使いさばき
眠れない。でも、小説や評論を読む元気はない。そんなとき、枕元に持ってくるのが辞典類。
適当にページを開いて読む。それだけで、色々な発見がある。小説や評論には前後の文脈があるから、そうはいかない。辞典だからこそできる楽しみ方だ。
この強みにはネックがある。それは、辞典類は「読み終わる」ということがない点。
私は蔵書の中から手放す本を選定する際、第一に読み終わっていることを条件にする。そうなるとその時点で、辞典類は手放さない本に仕分けられる。
辞典類は場所を食う。スペースを回復したいと思えば、辞典類を手放すのが手っ取り早いわけだが、辞典類の魅力が邪魔をして、それを実行することができない。
辞典類は増えていく一方である。
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近年入手した辞典類の中から、一冊面白かったものを紹介したい。
東京書籍が刊行する辞典に、『慣用句・故事ことわざ・四字熟語 使いさばき辞典』がある。「使いさばき」……何とも魅力的な五字だ。書店で見かけると、さっそく手に取りパラパラめくってみる。
本書は、あすとろ出版刊行の辞典類(『慣用句の辞典』『故事ことわざの辞典』『四字熟語の辞典』)から、使用頻度が高いと思われる慣用語句(約3650)を厳選し、感情や場面ごとに配列しなおしている。「使いさばき」というタイトルに恥じない、実用性が高い辞典となっている。
引いたのは、「感情」の「贔屓」の項に分類されていた慣用語句。「依怙贔屓」という言葉はよく目にするが、それを「引き倒す」表現があることは知らなかった。
良かれと思ってする同調や援護が、かえって相手を窮地に追い込むという現象は、SNS時代、頻繁に目にする光景となっている。近年ますます賑わいを見せるファン文化は、時に 歪んだ「推し」の形をとり、批判されるべき場面であっても声援が送られることで、推される対象が更生の機会を失する可能性もある。結果的に、相手の足を引っ張ることになるのだ。
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もう一つ、「贔屓の引き倒し」とセットで覚えておきたい慣用語句。
「政治家の私を批判するなら、まずお前が政治家になってからにしろ」といった類の批判は論外としても、相手の過ちを指摘する際には、まず自分自身がその過ちに陥っていないかを確認することは、とても大切である。自省の一時を持つことで、批判の質も向上するように思える。
「贔屓の引き倒し」と「頭の上の蠅を追え」。いい言葉に出会えた。
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