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第1幕【第1〜12話】 解説

リーダーにはファシリテーター(促進者)としての姿勢が求められます。ファシリテーターとは、「プロセスに働きかける(介入する)ことを通して、グループの目標をメンバー(成員)の相互作用によ り共有し、その目標を達成することとメンバー間の人間関係づくり(信頼や一体感)を促進する(ファシリテート:facilitate)働きをする人」*1のことです。

ファシリテーション(facilitation)と は「促進すること」とか、「容易にすること」という意味です。組織・チームの目標達成(タスク) の支援と、人間関係づくり(メインテナンス)の両方の支援を行います。目標達成(タスク)の支 援と、人間関係づくり(メインテナンス)は、組織・チームの車の両輪です。リーダーがファシリ テーターとして両方の支援をバランスよく行うことで、パフォーマンスは向上し、組織・チームという車は勢いよく前に進みます。*2

栗田は職員のヒアリングをしています。園長と主任の話を聞き、そのニーズに応えて研修を実施することもできますが、わざわざ時間を使ってヒアリングをしているのはなぜでしょうか。

それは、潜在的なニーズの発掘を行っているということです。つまり、園長や主任が捉えているのは、園の課題を一側面から捉えたものでしかないのです。それは、顕在的なニーズと言って良いでしょう。

職員にヒアリングを行うことで、現状の園における多様な課題が見えてきます。子ども理解も多面的な理解が求められますが、園の現状を把握するためにも、職員から多面的な理解を引き出していくことが重要です。そのために栗田はヒアリングを行っています。


また、ヒアリングで見えてくるのは、課題だけではなく、良さでもあります。現状は課題ばかりだとしても、それをそのまま伝えることは、園長と主任の「園を変えたい」という意欲を削ぐことになりかねません。そのため、良い点もしっかりとフィードバックしているのです。


リーダーやファシリテーターは、自分の言動が、組織やチーム、個人にどのような影響を与えるかを自覚しなければなりません。栗田はファシリテーターとして、自分の言動が園長や主任、職員にどのような影響を与えるのかを考えながら動いています。

自分には職員に対して権威はないと考えていても、職員にとっては権威を感じる存在であることを自覚する必要があります。保育者が子どもと身体を使って遊ぶときに、力をセーブすることと同じです。力をセーブしないと子どもは傷ついてしまいます。


さて、物語の主人公である順子は、優しさと厳しさを兼ね備えた人物です。自分に厳しい保育者は、子どもたちのために、専門性向上や保育の質向上に必死に取り組みます。しかし、自分に厳しい人は、他人にも厳しく接してしまうことがあります。すると、子どもには丁寧に優しさを持って接することができても、同僚や後輩に対しては批判的なまなざしを向けてしまいます。誰かを悪者にするのではなく、組織・チームとして取り組めることはないか、そのような考え方をすることが大切です。


第1幕の最後に、順子は保育とリーダーシップには共通点があることに気づいています。変化や成長には、気づきが必要です。ファシリテーションを体感することにより、順子は体験から気づきを得て、少しずつリーダーとして成長していくことになります。

そして、職員観が変わりつつあります。職員観とは、「職員とはどのような存在なのか」という捉え方です。

たとえば、保育者の保育は、その子ども観によって変化します。「子どもは力強く、能動的な存在であり、自ら環境(ヒト・モノ・コト)に関わり、学んだり気づいたり意味を見出したりすることができる」という有能な子ども観を持っていると、保育者は子どもの主体性を尊重した関わりをするでしょう。ところが、「子どもは無力で、受身的な存在であり、自ら学んだり知識を吸収することはない」という無能な乳幼児観を持っていると、保育者は一方的・強制的な関わりが多くなるかもしれません。


さくら保育園では参加・対話型の研修や会議はほとんど行われていませんでした。環境を変えると、そこで見られる子どもの姿が変わります。同様に、研修や会議のやり方を変えると、違った職員の姿が見られます。

順子は職員のいち側面しか見ていなかったことに気づいています。そして、職員観が変わることで、今後の職員に対するリーダーとしてのアプローチも変化する可能性があるのです。


*1津村俊充著「改訂新版 プロセス・エデュケーション――学びを支援するファシリテーションの理論と実際」金子書房,65頁,2019年より)

*2鈴木健史 編著「対話が生まれる・同僚性が高まる 保育のファシリテーション ―園内研修・クラス会議・OJT 22の好事例集」中央法規出版,2023年より)

(第1幕終 第2幕へつづく)
「ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦」一覧はこちら
https://note.com/hoikufa/m/mdab778217cb1

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