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夜空

 実家暮らしをしていた頃、夜一人家を抜け出して、じーっと空を眺めることが多かった。
 こう書くと、ザ・ロマンチストだが、本人にとっては切実で。親の転勤により、数年単位で住むことになった幾つかの地域。そこで見てきた夜空と、今目の前に広がっている夜空を、比較した。
 転じた先は、どこも九州内におさまっている。であれば、どの夜空も一緒だろう、と思われるかもしれない。だが、実際は異なる。転じるごとに、夜空から星の輝きはひいていき、しまいにはほとんど見えなくなってしまった。転勤によって、住む場所が地方から都市部へ近づいていったことが関係してるのかな、と子どもながらに考える。都市部は空気が汚いなぁ、そう思いながら、星の見えない夜空を眺めた。

 こんな昔語りをしてしまうのは、大抵本に触発されたときだ。
 今回は、作家・中里恒子の随筆「星」に影響されて、文章を書いている。

「死ぬとみんなお星さまになってしまうのだから、死んだ人に逢いたかったら夜空をみてごらん。ーーそう誰やらに教わったような、或いはお伽噺で読んだような覚えがあって、いつしか私はお星さまはみんな仏さまだと思いこんでしまった。沢山ひとが死んで、次から次へと月日が古くなったら、空に星が並びきれなくなって了うだろう。そしたら代り番こに下界をみるようにして、非番の夜はお月さまの宿で光らずにいるんだ。ーー星をみていると不思議に夢と現実の境がとれて、私は本気でこう思った。」
小池真理子選『中里恒子 野上彌生子』文春文庫、P28)

 中里が、おそらく子どもの頃に触れたであろう、夜空のお星さまの話。日々人は亡くなっていくのだから、星の数は増えていくばかり。その中でお星さまは、どんな動きを見せているのだろう。……想像の種は尽きない。

「濃い空をバックに、しいんと澄んで光ってるのもあり、ぎざぎざに全反射してるのも、又思い出したようにぴかりぴかりするらしいのもあって、「ああ、あれは人間のとき気取屋だったんだ、」「あれはせっかちだ、きっと、」「あいつは楽天家だったんだな、」などと、胸のうちで独り言を云ってみる。」
小池真理子選『中里恒子 野上彌生子』文春文庫、P28)

 一つひとつの星に個性を見出していく、この姿勢に突き動かされて、私は久々に夜空をじっくり眺めてみることにした。
 あいにく、実行に移したその日、京都の夜空に星の姿は見えなかった。確認できるのは、ほの明るい月だけである。
 中里の言によれば、あの月を宿にして、光らずに休んでいる星があるという。近いうちに光る姿をお目にかけたいものだ。



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