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世田谷ピンポンズ/都会なんて夢ばかり

世田谷ピンポンズ。今の時代を生きる若きフォークシンガーだ。

2015年には又吉さん(ピース:又吉直樹)と共作で曲を発表。


見た目は文学的、ご本人も古書店、喫茶店がお好き。

歌う曲は郷愁的、明るい曲調の曲もどこか物悲しく切実センチメンタル。そして、どこまでも優しい。上手くやれなかった日、自分のことが嫌いになりそうな時、聴くと救われる。
隣にそっと寄り添ってくれているみたいだ。

また、グッズがとにかく可愛い。

("絶版トートバッグ"や"文学とフォーク巾着"など是非本好きな方はHPよりチェックいただきたい。)


そんな彼の初エッセイが、夏葉社の島田潤一郎氏が手がけるインディペンデントレーベル岬書店より刊行された。

以前も記事にさせていただいたが、私には小さな小さな古本屋を営んでいた時代があり、その頃、夏葉社さんには大変お世話になった。


また、この本に出てくる、又吉直樹さん、コクテイル書房や、古書ビビビなどが描かれている年代は、ちょうど古本屋の世界にどっぷり浸かっていた頃と重なっていたこともあり、

かなり一方的な親近感を抱きながら一気に読みきった。


筆者と年齢が近いというのも、この要因のひとつである。

中学2年生でゆずに出会い、銀杏BOYZ、ガガガSP、ゴーイング・ステディ、グリーン・デイ、と辿っていく様子は懐かしかった。

※彼の場合はココにフォークが加わる

又吉さんを知る度に自分との共通点をどんどん見つけ、彼のことをどこか他人とは思えないような気持ちになっていった。



そして、何より親近感の一番の要因は、私が又吉さんに感じていた、“この人間はほとんど私だろうか?”と思うほどの共通点、強いシンパシーを、世田谷ピンポンズ氏も時を同じくして彼に対して感じていたという点だ。


これは即ち、私と世田谷ピンポンズ氏の感覚も近いということではないだろうか。

読み終えたとき、その予感の輪郭は、より鮮明なものとなった。

もしかしたら自分はその輪の中には一生入れない人間なのかもしれないと思った

内に抱える混沌とした塊を、自意識がもたらす説明付け難い感情を、昇華させて生み出したものがカタチとして美しい、そんな人間が好きだ。

小難しくなくて全然よかった。ただただ大きい音があれば、ときにそれは破壊的な憂鬱を吹き飛ばすよすがとなる。弾き語りでもバンドでもなんでもいい、とにかく僕の憂鬱を滅茶苦茶に壊してほしかった。

不完全で不安定。

アイデンティティの模索。迷子。

自身は何かが違っている。

どこで間違えたのかわからないけれど気が付いた時には、もう、その差は埋められない。


まるで自分の学生時代を見ているようだった。


拭いきれない孤独感。

感受性は諸刃の剣だ。

そんな中、彼は出会いを重ねてゆく。


幸運にも...いや..、

彼が自身の感性に真正面から向き合った結果の必然か。

似た感覚の持ち主に出会っていく。

僕らはそんな偶然が何より好きなのだ


似た感性の持ち主は、惹かれ合うのだろうか。

この偶然は私も舞い上がった。


好きな人同士が結びつくのは何かの答え合わせみたいだ。

彼は、又吉さん(ピース:又吉直樹)と出会う。

様々な縁と縁が結ばれ、東京という都会に自分の居場所がつくられていく。

些細な機微を、もしかしたらまだ誰も名前を付けたことがないかもしれない感情を、歌にすることができる


これは、私が純文学に求める"何か"に似ている。

彼が歌い上げる世界は、赦してくれる。

ダメな自分を。

上手くやれない自分を。

そんな風に感じた理由はこういうことかと、読み終えた時に理解した。

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