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りんご→ごりら→らっぱ……この言葉が出会うことって実はそんなにないー谷川俊太郎+和田誠『しりとり』(いそっぷ社)



か……
か?
かあ
か!
……か!!


これは、ひと文字しりとり。














これは、無音しりとり。

どちらもわたしが考案したしりとりだ。一文字でしりとりはできるのだろうか、音のないしりとりが成立するのだろうか。そんなどうでもいい気持ちと、結構本気な気持ちが同居した思いつきしりとりだった。結果、これらのしりとりは「間」を感じあうゲームと化した。とりわけ、無音しりとりは、どのタイミングで相手が自分に言葉を送ってきて、それを受け取るのか、2人の間に漂うディスタンスをうまい具合にキャッチする必要がある。


ドライブに誘われたら、必ず、車内でしりとりしよう!と誘い、電車での旅の道中は、小さなノートを広げ、絵しりとりをうながす。
わたしは、しりとり好きだ。


「りんご」


と一言、相手の目をじっと見つめながら、この単語を発すると、何人が「ごりら」って返してくるだろうか、と実験をしたこともあった。ほぼほぼ「ごりら」と返してくれた。しりとり成立である。


その日は、大阪を旅していた。だいたい旅先では、本屋さんに立ち寄る。toi booksという新しい本屋さんができたらしいという噂を聞きつけて、ちょいと足を伸ばして行ってみた。

そこで出会った本が『しりとり』。谷川俊太郎さんと和田誠さんが作った絵本。1965年に私家版を出し、その後、いそっぷ社さんより刊行。

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タイトルと装丁にひかれて、手にとってパラパラとページをめくる。
いきなり従来のしりとりのルールから逸脱をしていた。


さいころ→ロケット→となりのみっちゃん


え……「ん」ついたじゃん。終わりじゃん。
が、しりとりは終わらなかった。


となりのみっちゃん→Chance Operation


まさかのジョン・ケージでつなぐの?!そして、また「ん」で終わってますけど(笑)
※Chance Operationとはジョン・ケージが提唱をしたコイントスなどで音を決めていく作曲法、偶然性の音楽のこと。


ここで、この本を買うことが確定しました。
その後も、この絵本の中では、しりとりのルールが生まれ変わっていて、言葉と言葉のつながりが生き生きしている。

しりとりは、単に言葉のつながりかもしれないけれど、この絵本を読み進めていると、しりとりは、普段は出会うことのない言葉たちを無理やりつなげちゃうわけだから、とてもシュールなお話ができあがってくることに気づいた。


りんご→ごりら→らっぱ→ぱんつ……

この言葉たちが並列されることって、よく考えたらしりとりくらいだよね。りんご好きなごりらがぱんつを履いてらっぱを吹く、なんていう物語、あんまりないでしょう。と考えると、しりとりというゲームは、あり得ない言葉の出会いを楽しむことができる装置なのかもしれない。
しかも、対戦する相手によって、持ち合わせている言葉が違うから、どんな無茶なつながりができるのか、毎度毎度スリリングなわけだ。


そこに、一文字しりとりや無音しりとりで感じた、相手との間合いとか空気感が乗っかってるから、さらに言葉と言葉のつながりが立体的にたちあがる。


谷川俊太郎さんと和田誠さんの影で、何故、わたしがしりとりに惹かれるのか少しわかってきた気がするぞ。



では。みなさんも。

りんご→





追伸
何も語らずに、自分の好きな本を7日間に渡って紹介する企画「7bookcovers」に参加したのだが、やはり、なぜ、その本が好きなのかを伝えたくなってくる。7bookcoversの番外編として、ここで各本への想いを綴ろうと思ったの。

 


《書籍情報》
谷川俊太郎+和田誠『しりとり』
出版社:いそっぷ社
出版年:第1刷1997年、第3刷2006年
http://www.isopsha.com/b10.html

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《本屋さん情報》
toi books
大阪府大阪市中央区久太郎町3丁目1−22 OSKビル204号室
公式WEBサイト



【プロフィール】
中村翔子(なかむら・しょうこ)
本屋しゃん/フリーランス企画家
1987年新潟生まれ。本とアートを軸にトークイベントやワークショップを企画。青山ブックセンター・青山ブックスクールでのイベント企画担当、銀座 蔦屋書店アートコンシェルジュを経て、2019年春にフリーランス「本屋しゃん」宣言。同時に下北沢のBOOK SHOP TRAVELLERを間借りし、「本屋しゃんの本屋さん」の運営をはじめる。本好きとアート好きの架け橋になりたい。 バナナ好き。本屋しゃんの似顔絵とロゴはアーティスト牛木匡憲さんに描いていただきました。





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