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アフターコロナ ~旅行業の未来~  バーチャル リアル トラベルの深化

序章

 コロナショックにより旅行業を中心とした観光関連業は未曽有の危機に直面している。
 全国の旅行会社について倒産情報は多く見られないが、廃業したまたは廃業を予定している旅行会社は報道されないだけで相当数あるはずである。トラベルビジョン社が全国の旅行会社を対象にアンケート調査を行った結果を見てみると、「2020年4月以降に迎える決算は赤字となる」について「はい」と答えた経営幹部が 73.9%、「2020年6月末までに廃業・倒産する可能性がある」について「はい」と答えた経営幹部が20.3%いた。また、実際に取引のある旅行会社より廃業の挨拶状が送られてきた。今後さらに長期化することで、これらの割合はまだまだ上がるだろう。  

 余暇としての旅行はなくなることはないであろうが、その形が変化することは間違いない。また、相当厳しい安全衛生管理を要求される時代に突入するであろう。
 宿泊・飲食施設については衛生面・安全面での星評価(☆☆☆)が導入されたり・レストランの座席間隔、拭き上げ、食事の提供方法について厳しい基準が設けられるであろう。
 キャリアに目を向けると、貸切バスについては安全面の星評価のほかに、衛生面での星評価の導入も検討されるのではないか。航空機・JR・電車などもビジネス・観光・帰省などニーズ毎にその利用便、利用時間、利用手段が制限されたり、座席間隔の基準などが設けられる可能性がある。
 観光施設についてもユーザー間の距離の制限、入場者数の制限などが設けられ、旅行という娯楽がかなり窮屈で慎重なものになるのではないか。  

 筆者は、このコロナショックにおいて旅行業が受ける影響については、かなりの長期戦を覚悟している。2020年2月の段階では5月の連休明け、遅くとも6月には旅行者が戻ってくると踏んでいたが大きな間違いであった。北海道が独自に行った一回目の緊急事態宣言(2月28日から3月19日)が終了した段階で、地元の温泉ホテルの応援企画として「プチ湯治で免疫力アップ!新型コロナウィルス対策宿泊プラン」を発売した際は多くのユーザーが反応してくれた。しかし、東京オリンピックの延期が決まり、新型コロナウィルスが日本全土に広まりを見せたあたりからキャンセルが続出し売上額は、2月▲43.9%、3月▲79.6%と激減した。4月の売上額見込みは、▲95.8%とほぼ無いようなものだ。

 終息がいつになるかも分からない状況では、終息後の国主体の旅行キャンペーン(Go Toキャンペーン)に期待するわけにもいかない。

 筆者が経営に携わっている旅行会社は1982年の創業以来、銀行借り入れを一切しておらず、現在はリース資産も持ち合わせていない、つまり、借金がない会社であった。しかし、今回の事態を踏まえ、政府系金融機関2行とメインバンクより億単位の無利子融資を受けることとした。
 融資を受けた資金をどう活用するか、運転資金としての活用だけでは従来の営業を継続しても粗利益の少ない旅行業では将来性がない。そこで筆者は地域の映像制作会社との業務提携を目指し、バーチャルトラベル実現にむけて投資を検討しているところだ。

旅行業の未来 地域旅行会社のバーチャルトラベル

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  筆者が考えるバーチャルトラベルは「視覚」や「聴覚」に働きかけて、人工的な現実を表現する世界としてバーチャル・リアリティー(VR)とは異なる。VRの技術は日々進化している、遠隔地においてロボットをコントロールして今そこにいるかのような疑似体験で五感のうち上述の2つのほか「触覚」、「臭覚」までは表現できるだろう。しかし、「味覚」まではどうだろう。また、従来のVR映像には行程が存在せず、断片的な仮想空間を体験するものであるが、そのような体験は旅行会社が考える旅行ではない。

 今回投資を検討しているバーチャルトラベルは「視覚」や「聴覚」に「味覚」を取り入れることが重要なポイントである。また、明確な旅程管理を行い、最終行程表のとおりに映像をお届けできるよう明確な旅程映像の管理を総合旅行業務取扱管理者および総合旅程管理主任者が行う。そうでなければ、従来の旅チャンネルや旅番組との差別化が出来ない。そして、リアルを追求するためには、旅人に「味覚」をお届けしなければならない。筆者が考える定義は以下の通りである。  

【バーチャルトラベルの定義】
1.旅行業務取扱管理者が造成する行程がある旅行商品であること
2.地域の観光資源を複合的に活用したコンテンツにすること
3.行程の映像を管理する旅程管理者がいること
4.朝食・昼食・夕食に関連する地場産品が旅行代金に含まれること
5.ドローン遊覧や観光船の特別な映像などシーンの演出が含まれること
6.リポーターやナレーターではなく、添乗員やガイドが案内すること
7.映像の中で地域のホテル・バス・観光施設の紹介がなされていること
8.地域住民を主役とする「ヒューマンツーリズム」を含めること
9.リアルツアーとしてもツアー造成が行えること
10.  地域貢献につながるコンテンツであること

 映像はお客様の目線で組み立てていく。実際にバスに乗車した際の車窓からの風景、チェックイン時のホテルスタッフの案内、食事風景、添乗員やガイドがツアー映像上で実際のご案内するほか、ホテルや食事施設でのスタッフからの説明、観光施設スタッフの案内などもリアルな映像として届ける。
 バーチャルツアーの映像時間は、日帰りで15分、1泊二日で30分、2泊三日で45分程度、旅行を申し込んだツアー客しか閲覧できない仕組みだ。コースによって旅行代金を設定する。旅行代金には、以下のようなものが含まれる。

【旅行代金に含まれるもの】
①現地での仮想移動費(映像)
②ホテル宿泊映像
③食事(朝食・昼食・夕食の代わりに関連した地場産品を実際に届ける)
④施設体験(映像)
⑤ガイド料
⑥乗船料(遊覧船の乗船映像)
⑦遊覧飛行(ドローンを活用した特別映像)

その他税サービス料などが含まれる。このコンテンツのほかに詳しい説明を受けたい場合の映像や画像をオプショナルツアーとして用意する(地場産品も含める)とさらに興味を持ってもらえるであろう。

観光で消費されるはずだった地場産品の行き先は?

えびまつりイメージ (ゆでえび) (002)

 今回のコロナショックにより地域の観光で消費されるはずの地場産品やお土産品は行き場を無くす。旅行代金の中に、観光で消費されるはずだった北海道の海産物・農産などの地場産品・名産品・お土産品を含めてユーザーにお届けすることにより、地域のリアルな「味覚」を楽しんでもらうことで地域の消費にもつながる。筆者が経営する旅行会社は流通系のインハウスエージェントであるから地場産品の調達には有利である。

 北海道はご存知のとおり、日本海・太平洋・オホーツク海に囲まれた日本有数の漁場である。ウニ・タラバガニや毛ガニ・花咲蟹・本ズワイガニのほか、秋鮭、北海シマエビ、ホタテや牡蠣、北寄貝などの貝類のほか、二次加工品としてイクラやタラコといった海産物が豊富である。農産物としてもじゃがいも、アスパラガス、トウモロコシといった野菜のほかにもイチゴ・さくらんぼなどのフルーツ、広大な畑で収穫される小麦や新鮮な牛乳を使った人気スイーツも多彩である。これらの地域の名産品を弊社グループ企業の商事部で安価な価格で一括仕入れし、旅行代金を構成する食事としてお届けすることで、お客様へ「リアル」な「味覚」を味わっていただく。

北海道バーチャルトラベル

 ハーチャルトラベルを造成するにあたりまずはモデルコースを紹介する。ツアータイトルは、「初秋の東北海道ゴールデンうまいもんめぐり」3日間行程は次のとおりである。

【1日目】
各地‥‥🛬‥‥女満別空港(9:00頃)== ※美幌峠(☆屈斜路湖と外輪山の空中遊覧)== ※アトサヌプリ(通称:硫黄山の空中遊覧)== 川湯温泉( ◎大鵬相撲記念館の見学と足湯めぐり・昼食は味楽寿司の絶品海鮮丼)== ※摩周湖(神秘の湖の空中遊覧)==(阿寒横断道路)==(16:15) 阿寒湖畔温泉
                    ■宿泊:あかん遊久の里 鶴雅
☆着後、阿寒湖アイヌコタンと温泉街の散策 阿寒湖アイヌシアターイコロにてアイヌ古式舞踊をお楽しみください。

1日目

 ツアー映像は、女満別空港到着ロビーの添乗員映像からスタートする。駐車場からバスへとご案内。ドライバーの挨拶、ガイドの挨拶、車窓の風景へと続く。美幌峠ではハングライダーの体験をイメージした空中遊覧の映像。硫黄山ではもくもくと噴煙が上がる様子を上空から。ヒューマンツーリズムとして味楽寿司の大将の寿司へのこだわりを聞いてみる。摩周湖は上空からの絶景を、阿寒では、ホテル到着後の案内や温泉街館内散策の映像を紹介。

【2日目】
ホテル (8:30頃)== ◎阿寒国際ツルセンター【グルス】==◎釧路市湿原展望台(空中遊覧)==厚岸味覚ターミナル【コンキリエ】(元祖バケツ牡蠣の昼食)==尾岱沼漁港 ==🚤【野付湾クルーズ】🚤== トドワラ桟橋・・・トドワラ散策・・・野付半島ネイチャーセンター ==(根室海峡と国後島を車窓から)== ◎標津サーモン科学館(本格的な鮭の水族館とチョウザメの飼育)
==※知床峠(雄大な羅臼岳望む風景を空中遊覧)== (17:30頃) ウトロ温泉
                ■宿泊:北こぶし知床ホテル&リゾート

2日目

 ツアー映像は、ホテルの出発からスタート、鶴の目線から釧路湿原をお楽しみいただく。(ツルの鳴き声)厚岸では元祖バケツ牡蠣とジャパニーズウイスキー「厚岸蒸溜所」の紹介映像、日本最大の砂嘴(さし)である野付半島では船の上からとオジロワシの目線から全長28㎞にわたる半島の映像を、標津サーモン科学館では鮭の遡上とチョウザメの映像をお届けします。知床峠では、夕陽が当たる羅臼岳の空中遊覧を。ウトロ温泉ではホテルの食事や露天風呂付客室の映像をお届けいたします。

【3日目】
ホテル・・・ウトロ漁港 == 🚢【知床クルーズ・ヒグマの聖地ルシャコース】🚢== ※オシンコシンの滝 == (オホーツク海の古い駅舎を車窓から)==
== ※流氷硝子館・網走番屋(海鮮炭火焼きの昼食)== ◎博物館網走監獄(学芸員により館内の案内)== ◎オホーツク流氷館(実際の流氷を展示) == 大空町・※メルヘンの丘(空中遊覧) === 女満別空港 ==🛫==各地

3日目

 ツアー映像は、ホテルの出発からスタート、クルーザーでヒグマの聖地ルシャコースの映像から、オホーツクの古い駅舎を訪ねた後は、今話題の流氷硝子の工房で店主のお話をお伺いいたします。網走監獄では過酷な労働や監獄の歴史について学芸員から説明をいただきます。オホーツク流氷館からは雄大な天都山と網走湖の空中遊覧、夕焼けのメルヘンの丘でも空中散歩をお楽しみいただきます。ツアーの最後は添乗員からの御礼でENDとなります。

【このツアーの旅行代金に含まれる地場産品】
①歯舞漁港から ボイル花咲ガニ急速冷凍 700-800g ×2杯
②根室海峡標津漁港から 活ホタテ貝 9-10枚 セット
③中標津町 橋場農場から 名産伯爵いも 10㎏ 
④厚岸漁港から 殻かき マルえもん牡蠣 14-15個
※送料込み

特産品


以上の4品が1週間ごとにご自宅に届く、映像と合わせての旅行代金は1万5千円でどうだろう。バーチャルな映像コンテンツだけでは参加するユーザーはいないが、普段食することが出来ない希少な地場産品が届くとなれば参加いただけるユーザーもいるのではないか。しかも市場はボーダレスである。コンテンツを撮り貯めることにより様々な季節の様々なコースの造成が可能となる。課題としては映像のクオリティーそして出演するスタッフの育成か。

最後に

 今回のリスクを踏まえて、旅行業・観光業の未来を考えた時に経営の多角化戦略についての議論を慎重に行うべきである。PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)の手法に照らし合わせ、ポートフォリオに加える事業を選択する。本論における関連する事業として映像制作事業、ドローン事業、ネット販売事業などが挙げられるが、金のなる木(Cashcow)、花形(Star)になる可能性がある事業ではないだろうか。映像制作事業のクオリティーが高くなり撮影する対象が増えることで番組制作の依頼が届くようになると面白い。もちろん、ウィズコロナまたは根絶となり安心な暮らしが戻った際には、旅行会社として映像で紹介した実際のツアーを全国の中小旅行会社にOEMユニット商品として卸すことも可能である。
 世界は10年分の変革を1年で行う挑戦の時だと言われている。今何を考えられるか、考えるか、そこに全神経を集中させなければならない。
                                以上


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