ウクライナ戦争の台湾有事への影響


ウクライナ戦争の日本への意味

台湾有事の予行演習

ウクライナの方には申し訳ないが、日本人(おそらく台湾人や中国人もそうだろう)の多くは、ウクライナ戦争を台湾有事の前哨戦として見ている。日本を、ウクライナの向こう側で昔からロシアに虐められてきたポーランドやバルト三国と重ねる日本人も多いだろう。

もちろん、客観的に異なる部分も大きい。ポーランドやバルト三国はNATOに加盟しており、外部から見るとロシアが本格的に攻めることは考えにくい。一方、台湾有事となれば、在日米軍がタダで済む保証はないし、台湾を海上封鎖しようとすれば、必然的に沖縄にも害が及ぶ。そして、どうせアメリカが参戦する可能性が高いのだから、中国が日本に配慮する可能性も低いだろう。

別の点でいえば、アメリカ自体が参戦する可能性が極めて高いこと、つまり核戦争になる可能性があることも大きく異なる。また、ウクライナ戦争のような陸上戦にはあまりならず、空軍・海軍が中心の戦闘になるだろう。



直接的な影響

もちろん、台湾有事のシミュレーションというだけではなく、直接的な影響も考えられる。冒頭に鶴岡路人の分析を紹介しておいたが、それ以外で自分が考えている論点を羅列しておきたい。

以下では台湾有事のリスクが高まるのが10年ほど後であり、その頃にはウクライナ戦争はそれなりに終息していると仮定している。前者について後述する。


部分的軍事経済

「軍事経済」というのは大袈裟な言い方だが、ウクライナ戦争で所謂「西側」の軍事支出は増えた。NATOの欧州国は積年のアメリカの要望であるGDP2%を達成しそうだし、日本もそれに倣った*。

*)ちなみに、NATOの欧州各国のGDP2%には、対ロシアを基準とした大雑把な根拠があるが、日本には2%という数字の根拠は全くない。多すぎるかもしれないし、(こちらがありそうだが)少なすぎるかもしれない。

欧州各国の軍事支出、軍事準備が増えれば、台湾有事の際に分けてもらえるモノが増える。現在のウクライナ戦争のようにある程度の期間戦争が続いた場合、弾薬・ミサイルや戦車・戦闘射、砲の補給が重要になってくることが再確認できた。欧州各国がこれらを蓄えこんでくれれば、長期戦になった場合の台湾・アメリカ・日本への助けになるだろう*。

*)また、日本もNATOとの関係性を高め、装備をNATOと融通しやすいものにしようとしている点も重要。

国・政府が軍事物資を蓄えこんでいるということは、それを供給する軍事産業が大きくなっていることを意味する。ウクライナ戦争で特に西側の軍事産業は活気づいており、この効果が続いている間に台湾有事となれば、やはり台米日への助けになるだろう。


技術革新のスピードアップ:AIの時代とアメリカの優位性

また、これは後述する台湾有事のタイミングにもよるが、次の戦争ではAIが活躍する可能性が高い。今回はドローンが本格的な戦争に大きな影響を与えることを示したが、台湾有事は、台米中がその他にも最先端の軍備を使うことを考えると、AIが結果を決めることになりかねない。

近年の米軍の軍事的優位は、やはりRMA後に湾岸戦争・アフガニスタン戦争・イラク戦争という実戦を戦ってきた経験による部分が大きい。ところが、AIの登場は、その優位性を大きく失わせてしまう可能性もある。



中国の事情:習近平の年齢と軍備拡張

これは高橋杉雄さんが繰り返し言う事だが、戦争には相手がいる。常にそのことを考えなければならない。

上記のような、ウクライナ戦争が将来の台湾有事に対する影響が比較的ポジティブなものになるという予想は、台湾有事がそこそこ先になるということが前提になっている。


中国はなぜ今、台湾に侵攻しないのか?

逆に言えば、中国からすれば今、台湾侵攻するに大きなチャンスではある。米軍はウクライナに手を取られているし、日本の準備は進んでいない。ロシアからはエネルギーの輸入はできる。

もちろん、それには色々理由があるのだろう。大きいのは、現状の海軍力ではシーレーンを確保できないということだろう。エネルギーはロシアから買えるとしても、その他の物資の海上輸入は抑えられる可能性が高い。

また、そもそも、まだ米軍と闘って勝てないということもあるだろう。

さらに、戦略核兵器の準備がまだだということもある。


それでは、いつ攻めてくるのか?

中国の戦略核兵器がアメリカ並みになるのは2035年ごろだと予想されている

その他の軍備の状況の予想は難しい。特に台湾侵攻となると揚陸艦を大量に準備しなければならず、現状ではまだ不足していると見られている。ただ、これから10年もあれば、それなりの数が揃うだろう。その他の空軍・海軍力についても同様だと思われる*

*)空母を2つ備えているが、AI時代の海戦で空母がどれだけ重要になるかは分からない。

今回のウクライナ戦争から学ぶべきことは、やはり独裁者の年齢という要素の重要性だろう。プーチンは69歳で本格的な戦争を始めた。習近平は既に70歳である。彼は中国共産党の通例を破って3期以上の長期政権を確立したが、それに相応しい結果が求められており、それは台湾併合ぐらいしか考えられない。

もちろん、中国には鄧小平みたいな化け物の話もある(笑)。80歳を過ぎても実質的な最高権力者としてとどまり、あの天安門事件を84歳で迎えている。ただ、最近の胡錦濤の老人化を見ると、やっぱり80まで力を維持することは難しそうに思える。

つまり、中国の客観的な軍事力が整うのは10年ほど先だが、独裁者の時間的制約は10年以内と考えた方がいいだろう。となると、ピンポイントで10年後あたりにリスクが極めて大きいことになる。


日本が考えるべきこと

このような現状分析から、日本が考えるべきことは何だろうか。


地道な外交努力

今回のウクライナ戦争から、安倍外交の「自由で開かれたインド太平洋」の重要性が再確認されている。特にイギリスはTPPにも加入して、東アジアにも存在感を示そうとしてる。

しかし、私はQUAD(日米豪印首脳会合)をあまり評価していない。というのは、今回のウクライナ戦争でも分かるように、インドがそう都合よくこちらの味方になってくれるとは思えないからだ。インドはインドとして(地域)大国としての自覚があり、今回のウクライナ戦争においてもロシアに対して中立的な立場をとっている。中国とは国境問題を抱えており、もう少し事情は複雑だが、「台湾有事で中国のシーレーンを止める」といった具体的な話になった際に、協力してくれる保証はない。インドには中国も経済協力を行っている。

むしろ、私はフィリピンやベトナムなど、中国と利害が一致しない中規模の国の経済援助が重要だと考えている。日本はフィリピンに対して南シナ海の警備の援助を行っているが、そもそもフィリピンが中国の経済援助攻勢に目がくらまない程度に経済成長していれば、勝手に中国に抵抗してくれる。

今後はこうした観点から東南・南アジアの大国(インド、インドネシア)以外の国との協力が重要になるだろう。

もう1つ考えないといけないのは韓国だ。韓国は近年、東欧諸国への軍備輸出をしたり、よく分からないが海軍を強化したりしている。今回のウクライナ戦争では、はっきりと西側についた。

しかし、台湾有事で韓国がこちら側について保証はない。中国が裏で北朝鮮を炊き付け、韓国が動けない事態も考えられる。

だが、韓国を逃がしてはいけない。従来の蝙蝠外交をやめさせ、しっかりと踏み絵を踏ませる必要がある(笑)。ユン・ソンニョル政権で日本との距離が近くなっているが、この機会にしっかりと抱き込んでおきたい(笑)。その意味で、最近のホワイト国への復帰は良い事だろう。もう、嫌韓で遊んでいる時代ではない。


半導体製造装置

地味な話だが、半導体製造装置の話をしたい。経済安全保障という名前で、近年中国への経済面での圧力が高まっていて、具体的には最先端の半導体輸出が絞られている。しかし、中国の経済力を考えれば、ある程度は半導体の生産能力を上げてくることは、10年後と考えれば十分ありえる。

しかし、半導体を作る機械まで中国が最先端に近い水準になるかどうかは、今後の日本を含めた西側の努力によるところが大きい。今回のウクライナ戦争のようにある程度戦闘に時間がかかり消耗戦になるのだとしたら、半導体製造装置を日本など西側が押さえておくことは極めて重要だ。


AI

これについては言うまでもないだろう。AIがどのような軍事的な影響を持つかはそれ自体かなり大きいトピックスなので、別の機会に考えてみたい。


日本の防空能力

今回のウクライナ戦争を見てみると、台湾有事で日本に求められる大きな役割は、広い意味での防空能力にあると考えられる。

具体的には不沈空母として米軍基地を守らないといけないし、そもそも日本自体がやられてしまったらその役割も果たせない。また、防空能力は日本の平和外交とも相性が良く、今後伸ばしてくことが期待される。

最近、日本も殺傷兵器の輸出規制緩和が議論されている。しかし、もし日本がパトリオットなどをふんだんに準備できる国であれば、ウクライナの大きな助けになったことは間違いない。繰り返しになるが、防空能力は平和外交とバッティングしない(ことになっている)。この分野で輸出を含めて日本が本格的に参入すれば、将来の台湾有事に大きな助けになるだろう。



結論

今回のウクライナ戦争を見ていると、将来の台湾有事で西側は助けてくれるかもしれないが、期待したペースではないと予想できる。その際に、日本自身が自分たちを守る能力を身に着けておくことは非常に重要になる。

その点で見ると、広い意味での防空能力の構築・蓄積は重要だと分かる。具体的な戦闘機(飛行機)は攻撃兵器なので輸入で頼らざるをえないかもしれないが、防空ミサイル・システムやAIの開発は自力でできる。

また、味方を増やすという意味でも、シーレーンを抑えるという意味でも、南・東南アジアに見方を増やしておくことも重要だろう。

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