書いてくれて、ありがとう【インタビュー記事#04:32歳。いきなり介護がやってきた。】
大切な一冊をおすすめしてくれた人と、1冊の本を出発点として人生を語り合うインタビュー記事第4弾。今回は、Bookshop Travellerで余白と同じ一箱店主を務めていらっしゃる「はるから書店」の小黒悠様にご登場いただいた。
おすすめいただいた本は『32歳。いきなり介護がやってきた。』。
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作者と境遇が重なった
本屋余白(以下、「余」):本日はお越しいただきありがとうございます!よろしくお願いします!
はるから書店・小黒悠様(以下、「小」):こちらこそ、よろしくお願いします。
余:早速、自己紹介をお願いします。僕らとはもう何度か会っていますが…(笑)。
小:はい!はるから書店の小黒といいます。普段は会社員としてお仕事をしつつ、ここBookshop Travellerの一箱店主としても活動をさせていただいております。先日オープン1周年を迎えました!
余:おめでとうございます!大先輩ですね。
小:ありがとうございます!
自己紹介を続けると、もともとは図書館で働いていて、今も本に関するお仕事なので、ずっと本が近くにある環境で生きていますね。
あとは、講談社のwebマガジンで週2回、ブログ記事を書かせてもらっています。
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余:週2回…!なかなかのハイペースですね。
どういったことを書かれているんですか?
小:今日のお話にも繋がってくることですが、私自身、数年前まで母の介護をしていたんです。ブログでは、介護の日々の思い出を綴っていました。介護についての記事が一通り終わったあとは、介護が終わったあとの日々について書いています。
余:なるほど、ありがとうございます。あとでじっくり拝見します!
それでは、早速ですが本のお話に移りましょう。おすすめいただいた本と、内容を簡単に紹介いただいても良いでしょうか?
小:はい。あまのさくやさん著『32歳。いきなり介護がやってきた。』です。
実はあまのさんはイラストレーターやはんこ職人もやっていて、手書きとはんこでサインももらったんですよ!こちらです。(編注:小黒さんにも本を持参いただいていました)
余:可愛らしいサインですね!
小:はい!
それで、本の内容ですよね。
あまのさんは、お母様ががんで亡くなられて、お父様が若年性認知症で今現在も介護を続けていらっしゃる方です。本書は、2009年にあまのさんがお父様の病状に気づかれた頃から、本が出版される少し前の2020年くらいまでの介護にまつわるエピソードをあまのさんご自身で綴られたものです。
余:ありがとうございます。こちらの本にはどうやって出会ったのですか?
小:偶然だったんですよね。先ほどあまのさんはイラストレーターもされているというお話をしたかと思うのですが、この本が出版されたときに、出版記念のイラスト展をやるっていうのをたまたまネットで見かけて。そのときまであまのさんのことは全く存じ上げなかったんですよね。でも、同年代で介護をされた方の本で、明日からイラスト展で、場所も近い、これは行かなきゃ!ということでお尋ねして、そこで出会いました。
余:インターネットってすごいですね…(笑)。もしかして、サインもそこで?
小:そうです!
余:良いですね!
さて、こちらの本について語る上で、小黒さんご自身の介護についてのお話は避けては通れないかと思うのですが、差し支えない範囲で教えていただいてもよろしいでしょうか?
小:私、先ほど申し上げたブログで全部明るみにするくらい書いちゃってるんです(笑)。だから大丈夫ですよ。
27歳の時に母が脳梗塞になってしまい、34歳のときに母が亡くなるまでの6年と8ヶ月、母の介護をしていたんです。母と二人暮らしだったので、私が介護するしかなかったのもあり。
余:そうだったのですね…。こちらの本に出会ったのは、介護中ですか?
小:いえ。母が亡くなってから3-4年ほど経ってからですね。
でも、ちょうど母と過ごした日々を振り返り、思い出しながらブログを書いている時期だったので、自分の中では「現在進行形」の気持ちでこの本に出会えたと思います。
余:そうなんですね。ちなみに、介護のブログはなぜ始められたのですか?
小:出発点は介護中ですね。先ほど申し上げたように図書館員を務めていたのですが、私のように在宅で介護する人の声がわかる本って意外となくて。でもそういう声が聞けたらすごく気が楽になるなと思っていたので、少しでも似た境遇の人の力になれば嬉しいなと思って書き始めました。
余:介護していた頃の小黒さんが読みたかったものを書いていらっしゃる、ということなのですね。介護当時の自分に向けたブログ…ともいえるでしょうか。
小:うんうん、そうですね。
大切なのは、ずっと好きでいること
余:本の内容に少し踏み込んでいきたいです。何か印象に残っているエピソードはありますか?
小:たくさん付箋を貼りすぎて何が何だかわからなくなっちゃってるんですが…(笑)。
がんで先が短いことがわかっているお母様が、あまのさんと一緒に洋服の買い物にいくシーンですかね。
お母様は自分でも洋服を試着するんですけど、娘であるあまのさんにも似合うかを考えて選んでるんですよね。自分がいなくなったあともあまのさんがその服を着続けられるように。
お母様の娘さんに対する思いやりと、それまで築き上げた関係性やお母様の優しさがすごく詰まっているシーンです。あまのさん自身もまたその優しさに気づいて、切なさと母が生きている実感を同時に感じつつ、母にはあえて言わない…という描写も含めて、じんとくるものがあります。
余:胸が詰まりますね。少し状況は違いますが、僕自身も病気のおばあちゃんと過ごした日々のことを思い返したときに、思い出に残ってるのって意外とそういう何気ない出来事だったりするんですよね。
小:本当に。私も、いちばん思い出に残っているのは日常の些細な出来事とか、一緒に食べたご飯の味とか、そういうものです。介護って、特別なことじゃなく、「生活」だし「人生の一部」なんだな、と感じます。
余:本書でも、そういった日常の出来事がたくさん書かれているのでしょうか?
小:そうですね。日常の出来事を、前向きに書かれているのも大事なポイントだと思います。
余:前向きなんですね。やっぱり僕が想像する「介護」ってどうしても辛い印象があります。介護に対して前向きに向き合うにはどうすればいいのでしょうか。
小:多分、相手をずっと好きでいることなんじゃないでしょうか。
もちろん、介護をしていて辛いこともあります。それまでと違って、子が親を世話しなければいけないという状況は苦しいこともあります。
でも、それでもやっぱり親は親で、立場は逆転しても気持ちは逆転しないというか。好きだっていう気持ちが辛い気持ちに呑み込まれることがないようにすることがとても大事だと思うんです。
余:小黒さん自身のご経験から滲み出る言葉だと感じます。
小:私も、介護のはじめは「よし!頑張るぞ!」って意気込んでいたんですけど、やっぱり1年、2年もすると疲れてきてしまって。本当はもっと遊びたいとか、結婚も考えたいとか、思うところはありました。そういう辛い気持ちを乗り越えられるようになったのは、周囲やときには母本人に自分の辛さをうまく共有できるようになってからでしたね。
本の話に戻りますが、そういう意味では、前向きなことや綺麗事ばかりではなく、辛かったところも包み隠さず書いてくれているのも本書の魅力だと思います。
この本は、私の「仲間」です。
余:ありがとうございます。
話題は変わりますが、この本はどんな人に読んでほしいでしょうか?
小:若い人に読んでほしいです!20代とか、30代とか。
昔に比べると、親子の年齢がだいぶ離れるようになって、若い人たちにとっても介護ってそこまで遠い話じゃなくなってきたと思うんです。ちょうど私のように。
仕事も落ち着いた頃に介護を迎えるのと、そういう若い頃に介護しなければならなくなるのとではやっぱり大変さも違うから。若いうちからそうなる可能性を想像できるような一冊になればいいですね。
余:本当におっしゃる通りですね。
小:一方で、最近はヤングケアラー(編注:親の介護に忙殺されることで様々なデメリットを被る若者のこと)なんて言葉も流行っていますが、介護ってそれだけじゃないんだよ、というのもわかってほしい。確かに辛いこと、大変なこともあるけれど、そういう言葉で括れない温かみみたいなものにも目を向けてほしいんです。
余:確かに。僕ら自身、コロナ世代と呼ばれたり、満足のいく大学生活を送れなかったという事実はありますが、そういうのを「大変だね」っていう言葉でまとめられるとなんだか距離を感じてしまいます。コロナだったからこそこうして本屋余白をはじめて小黒さんに出会えたように、「よかったこともある」ということも含めてちゃんと見てほしい。
小:とてもよくわかります。
余:最後の質問になります。小黒さんにとって、この本を一言で表すとしたら?
小:はい。この本は私の仲間です!
余:その心とは。
小:介護していて、周りの人に話を聞いてもらってはいても、この年齢だとどうしても同じ経験を共有できる人はなかなかいなくて。話を聞いてくれたとしても、プライベートな話なのでどうしても気を遣ってしまうんですよね。
だから、こうやって、若い方が介護のことをすごく正直に丁寧に書いてくださっている本に出会えてよかったんです。「同世代の仲間に出会えた!」っていう気持ちでしたし、書いてくれてありがとう、と思いました。
余:「書いてくれてありがとう」。
小:はい。本を読みながら、「そうだよね大変だったよね」「お疲れ様」って言ってもらったり、逆に言ってあげたり、そんな仲間みたいな存在に出会えたことに、心から感謝です。
余:小黒さんにとってこの一冊がどんなに大切な本か、少し理解できたような気がしてとても嬉しいです。今日はありがとうございました!
小:こちらこそ、ありがとうございました!
編集後記
「この本は私の仲間です!」
小黒さんに「この本を一言で表すとしたら?」と恒例の無茶振り質問を投げたときに、迷わずほがらかにそうおっしゃられたことが、本当に印象的でしたし、胸がじんとしました。
その一言についてもそうだし、小黒さんと接していると、日々を丁寧に、柔らかに、そして強く生きている方だな、といつも感じます。
僕にとってはまだ「介護」は遠く感じられるし、骨の折れる大変な作業、という印象をどうしても持ってしまっていました。でも、そうやって終始前向きに介護の経験や本のことを語る小黒さんを見て、来るべき未来に向けた心の準備も少し整った気がします。
最初にも書いたように、小黒さんはBookshop Travellerの一箱店主の同僚でもあります。「はるから書店」はちょうど本屋余白のお隣に棚を持っているので、ぜひ尋ねてみてください。
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