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在野研究一歩前(24)「読書論の系譜(第十回):澤柳政太郎編『読書法』(哲学書院、1892)⑩」

前回に引き続き、澤柳政太郎編『読書法』(哲学書院、1892)の「読書論」について見ていきたい。今回は「第十章」の内容である。

「第十章」(該当ページ:P80~88)↓
「ロック氏か讀書の心得を示せるものを略説すれは凡そ左の如し、
 其一、著者の言語に拘泥せすして其思想を失はさらんことを努むること、
 其二、其題目論説に適當要用なる思想と無關係不必要なる思想とを明に區別すること、
 其三、論説の條理主旨の何れにあるやを明にし枝葉岐路に陷らす、眞意を失はさらんことを努むること、
 其四、論説の關係輕重を了知すること、
 其五、論説の根據の何れにあるかを明にすること、
 如上の用心を以て讀書するときは能く其要領を得て大躰に通し稗益する所少なからさるへし」(P81)

⇒ジョン・ロックの「読書の心得」が紹介されている。
 ①「読書」において重要なのは、字面を追うことではなく、内容(思想)を掴むことである。
 ②書籍中の核となっている「思想」と、あくまで副次的なものとして扱われている「思想」とを、きちんと見分けて区別すること。
 ③「読書」中では、常に書籍中において中心軸となっている話題を把握しつづけること。
 ④各議論の重要度を抑えること。
 ⑤書籍中での主張が、どのような根拠をもとに成立しているのかを確認すること。

 以上の心得について、澤柳は賛意を示している。

「速讀 注意して讀むべし考へつつ讀むへしとは即ち速讀と相容れさるなり、前に述ふる所にして果して利あらは速讀の益なきこと知るべし、是を以て讀書するに當りては徒に歩武を進むへからす充分に其の意義を了解するを待て而して後漸々進むを可とす、然るに人多く速に讀了せんとするは甚た惜むへきことにして讀書の法を知らさるものと謂はさるを得す、讀まんとする書籍多しとも、讀書の時間少しとも速に讀むへからす苟も書を讀まんとするものは必す注意して讀むへし、急卒に讀書するは寧ろ初より讀書せさるの優れるに如かさるなり」(P83~84)
⇒澤柳による「速読」論。澤柳は「速読」に対して否定的な見解をもつ。澤柳は本書全体にわたって、「熟読」の重要性を説いてきた。「速読」は「熟読」と対立する読書法であるともいえるので、澤柳は「速読」を勧めない。また「速読」というのは、澤柳が批判していた「多読」の考え方と通じるところがあるため、更に澤柳の批判の声は強くなる。
 本文中では、以上の他にも、一回本全体の内容を確認するためにざっと「速読」し、二回目以降にじっくり読むという方法も紹介されていたが、それについても澤柳は否定的であった。

「飛ひよみ、ベーコン公曰く一部分を讀めは以て足れりとする書籍あり、全部を一讀すへきものあり、又微細に全部を熟讀すへきものありと」(P85)
⇒ベーコンは、「書籍」には「一部分だけ読めばいい書籍」と「全部読むべき書籍」、「全体を熟読すべき書籍」の三つがあると語っている。その考えを参考にして、澤柳は「飛びよみ」について意見を述べる。

「飛ひ讀みの法は實際甚た要用のことと云はさるを得す、固より此法は善良の部分を取りて不良の部分を捨つる所以にして唯速に讀み了らんとする趣旨にあらさるを以て其讀む所は充分注意して熟讀すへきなり」(P86)
⇒澤柳は「飛びよみ」については、適宜利用するべき方法として採用している。ただその利用には、きちんと書籍中から「正しい部分」を選び出すことができるという前提があり、これを充たせそうにないならばきちんと熟読した方がいい、と指摘されている

「意の適する所に從ひ方法規律を顧みす又愼密の注意を○くことなく漫然讀書する之を雜讀と云ふ」(P87)
⇒「読書法」を無視した本の読み方を「雑読」と呼ぶ。勿論、この読み方に対して、澤柳は全否定である。

「書籍は古今の賢哲か口を極めて稱讃するか如く至善の師傳なり至良の朋友なり吾人若し讀書の法則を知り之れに接するに其道を以てせは彼れは吾人に與ふるに至善の教訓と至良の忠告とを以てすること疑を容れす」(P87~88)
⇒「書籍」は古来から「至善の師傳」「至良の朋友」とされてきた。
きちんと「読書法」を踏まえた上で「読書」に取り組むことができれば、「書籍」に詰まった優れた先人たちの教訓・忠告に触れることができる。


 以上の「第十回」をもって、澤柳政太郎編『読書法』(哲学書院、1892)の纏めが終わりました。「本文引用+簡単な要約」というシンプルな形で纏めていったため、内容自体に不十分な点が多々あるとは思いますが、澤柳政太郎が本書において説いた主な「読書論」については、漏れなく言及することができたと思います。
 ぜひ、日々の「読書」に役立ててみてください。

 お読み頂きありがとうございました。
 

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