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『宙わたる教室(伊与原新)』を読む 第70回青少年読書感想文全国コンクール課題図書&NHK「ドラマ10」

 暑さが和らぎ始めて、夏休みもようやく終盤。
全国読書感想文コンクールの課題図書から、もう1冊ご紹介したいと思います。

 タイトルは「宙(そら)わたる教室」。勉強が苦手だったり、将来の夢がまだ決まっていない人にオススメしたい1冊です。


「宙わたる教室」……名前がとても印象的で、宇宙と教室の結びつきが、素敵だなと思いました。表紙に描かれているのは、真っ暗な夜の学校と、赤い星。これは火星かな。お話の主人公である学生たちが、教室に火星を再現する実験をしているところがあるから。

 教室に火星を再現するなんて、僕にはちょっと想像がつきません。けれど、実際にやってしまった人たちが、この物語の主人公たちです。
 それも、年齢は違うけど、皆高校生で。

 まったく知識がないところから、未知の惑星の環境を再現しようって発想もすごいけど、その面白さに気づかせてくれる、そういう先生も出てきます。
名前は藤竹先生。
大学で研究を続けながら、定時制高校の教室で、生徒に向けて授業をしている先生でした。

 最初はみんな、先生の話なんて聞いてなかったりするけれど、先生はあきらめずに、何度も語りかけます。
 顔を上げて、自分が見ている景色を、一緒に見てみませんかって。遠くにある星に、手を伸ばすみたいに。

 すごく素敵な出会いがあったおかげで、生徒たちは、迷いなく火星に向かって手を伸ばしていきます。仲間とぶつかったり、うまくいかないこともあるけど、自分たちで解決する力をつけて……そのうちに、自分の生き方で間違っていたところに気づいたり、忘れていた夢を思い出したり。

 決して順風満帆ではないけど、目標に向かって頑張っているから、ずっとキラキラ輝いていて。
 甲子園や吹奏楽コンクールなんかの、学生時代にしか経験できないイベントだけじゃなくて、人生にはいつでも輝ける瞬間が来るんだなぁって思いました。


 あとがきを読んで知ったのですが、このお話は実話がベースになっています。物語の舞台は東京新宿だけど、実際は大阪府の定時制高校が、物語に出てくる重力可変装置の実験を成功させて、開発者がJAXAの実験に協力しています。
 限られた時間や資源の中で、精いっぱい勉強している定時制高校の学生さんたちにとって、すごく励みになるんじゃないかな。この本がこれからもっと多くの人の手に届いたら、夜の学校からアイディアがどんどん生まれるかもしれない。10年後、20年後、世界を変える研究者が生まれてくるかもしれない。
そう思うと、僕もなんだかうれしくなりました。


 そうそう、この物語の主人公の一人は、思うように字が読めず、勉強に挫折し続けてきた青年です。
 彼と同じような苦しみを持つ高校生を描いている『君と宇宙を歩くために』という漫画も、とてもオススメです。こちらは現役の高校生で、うまく社会になじめない2人が、宇宙を手探りするように生きていく姿が、不器用だけど、カッコいいんです。

心が温かくなる作品なので、興味があったら、ぜひ読んでみてください。

※掲載にあたり、文藝春秋社様に画像借用の許可をいただきました。ありがとうございました。

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