【第8話】はじめての参加・対話型園内研修③
「では今日のメインのワークに入っていきましょう。すみませんが、もう一度みなさん立ってください」
職員全員が立ち上がった。さっきよりも心なしか動きがスムーズになっている。
栗田は、「前ならえ」のような格好をして言った。
「それでは、保育経験年数5年未満の方は、こちらに一列に並んでください。そして、5年以上の方は、こちらです」
職員は指示された通り、二列になった。
「では、経験年数5年未満の方と、5年以上の方で、二人一組をつくってください。できれば、同じクラスの担当をしているなど、いつも話す機会の多い人は避けてください。それではどうぞ」
職員は少し戸惑いつつも新たなペアをつくる。
栗田は、職員一人ひとりに「インタビューシート」と書かれたA4サイズの紙を配布した。そこには、次のような質問が並んでいた。
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インタビューシート
これからインタビューを行います。少し気恥ずかしい気持ちが起こるかもしれませんが、その気持を脇において、率直にお答えください。
まず、あなたが書いた①目指したい子どもの姿、②目指したい大人集団の姿を教えてください。(それぞれQ1,Q3の「 」に書き込んでください。)
Q1 「目指したい子どもの姿」は、なぜ「 」にしたのですか?これまでのあなたの保育経験(あるいは子どもと関わった経験)のなかで、子どもたちが「 」であった場面(エピソード)があれば一つ思い浮かべてお話ください。
Q2その時あなたは、保育者としてどのように子どもたちに関わっていましたか。あなたが保育において大切にしている価値観や信念、こだわりは何ですか。
Q3 「目指したい職員集団のあり方」は、なぜ「 」にしたのですか?また、そのような理想的な職員集団になることができたら、どんな良いことがありますか?(子どもには?職員には?)
(「マネジメント (MINERVA保育士等キャリアアップ研修テキスト 7」近藤幹生 ・今井和子(監修) 鈴木健史 (編著)より一部改変)
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「これから、ペアになってお互いにインタビューを行います。インタビューといっても、今お渡ししたシートにそって質問をしていただければ大丈夫です。相手から聴いた話は、ワークシートにメモをしてください。後で4人グループになり、インタビューした内容を簡単に共有します。ただし、ずっと下ばかり見ていることのないように、大事だな、ここがポイントだなと感じたキーワードのみメモをするようにしましょう。時間は今から30分とります。インタビューをするときは、このホールの中でという制限はありますが、できるだけ二人っきりになれる空間に移動してください」
「二人っきり」という言葉を聞いて、職員から少し笑いが起こった。
「ひとり15分ほどの時間になります。質問は二つしかありませんので、じっくり相手のストーリーや思いを聴くようにしてください。進め方について、何か質問はありますか?・・・大丈夫ですか?それでは始めましょう」
職員はペアになり、ホールの隅々に広がっていった。保育者は様々な経験をしている。そして、保育や子どもへの思いを持って仕事をしている。しかし、それらは保育者個人の心の内に秘められていて、あらためて他者に語る機会はない。そこで、相互にインタビューという形式を取ることで、自然と引き出されるように工夫している。
相手への理解は、相手への見方を変え、関係性が変化していくきっかけとなる。また、インタビューされるということは、形式上であっても、自分の話に興味を持ってくれているという感覚を抱く。研修であっても、自分の話を聴いてもらう心地よさを味わうという体験は、日常における互いに傾聴する姿勢へとつながる可能性がある。
ホールの後ろで職員の様子を見ていた、油井園長と順子は驚きを隠せなかった。職員一人一人が、こんなにも自分の考えや保育への思いなどを持っているとは想像もしていなかった。
「ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦」一覧はこちら
https://note.com/hoikufa/m/mdab778217cb1
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