なんの木かも知らないけど。
缶詰工場の一本の木が、三階の部屋から見下ろせた。
平凡な木だった。なんの木かも知らないけど。
その木とは引っ越して7年の付き合いだったが、突然の別れとなった。
缶詰工場が倒産、そこに高層マンションの建設が決まり、エントランスの邪魔だと処分されてしまったのだ。ばっさりと。
朝には切り株だけが残され、昼にはひき抜かれ、夕方にはコンクリートの地面になっていた。
わたくしの木ではない。もちろん、文句なんか言えない。でもね。
きのう、それで仕事を休んだ。
モルフォ蝶みたいにブルーな気分だったから。
そんなことで?一緒に暮らしている犬に笑われた。
今朝、工場の社長さんが挨拶にきた。ご近所には騒音など迷惑をかけます、つまらないものですが。と無花果の缶詰をひと箱もいただいた。
イチジクか。めずらしい。
おいしそうだった。
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