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旅に効く、台湾ごよみ

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台湾にも南国ならではの季節の移ろいがあります。この連載「旅に効く、台湾ごよみ」では、季節の暦(二十四節気)に準じて、暮らしにとけこんだ行事や風習、日台での違いなどを、現地在住の作…
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台湾に架かる希望の虹|寒露~霜降|旅に効く、台湾ごよみ(24)

ザビエルが見た十字架を背負うカニ10月に入ると東北から吹き始める季節風「東北風」は、台湾各地にさまざまな気象をもたらす。北西部の新竹では「九降風」と呼ばれるからっ風が名産の干し柿やビーフンに吹きつける。台湾最南端の屏東恒春では、「落山風」という強い風が吹き始める。3~4千メートル級の中央山脈から、季節風が滑り台を降りるようにやってくるのだ。あまりに強い風のため、恒春では昔から目を病む人が多かったという。 海上を渡ってきた東北風は湿り気を帯び、基隆にじとじととした「基隆雨」を

台湾の秋雨が囁く“忘れられた元日本兵”の記憶|白露~秋分|旅に効く、台湾ごよみ(23)

台風の季節である。 日本でかつてはこの頃の暴風雨を「野分け」といった。聞いただけで、地の肌がみえるほど草木が腰を曲げ嵐に耐える日本の里山が脳裏にうかび、上手い表現だなあと感心する。「猪のともに吹かるる野分かな」と芭蕉の句にあるように、イノシシでさえ吹き飛ばされそうな風である。 野分けが颱風の名で呼ばれるようになったのは、明治末期のこと。戦後に「台風」と改まったが、台湾では現在も「颱風」と書く。 颱風の語源には諸説あるが、ギリシャ神話のなかでゼウスに匹敵するほどの力を持つ

日本と台湾をつなぐ潮と風の流れ|小暑~大暑|旅に効く、台湾ごよみ(22)

梅雨があけて朝からカンカン照りの日差しに青い空のコントラストが目に刺さる。午後には唐突に曇りだし、バケツをひっくり返したような驟雨が過ぎれば熱された空気がいくぶん柔らかみを帯びる。台湾に来て手放せなくなったのが、UV加工した折りたたみ雨傘。太陽の下では日傘に、雨が降れば雨傘に、出かける時には必ずバッグに入れておく。 街角で“涼”をとる回廊建築もうひとつ、こんな季節にとりわけ便利に感じるのが騎楼。台湾語で亭仔脚ともいい、建物の一階部分が奥に引っ込み、アーケードのように通り抜け

ペタコのさえずりに想う、台湾の悲哀|芒種~夏至|旅に効く、台湾ごよみ(21)

梅雨の雨だれのなか「ぴちゅ ぴちゅちゅく ぴちゅく」と鳥の声がしてきて、ああ、雨がやんだのかと気づく。とりわけ軽やかなのは、日本統治時代より「ペタコ」という名でも親しまれてきたヒヨドリ科シロガシラのさえずりである。 童謡にも歌われたペタコシロガシラはその名の通りヘルメットをかぶったような白い頭が特徴的だが、台湾語(ホーロー語)では「ペエタウコッ」(白頭拡)と言うのが日本語で訛って「ペタコ」になった。台湾のそこらじゅうで見かける鳥で、台湾俳句の初夏の季語でもある(※台湾俳句歳

台湾の人々に慕われる八田與一を偲ぶ|立夏~小満|旅に効く、台湾ごよみ(20)

濡れた街で楽しむ優雅な薫り5月になると台湾は、日本よりひとあし先に梅雨にはいる。台湾の梅雨は薫りの季節だ。 夜も更けるころ、雨音といっしょに、開け放したベランダから夜香木の甘やかな匂いが忍び込んでくる。陽が沈むと、星型の小さな花がひらいてジャスミンに似た芳香を放つ夜香木は、“ナイトジャスミン”とも呼ばれる。 街でもよく玉蘭(マグノリア)や、李香蘭の歌で知られる夜来香(グエライヒョン/イエライシャン)の「花売り」を見かけるようになる。「台湾語」(ホーロー語)では売花と言って

海の守護神「媽祖様」の生誕を祝うパレードと“愛憎”が織りなす伝説|清明~穀雨|旅に効く、台湾ごよみ(19)

“黄昏どき”を彩る4月の風物詩 角を曲がったら巨大な花束が空に浮かんでいた。  いやちがった。花束のような大きな樹。熱帯に分布する「魚木」と呼ばれる植物である。台北市は台湾大学キャンパスに近い「台湾電力」の敷地にはアパートメントの三階まで届きそうな魚木があり、4月に入ると一面に花をつける。何でも30年ほど前に台湾電力職員が植えたのが育ったもので、この季節の台北の風物詩である。  はじめてこの樹を見たときには驚いた。日本では、こんなにも大きな樹を覆うように花が咲くのを見たこ

心弾む“街のメロディー”|啓蟄~春分|旅に効く、台湾ごよみ(18)

台湾の“土地”を守る神様 旧正月の行事もあらかた終わり、旧暦2月2日(今年は3月4日)は「土地公生」といって台湾で最もたくさん祀られている神様「土地公(福徳正神)」の誕生日で、今年一年のお祭りはじめでもある。土地公は、漢民族の古代神話の君主である「堯」の帝のころに農業を司る官吏であったといわれ、人々に農耕牧畜をもたらした。  台湾では街を歩いても山に登っても、あちらこちらに土地公の祠や廟を見ることができる。媽祖様が台湾を取りかこむ海を護る神様とすれば、土地公は道や田畑の畔、

なんでそんなことに……!? 台湾の危険すぎるお祭り|立春~雨水|旅に効く、台湾ごよみ(17)

「旅に効く、台湾ごよみ」は、季節の暦(二十四節気)に準じて、暮らしにとけこんだ行事や風習などを現地在住の作家・栖来ひかりさんが紹介。より彩り豊かな台湾の旅へと誘います。今回は、毎年この時期に催される危険すぎるお祭りや、日本人にも人気の“天燈上げ”の由来、日台をつなぐ食文化などに触れていきます。  今年は2月1日から始まった旧正月も終わろうとしている。日本の「小正月」にあたる旧暦1月15日(本年は2月15日)の夜は元宵(台:グワンシャオ/中:ユエンシャオ)節と呼ばれ、正月を締

自宅で楽しむ「鍋旅行」|小寒~大寒|旅に効く、台湾ごよみ(16)

「旅に効く、台湾ごよみ」は、季節の暦(二十四節気)に準じて、暮らしにとけこんだ行事や風習、日台での違いなどを、現地在住の作家・栖来ひかりさんが紹介。より彩り豊かな台湾の旅へと誘います。今回は、コロナ禍ではじまった新たな食の流行や、古くから伝わる台湾の食文化を紹介しつつ、日本との意外なかかわりにも触れていきます。 自宅で楽しむ「鍋旅行」 小寒と大寒は、二十四節気でもっとも寒い季節である。  南国台湾といえども冬は寒い。北部では気温も10度以下までさがることもある反面、建物の

陰も極まれば陽に転じる。新たな希望の芽吹くとき|大雪~冬至|旅に効く、台湾ごよみ(15)

この連載「旅に効く、台湾ごよみ」では、季節の暦(二十四節気)に準じて、暮らしにとけこんだ行事や風習、日台での違いなどを、現地在住の作家・栖来ひかりさんが紹介。より彩り豊かな台湾の旅へと誘います。 台湾の冬の季語「羌」とは 先日、苗栗県の山中に泊まったとき、夜中に鉄砲を撃つ音がした。このあたりの山に住んでいる台湾原住民族(先住民の台湾における正式な呼び名)の「サイシャット族」の人々が、キョンなどの野生動物を狩っている音だと教えてもらった。  山の子の涙を後に羌売らる 陳錫枢

台湾で“王爺”が崇拝されるワケ|立冬~小雪|旅に効く、台湾ごよみ

この連載「旅に効く、台湾ごよみ」では、季節の暦(二十四節気)に準じて、暮らしにとけこんだ行事や風習、日台での違いなどを、現地在住の作家・栖来ひかりさんが紹介。より彩り豊かな台湾の旅へと誘います。  今年も残りの日数が見えてきた。陽が落ちるのも早くなり、夜は長くなった。いくらか空気が澄んで、外界の物音もよく聞こえる。しんと静まり返った深夜に、隣家の庭の椰子の葉がバサバサっと落ちる。南国のイメージがある台湾だが、台北の冬は寒い。今朝は気温も15度まで下がった。 この季節に好ま

一万羽の渡り鳥の飛来が告げる季節|寒露~霜降|旅に効く、台湾ごよみ(13)

この連載「旅に効く、台湾ごよみ」では、季節の暦(二十四節気)に準じて、暮らしにとけこんだ行事や風習、日台での違いなどを、現地在住の作家・栖来ひかりさんが紹介。より彩り豊かな台湾の旅へと誘います。  暦の上では秋にもかかわらず、夏の盛りのように暑さの戻る気候を台湾では「秋老虎(チョウラオフー)」という。「老虎」とは文字通り動物のトラのことだ。澄んだ秋の光に照らされた熱気は、黄金色の大きなトラが身をくねらせて暴れまわっているイメージにぴったりで、うまい事言ったものだと感心する。

中秋節に阿倍仲麻呂の悲哀を想う。|白露~秋分|旅に効く、台湾ごよみ(12)

この連載「旅に効く、台湾ごよみ」では、季節の暦(二十四節気)に準じて、暮らしにとけこんだ行事や風習、日台での違いなどを、現地在住の作家・栖来ひかりさんが紹介。より彩り豊かな台湾の旅へと誘います。  天上大風。  夏と秋が空の高いところで行き交うこの季節、空気は澄んで月が殊に美しくなる。台風がちかづけば、夕方の空は黄金色のカーテンを降ろしたように発光する。二十四節気は白露、空気が冷えて露を結びはじめる季節である。  白雲 水に映じて 空城を揺すり、  白露 珠を垂れて 秋

地獄の門のひらく鬼月に、亡き人たちを想う。|立秋~處暑|旅に効く、台湾ごよみ(11)

この連載「旅に効く、台湾ごよみ」では、季節の暦(二十四節気)に準じて、暮らしにとけこんだ行事や風習、日台での違いなどを、現地在住の作家・栖来ひかりさんが紹介。より彩り豊かな台湾の旅へと誘います。  大暑のあと、太陽が黄道を135度の位置までくれば、立秋である。古代中国で生まれたこの季節の七十二候は 初候:涼風到(すずかぜいたる) 次候:白露降(しらつゆふる) 末候:寒蝉鳴(ひぐらしなく)  太陽はまだギラギラと頭に近い場所から照り付けてくるが、影に入ればひとすじの風が頬