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107 以前、夢中だったもの その2 ジャンルから外れていく読書

ジャンルに拘っていたとき

 本を読み始めたのは、絵本からだろう。覚えている絵本は浜田廣介『りゅうのめのなみだ』、『長靴をはいた猫』だ。どちらも表紙がかっこよかったので気に入っていた。ほか、ナイチンゲール、野口英夫、キューリー夫人といった偉人の絵本も眺めていた。野口英夫が赤ちゃんの頃に囲炉裏でひっくり返って大やけどをするというのだが、それがどうしても腑に落ちない。まず囲炉裏がわからない。絵を見ればそういうものだとわかるけれど、自分の周囲にはなかったのでわからないのだ。やがて、親戚の家のコタツが囲炉裏形式だったので「なるほど、これか」と理解した。理解しただけではなく、怖くてしょうがなかった。火傷で指がくっついてしまって、それを一本一本引き離す手術をするなんて……。
 ま、こんな具合にどうでもいいところしか覚えていない。
 そうこうして、コナン・ドイルを知る。同時に「文庫」を知る。単行本1冊買う予算で文庫なら2冊あるいは3冊買える。字は小さいものの支障はない。おまけに解説がついている。『シャーロック・ホームズの冒険』を朝から晩まで読んでいた。わからないことだらけで、理解できるまでかなりの時間をかけた。『赤毛連盟(赤毛組合)』、『まだらの紐』、『オレンジの種五つ』がお気に入りで、何度も何度も読んで、しまいに本はボロボロになってしまった。
 そこからミステリーを読み始めた、といけばつながるのだが、このあと、私はSFへ向かう。筒井康隆、小松左京、横田順彌がお気に入りで、やはり文庫になると買う。いわゆる「ハチャハチャ」が好きだった。当時、お笑いにも夢中だったので、笑える話をよく読んだ。当然、フレドリック・ブラウン、星新一へと傾いていった。が、ハードなSF小説は苦手で、小松左京も『日本沈没』は読んだものの、あとは軽いものが好きだった。『ゴエモンのニッポン日記』が好きだった。
 ミステリーは、このあと、横溝正史、森村誠一、高木彬光、そして松本清張へと進んで行くが、SFはそこで終わってしまった。以後、ほとんどSFらしいSFを読んでいない。ブラッドベリ、ハインラインは読んだけど、夢中になれなかった。
 こうして自分の暗い中学生活は終わる。
 この頃までジャンルに拘って読んでいた。その後、それも崩れていく。

ハードボイルドから冒険小説へ

 ミステリーの一環としてハードボイルドにも手を出す。なんといっても夢中になったのは大藪春彦と平井和正であった。すでに大型の古書店を発見していた私は、古書を漁りはじめる。単行本から文庫へ。そして古書へ。古本なら安く買えるからだ。その頃には高校生になっていた。
 安くいろいろな本が買えるので、ジャンルへの拘りは崩れていく。ヘミングウェイ、トルストイ、ドストエフスキー、三島由紀夫、夏目漱石、太宰治、横光利一、安部公房を読む。ハメット、チャンドラー、スピレーン、マクドナルドも読む。
 この段階で、すでにジャンルを追うことはなくなっている。手当たり次第、本を読んでいる。
 ジャック・ヒギンズ『鷲は舞い降りた』を読んでから、冒険小説を意識するようになる。ハードボイルドでありミステリーであり、冒険活劇な世界。
 いまは亡き内藤陳(ハードボイルドだど!)による日本冒険小説協会(AFの会)の会員にもなったのは、社会人になってからであるけれど。
 当然、バーボンを飲んだりもするようになっている。
 北方謙三、船戸与一、逢坂剛、高村薫、馳星周、宮部みゆきといった「日本軍」も読んだし「海外軍」は、パーカー(スペンサーシリーズ)、ラドラム(ジェイソン・ボーンシリーズ)、フランシス(競馬シリーズ)、トレヴェニアン、カッスラー(ダーク・ピットシリーズ)、もちろん、ギャビン・ライアル(深夜プラス1)も。中でも、ラドラム、トレヴェニアン、ヒギンズは好きで長く読み続けていた。

ホラーとの出会い

 そしてスティーヴン・キングと出会う。『キャリー』は新潮文庫で出たのだが、ほかの作品はサンケイ文庫(?)などから出ていて、入手するのは簡単ではなかった(まだアマゾンは存在していない)。とんでもない量産作家なので、翻訳が追いつかないのだろう。文春文庫で出るようになった頃には、私もキングを追うのは諦めた。読み切れないのである。
 だが、ホラーはこれまであまり意識していなかったので、クーンツ、マキャモン、クライヴ・バーカー、古典としてのラブクラフトにも触れていくようになる。ラブクラフトは文庫で全集が出始めて、確か、買ったはずなのだが、いまは手元にないけど。どこへ行ったのか。
 鈴木光司『リング』、坂東眞砂子『死国』といった本も読んでいる。
 こうして、最後にホラーに行き着いた感があるけれど、同時にジャンルを問わない読書へと進んだから、いまでは、もはや乱読としか言いようがない。私小説や文芸作品を読み始めて、どういうわけか女性作家ものばかり読んだりもしている(絲山秋子、篠田節子、姫野カオルコ、西加奈子、村田沙耶香)。
 なお、大沢在昌『新宿鮫』は読んでいるけれど、その後は読んでいない。どういうわけか、私は警察小説があまり好きではない。87分署シリーズ(マクベイン)は少ししか読んでいない。ビジネス系の小説も苦手だ。清水一行や城山三郎は苦手であり、新田次郎は山岳ものだけ読んでいる。そういえば、時代小説も苦手である。何度も読もうとしてきたのだが、いまだにちゃんと読めていない。
 ついこの間まで「時代小説は老後の楽しみにとっておく」とうそぶいていたものの、このままではたぶん、ろくに読まないままになるかもしれない。
 



 
 
 


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