせるさまは、まるで海の中にも灯台があるかのような美しさ。

　だからこの灯台は寂しくなんかありません。

　もう、灯台としてはお役御免になったけれど、沢山のものたちが別の理由で灯台を必要としています。

　人間もそんな風にあれたら良いですよね。

　「歳を取ったらもうお払い箱だよ」じゃなくて。

　この灯台のように、今まで担っていたのとはまた違う役目が人間にも必ずあるはず。

　〈こういう方におすすめ〉
　第二、第三の人生を模索中の方。

　〈読書所要時間の目安〉
　15分〜30分くらい。