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動物の見る夢

 他人のはなす「最近見た夢」の話ほど、聞いていてつまらないものはない。
 しかし、そうとは知りつつも、あまりに突飛な夢を見たりすると、どうしても他の人に話を聞いてもらいたくなってしまう。

……ということで、先日見た夢の話をしたい。

 私が見る夢の舞台は、なぜか、母方の実家であることが多い。詳細に数えたことはないが、五回に一度は夢の中に出てくる。
 そこで起こることはある程度決まっていて、だいたい得体の知れない化け物(動物?)に襲われる。
 先日見た夢では、翁の能面(白式尉)のような顔をしたマントヒヒ(?)が襲ってきた。体感的に、体長は2mはありそうで、「これは襲われたらまずい」と思った矢先、ヒヒと目があう。その瞬間、私は障子を張り倒して、祖母の家から庭へ飛び出す。砂利の敷き詰められた地面の上を、一目散に逃げていく。
 外は夜のため、暗かった。草むらの陰に隠れてぶるぶる震えていると、カサカサッ、カサッカサッという草の擦れる音がして、もしかしてと思い音のする方を見ると、いきなり眼前に能面の顔が現れて、頭の左右を両手で摑まれた。「うわぁ!死ぬ!」と大声を発した瞬間、私は夢から覚めて、白い天井が目に入ってきた。

 先日見た夢のあらましは、ざっとこんな感じである。
 今回はマントヒヒみたいな動物だったが、それがヒグマであったこともあるし、トラであったこともある。その中で、最も襲ってきた回数の多い動物はといえば……ヒト、すなわち人間である。
だいたいは、手に包丁を持っている。私が存在に気づいたときには、すでに数人が殺害されていて、「次はお前の番だぞ」というニヤついた表情を見せたあと、私に襲いかかってくる。

……なんだか気持ちが悪くなってきた。夢の具体的な内容を話すのは、これで終わりにしたいと思う。

 動物に襲われる夢を見るたびに頭に浮かぶのは、「動物は夢を見るのだろうか」という疑問。加えて、もし夢を見るのだとしたら、彼らはどんな夢を見ているのだろうか、ということも気になる。
 書籍や論文に目を通してみると、どうやら種々の実験を通して、猫や犬などの動物も夢を見ている可能性が高いことが確認されているようだ。
 では、彼らはどんな夢を見ているのだろう。こればかりは確認のしようがないが、試みに夢の中身に想像を巡らしてみるために、一篇の詩を紹介しておきたいと思う。

「犬も
 馬も
 夢をみるらしい
 動物たちの
 恐しい夢のなかに
 人間がいませんように」
川崎洋『ほほえみ には ほほえみ』童話屋、P42)

 引用したのは、詩人・川崎洋の「動物たちの恐しい夢のなかに」という一篇である。
 もし動物たちの見る夢の中に、人間が現れるとしたら、どういった存在として立ち回るのだろう。そこには、日常生活の中で、動物が人間をどう見つめているのかという疑問も含まれている。川崎が「恐しい夢のなかに 人間がいませんように」と願った理由がここにある。もし、動物たちの見る怖い夢の象徴として「人間」が現れているとしたら、おそらく日常においても動物は人間を怖れている。想像するだけで、苦しい気持ちになってくる。

 ほんとのところを知りたいけれど、動物に直接訊ねるわけにもいかない現実の中で、川崎洋は「詩」という形でそれに応えようとした。非常に奥深い詩作であると思う。


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