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93 川上未映子『黄色い家』

いろんな感情が渦巻いた作品。読んでて終始重々しかった……。辛くて、苦しくて、でもどうしようもなくて。生まれた環境や時代背景でその人の幸せは大きく左右されてしまうことを突きつけられた。花が闇バイトに手を染めてしまったのも、花自身というよりも、相当な家族事情があったり、スナック「れもん」が火事に遭ったり、お金に困っている人ばかりが周りにいて、でも誰もまともな仕事ができる状況になくて、誰もが騙されたり詐欺に遭ったり暴行を受けたりしてて、頼れる人もお金もないような諸々の状況がそうさせてしまったという感じで、私が花の立場だったら、闇バイトはしていないはずだけど、でも、かなり精神的に追い込まれて、今の私なら判断しないであろう選択肢を取りうるかもしれないとも思う。ある程度のお金があるだけで、心の平穏が一定程度保たれるのは間違いない。生きること、生活するということ、お金を稼ぐことを常に考え、人一倍責任を感じている花に対して、私は生活自体は当然で、その上での人間関係やキャリア、自己成長の悩みばかりで、かなり恵まれていることを強く実感した。冒頭と終わりにコロナ禍の現代、その間に1990年代の共同生活が描かれている構成で、冒頭にあった黄美子さんの犯罪ニュースと、終わりとでは、印象がかなり違った。「犯罪」と一口に言っても、その人自身が100%悪いのか否か、罪の意識があるのかは別問題だと思った。セーフティネットの重要性を特に感じた。平和に見える自分を取り巻く社会も、実は犯罪が蔓延っている可能性や知らない世界があると思うとゾッとした。けど、その根源の所在をあまりこれまで考えられていなかった気がするというか。ダメなものはダメだけど…。


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