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残高263円の悪魔のささやき

大学3年次のときのこと。

後期の学費を支払いの振り込みを
ATMで行うため、
通帳の記帳もついでに行った。

当時はまだネットで
振り込みができなかった時代である。

この頃は自営の親の事業も
傾いており、学費は
全て自分で工面をしていく必要があった。

後期の学費は、
50万円程度だった。

私はその時点での残高は
確認していなかったが
何の不安もなかった。

当時の塾講師としてのバイト代
の振り込みがされて
いるはずだったからだ。
7月と8月は朝から晩まで夏期講習で
授業が続けて入っており、
ファミレスのバイトも続けていた。

残念ながら、
本業の大学の勉強がおろそかに
なりがちで
きちんと進級できるか
どうかのほうが懸念事項だった。

振り込みは無事完了。

通帳の記帳も終えて、
さりげなく印字を
確認したときだった。


残高 263円

うそだろ。
ウソだろ。
嘘だろう、いやホントだ。

この3ケタの数字は一生忘れないだろう。

頭がクラクラするのが分かった。
理由は残っていた金額に単純に
ショックを受けただけではない。

大学の教科書代や当時は
法科大学院を目指すための
費用もかさんでいたから、
冷静に計算すればそんなもんだったろう。

襲ってきたのだ、
どうしようもない疲労感が。

朝から晩まで、
学費のためにダブルワークで働きづめ。

何もない日は月に1日か2日程度
だったように思う。

塾の授業の準備、大学の勉強、
院試対策、当時自分がどんな
スケジュールで動いていたのか
全く記憶にないくらい慌ただしかった。

そしてUNIQLOのヒートテック
1枚買うのにも迷うほど、
自分の生活は苦しかった。

これだけしんどい思いも
していたのだから、少しくらいの
金銭的余裕があってもいいだろう
という淡い期待もあった。

それが無残に打ち砕かれたことで、
その場で立っていられないほどの
疲労感とむなしさが加わってきた。

もうひとりの自分がささやいてくる。

「こんだけしんどい思いをもう1年続けられるのか」

「そもそもこんな時間的な犠牲を強いてまで、大学に行く必要があるのかい」

「もういっそ大学もやめちまって、普通に働いたほうが楽しいんじゃないの」

まさに「悪魔のささやき」であった。

ネガティブな言葉だけが頭のなかで
ループしてくる。

もうこの苦しみから逃れたい。
逃げたい。
もうやめたい。


周りの学生達は親のお金で当然のように、
学業に専念し適度にバイトをし、
楽しんでいるのが羨ましかったのかも
しれない。

大学をやめれば、楽になれる。

でもここまで何のために働いてきたのか。

冷静になろうとすればするほど、
わからなくなってくる自分がいた。

少し休んで考えよう。
そう考え、結論を保留するのが精一杯だった。

この悪魔のささやきの教訓。

人は思いがけず、
経済的な自由の脅威にさらされると、
判断力が鈍り、生きる気力が奪われる
ということ。

目先のことにとらわれ、
長いスパンを見据えて
合理的な判断ができなくなる。

もう少し、お金があったなら。

誰もが経験したことのあるそんな場面。

もしあのとき大学をやめていたらと思うと、
正直ぞっとする。

もしあそこで大学をやめていたら。
間違いなく、今の仕事はしていないし、
同じような報酬を得るような状況にはなっていない可能性が高い。

高卒と大卒の生涯賃金を比較すると、
大卒のほうが4000万円ほど
高くなるというデータもある


高卒の時点で、私は特定の
やりたいことがないことがなかった。

少なくとも、当時の大学4年間の
学費は500万程度だから、
卒業したことで生涯をみれば
投資対効果があるといえるかも
しれない。

これといった専門的なスキルを
持ち合わせていなかった人間にとって、
大卒の資格がることはキャリアに
大きく影響するといえるのでは
ないだろうか。

少なくとも今の日本の現状では。

もし読者の中で大学生がいたら、
覚えておいてほしい。

結局、休息することで
冷静さを取り戻した私は、
気を取り直して
また働きづめの日々を
リスタートさせることになる。

それから少しお金に対する使い方、
考え方も変わってきた。

絶望的なあの残高の数字が
私にもたらしたものは大きい。

貯金や投資、浪費……。
様々なお金の向き合い方があるなかで、
そのマネーリテラシーの教育というもの
はあまり受けた記憶がない。

そんなお金の教養は、
家庭で身につけるべきという
ご意見もあろう。

ただ本屋に出向くと、
これだけマネー本と呼ばれるジャンルの
本が溢れていることから、
大人になってから学ぶ人も多いのも事実だ。

・クレジットカードの使い方
・リボ払い
・カードローン

こういった言葉の意味は知っていても、
そのメリットや怖さを最低限は
身に着けないとそれは生きていく
幸福感を得づらくなるだろう。

こういったお金に関する知識は、
敬語や箸の持ち方と
同じように知っておくべき
内容なのではないだろうか。
幸せに生きるためのお作法としてである。

経済的な自由というテーマで
今日はつらつらと書いてみたが、
きっかけはたまたまこの本を
勧められて、読んでみたことだ。



幸せはお金じゃ買えない。
こんなきれい事は自分の経験上は
とても言えたもんじゃない。

お金がないことで進路や
チャンスが絶たれることは
悲しいことだ。

自分の力じゃどうしようもないこともある。

ただ経済的な自由が幸せに
生きていく上でのメンタルに
安定をもたらすことは間違いない。

勉強することで、お金の稼ぎ方は
覚えられるかもしれない。
でも有効な使い方を実践するほうが
よっぽど難しいのだから。






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