『フォークナー短篇集』

映画「パーフェクト・デイズ」の主人公、
トイレ清掃員の平山が夜に読んでいた
『フォークナー短篇集』が自分の本棚にあり、
まだ読んでいないと思って取り出した。
アメリカ南部ミシシッピ州の小説家であり、
ノーベル賞作家にもなった20世紀の巨匠、
ウイリアム・フォークナーの短篇集である。

作品は1920年以降に書かれたもので、
どれもアメリカ南部の闇を描いている。
奴隷である黒人がインディアンに使われ、
凋落した白人男性が黒人女性を陵辱したり、
黒人よりも身分の低い「白人の屑」が
憤怒を狂気に変えて復讐の殺人をしたり、
父の仇討ちを銃殺によって解決するか等々。

フォークナーは1987年生まれだから、
南北戦争も黒人奴隷も知らないはずだが、
南部には痕跡が根強く残っていたのだろう。
そうした南部の因習的な暗黒の世界を
淡々と客観的な筆運びで描いていくのだ。
どこにも救われない人々とその物語は、
読後感に苦みをもたらすものである。

人間とはいかなる存在のものなのか、
幸せとはいかなる暮らしや生活なのか、
平和とはどんな世の中のことなのか、
大人と子供の世界はどう異なるのかなど、
そういったことを深く考えさせられる。
古のアメリカ南部のことだけでなく、
今も尚滔滔とそうした現実は存在するのだ。