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40歳を過ぎてできた友だちは一回り年下

40歳を過ぎた僕に昨年新たな友人ができた。フォトグラファー、小田駿一だ。彼は、Forbes JAPANなどのビジネス誌やWWDなどのファッション業界紙、ゴングやNumberなどのスポーツ媒体、アパレルのカタログなどで人物写真、ポートレイトを中心に撮影している。フォトグラファー業界のことを僕はよく知らない。だけれど、彼の仕事を見ていると売れているフォトグラファーであることは想像に難くない。

彼にはじめて会ったのは、昨年の秋、あるパフォーマンスチームを取材した時だ。取材場所近くで待ち合わせすると名刺も渡さずに「よろしくお願いします」とだけ告げた。インタビューが終わり、撮影に入ろうとすると「天気いいし、外で撮りましょう」と言い出した。彼からのリクエストで事前に交渉し、事務所側に部屋を用意してもらっていたというのにだ。撮影に入った途端、今度は「本多さん、この花カメラの前で持ってもらえますか?」「違う違う。そこで固定して」などとまるでアシスタントのように指示された。この自由さがクリエイター気質なのかとその時は納得した。しかし正直言えば印象はさほど良くはなかった。その反面、心のどこかでなんとなく話しが合いそうだなという感覚があったことも覚えている。出来上がった写真を見ると、なぜ僕に花を持たせ、細かく指示していたのかがわかった。それを見て、僕は「こいつすげーな」とも思った。

彼には、その後さまざまな仕事をお願いし、取材が終わるとコーヒーを飲んだり、タバコを吸ったり、飲みに行ったりといろんな話をした。写真のイメージを伝えると、意見が合うことも多い。同じフリーランスという立場もあるし、音楽の趣味が似ていたり、同じ塾出身なこともあるのかもしれない。
次第に仲が良くなっていった。第一印象は案外外れないものだ。

■見返りを求めない男

彼は、仕事でもプライベートでも待ち合わると、10メートルくらい先から満面の笑みを浮かべ「ウィー」といつも言う。フランクというか、若干チャラい。さすが中学生の頃から日焼けサロンを出入りし、ギャル男だった過去を持つ男だ。また、彼が現れると、彼を知る人たちの顔がみるみる笑顔になるのを何度も目撃したことがある。しかし、そのフランクな姿勢は、誰が相手でも崩れることはない。一度、強面なうちの父と3人で飲んだことがある。70歳を過ぎた父へも最初は敬語だったものの、しばらくするといつもの調子に戻った。もちろん、干支が一回り上の僕にも、大抵タメ口だ。彼の名誉のために言っておくと、然るべきときにはきちんと敬語を使うこともできる。このフランクな姿勢が、いろんな人を魅了する理由のひとつだと思う。

フランクな姿勢の他にも彼にはいろいろと特徴がある。まず非常に頭が良い、というか観察力に優れている。だから、プライベートでどんな相談をしても、出会って1年も経たない僕に常に的確なアドバイスをくれる(干支が一回り下の彼に相談している僕もどうかと思うが……)。

彼が今年2月、僕の家に泊まりに来た。他人が自宅に泊まるなんて10年以上なかったことだ。その時、僕は仕事がほとんどなかった。その僕に対し酔った彼は「面白いことしようよ。自分が楽しいと思うことをさ。好きな人達とね。そんなにお金は必要ないでしょ」と言われた。彼自身、苦労も多いだろうが、いつも満面の笑顔と溢れ出るエネルギーを放ち、人生を存分に楽しんでいるように見える。だからこそ僕はこの言葉にハッとした。その通りだからだ。必要最低限のお金は稼がないと生活できないが、僕は仕事にやりがいや満足度を求めている。後日、彼はある人物を紹介してくれた。そのお陰でまだ公にはできないが、僕は今、苦しみながらも新たな挑戦を始めている。

チャラさとは真逆に勤勉でもある。被写体の過去のインタビュー記事や写真に目を通し、他の写真との差異化を図るのは当然のこと、朝早くから夜遅くまで実によく働く。そんな彼は、元々そこそこ偏差値の高い学校の出身らしい。その後、どんなわけか写真を始めた。写真の正規教育を受けたわけでもなく、苦労しながら、独学で写真の技術を磨いたそうだ。師匠もいない。古くからの友人のなかでも、フォトグラファーのなかでも彼はアウトサイダーなのだ。アウトサイダーは、王道の人たちより多くを求められる。
 
そして彼のもっとも素晴らしい点をあげるとすれば見返りを求めないところだ。いろんな相談をしても、人を紹介してくれても彼は決して見返りを求めない。その理由について、先日掲載されたForbes JAPAN WEBの記事で彼はこう書いている。「GIVE&GIVE&GIVE。TAKEなんて考えるな。それができなきゃ絶対に生きていけない」と先輩から教わったそうだ。

彼は見返りを求めず、GIVEする姿勢を、新型コロナウイルスで自粛生活が続く今も貫いている。緊急事態下の東京を撮影した写真集「Night Order」を通じて、苦境が伝えられる飲食店のために、クラウドファンディングを始めた(詳細はこちら)。
写真集を制作するには思っている以上にお金がかかる。それでもお世話になった飲食店に対しGIVEをしようとする小田のこの姿勢は実に彼らしい。興味を持った方は、ぜひこのプロジェクトを応援してあげてほしい。

*当記事は、本人の許諾を得た上で公開しています。


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