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“般若心経”がよくわかるおすすめの6冊|齋藤孝「大人のための読書案内」(3)

弊社では過去の作品の電子書籍化に取り組んでいます。この度、今に通じる普遍的なテーマを掲げる本書「何から読めばいいか」がわかる全方位読書案内を電子書籍化しました。ここでは宣伝も兼ねて、その内容をちょっとずつご紹介していきます。3回目は、仏教の真髄となる教えが凝縮しているといわれる「般若心経」について。

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 仏教で、宗派や時代を超えて愛されているのが般若心経です。空海「般若心経秘鍵」(空海、加藤精一編、角川ソフィア文庫)は、空海が般若心経とは何かを語った本。訳から引用してみます。

「私たちは、生まれては死んでいく無限に続くであろう生死(しょうじ)の海を、一体どうやって乗り切って彼岸に渡ったらよいのでしょう。その実現のために必要なものはただ二つ、心を静めること、そして正しい智慧(え)を養うことなのです。」(46ページ)

 般若心経には「色即是空空即是色」など大事な言葉がたくさんあるのですが、空海は、重要なのは最後の真言(マントラ)部分だと言います。つまり「ギャーテーギャーテーハーラーギャーテー……」の部分を唱えれば、それでよいのだ、と。空海の考えを知ることができるという意味で、すばらしい本です。

「真言は不思議なり 観誦(かんじゅ)すれば無明(みょう)を除く 一字に千里を含み 即身(そくしん)に法如(ほうにょ)を証す」(111ページ)と、真言(マントラ)のすばらしさを説いています。

 空海関連の本でおすすめしたいのは、沙門空海(渡辺照宏・宮坂宥勝、ちくま学芸文庫)。ここには、空海の異常なまでの記憶力鍛練の修行過程がよく描かれています。「三教指帰(さんごうしいき)」序では、「一(ひとり)の沙門」から、虚空蔵聞持の法を示されたとあります。「法によつてこの真言百万遍を誦すれば、即ち一切の教法の文義暗記することを得」(47ページ)と教えられます。この沙門と空海の出会いが、日本文化史上重要です。

 般若心経の普通の解釈は、「物には実態がない」ということであり、そういう部分にみんなが注目するわけですが、空海に言わせるとそこが大事なのではない。存在すべてが真言(マントラ)のためにあるのです。

 仏教というのは、大きく分けると「仏教を勉強する行為」と「仏教の悟りを体験する行為」のふたつに分けられます。机の上での勉強だけをして、悟りの鍛練をしない人はたくさんいます。しかし、一流アスリートのように体での鍛練を突き詰めていくと、ある種のブッダ的悟りを得ることができる。教養としての仏教を学びつつ、体験の技としての悟りを得るために、私は呼吸法を知ることをおすすめします。

 実際、ブッダはどのような呼吸法をしていたか。それを追求しているのが釈尊の呼吸法――大安般守意経に学ぶ(村木弘昌、春秋社)です。私はこの本を若いころに読み、呼吸法の魅力にとりつかれ研究を続けました。ブッダも、呼吸法によって悟りを得ました。この本は、呼吸法の奥深い世界を知ることができます。

 私自身は仏教の勉強の多くを、中村元(はじめ)さんに頼ってきました。中村さんは15年前に亡くなられていますが、インドでも多くの人に尊敬されているインド哲学者であり、仏教学者です。ブッダの言葉――スッタニパータ』『ブッダの真理のことば感興のことば』『ブッダ最後の旅――大パリニッバーナ経(共に中村元訳、岩波文庫)などは、仏典としての基本を現代語訳にしたもので、ブッダの声を直接聞くことのできる本としておすすめです。

ウェッジ様 齋藤孝 写真 正面 ブルーネクタイ

齋藤孝(さいとう・たかし)
明治大学文学部教授。1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て現職。専門は、教育学、身体論、コミュニケーション論。『1日1ページ、読むだけで見につく日本の教養365』(文響社)、『友だちって、なんだろう?』(誠文堂新光社)等、著書多数。

――本書では、歴史、思想、日本文化、仕事、科学と大きく5つのパートに分けて、317冊に及ぶ膨大な良書が紹介されています。齋藤孝先生のナビゲートならではの「現実」と「教養」をつなぐ読書体験を、ぜひご堪能ください!

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