大手企業にいると気がつかない『イケてない経営』を蝕むPL病の話。
「 FINANCIAL THINKING -ファイナンス思考-」 著:朝倉祐介氏 が面白かったのでアウトプットも兼ねて少し紹介です。Amazonやリクルートなどのゲームチェンジャー企業を生み出すための経営の考え方についての話。
経営者や起業を志す人だけでなく、日頃メディアが出す「減収減益!」の発表に簡単に踊らされちゃう人こそ読むべし…
私はこれを読んで ガッツリ病に蝕まれてる!! と気づきました。
この記事を読むことで、ベンチャーキャピタリストや投資家にとっては当たり前だけど、企業で受け身で働いてると見落としがちな『ファイナンス思考=企業価値の視点』の大切さを知ることができます。
どういう評価軸で会社がお金を動かすのか、その時の経営者の考え方について触れているので会計学というよりは経営を知るための入門書として読むのが良さそうです。
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●PL脳とファイナンス思考**
まず、経営を評価する方法として一般的に3つの評価軸とツールがあります。
財務三表と呼ばれるやつです。
【評価軸】 【ツール】
事業の成果 = 損益計算書(PL)
持っている資源 = 貸借対照表(BL)
会社の価値 = ファイナンス(CS)
本書で扱うのがPLとファイナンスの2つです。
それぞれをベースにした経営の考え方をそれぞれ
”PL脳”と”ファイナンス思考”と名付けて話が進みます。
◆PL脳とは
短期における売上高や利益といった目先の数字の最大化を好む思考態度。
弊害として具体的には次のような見方や考え方が抜け落ちている。
・会社の価値を向上させるために、先行投資をするという視点
・自分の会社がどのような資産を持っているかという自覚
・その資産を有効活用して成果を得ようとする発想
いきなりめちゃめちゃ悪く言ってる!!!笑
※悪魔のように言われていますが、もちろんPLも重要な指標です。
著者も最後には結局PLとファイナンスの両軸が必要だといっています。
また、PL脳に陥った人間が口にするフレーズとして次のようなものがあるそうです。
「増収増益を果たすことが社長の使命だ」
「業績をよくするために売上を増やそう。でも利益は減らすな」
「黒字だから問題ない」
うん。会社で聞き覚えある。
そして相対するものとしてファイナンス思考を挙げ、以下のように述べています。
◆ファイナンス思考
長期的な目線で会社が将来に稼ぐ価値に注目して戦略を立てる思考態度。
キャッシュフローを重視。
本の中では以下の一連の活動として説明。
・事業に必要なお金を最適なバランスで調達し
・既存の事業、資産から最大限にお金を創出し、
・築いたお金(資産を含む)を新規投資や、株主へ最適配分し
・その経緯の合理性と意思をステークホルダーに説明する
世の社会人はこのファイナンス思考を持つべき!と言うのが著者が本を通じて伝えたかったことですね。
ふむふむなるほど。
『リスクを小さく小さく、見栄えの数字を作る思考』vs『企業の価値最大化を第一に、見栄えを捨てて経営する思考』ってことと解釈しました。
ん?後者の話なんて当たり前じゃない?
そんなのみんなわかってやってるよーーーと思った方は私と同じ感想。
でも多くの企業は色んな事情があってそれができないらしい。
●分かっていても気付いたらPL脳に侵されている大手企業たち
みんながファイナンス思考で振る舞えるかと言うとそうではないようです。
ベンチャーやスタートアップはビジネスを軌道に載せるために、自然とファイナンス思考を実践します。
確かに、そもそも創業期なんて赤字前提でやってますからね。
0から1を生み出し、そして1〜10にスケールさせるために積極投資して成長を狙ってます。
(ただし、VCからの資金調達時と上場時は同様にPL脳に陥るケースがあるとのこと)
一方で成熟した企業はどうかと言うと。
既に10ある場合はそれを維持することに躍起になる会社がほとんど。
リスクを取ってまで10から100にしようとする企業が非常に少ない。
なぜそうなるのかと言うと彼らはとにかく「世間に対して今期の業績を良く見せようと必死になるから」だそうです。
決算期になるとメディアがこぞって各社の業績を載せますよね。
「○○社 減収減益 〜億赤字!」など。
その年は先行投資を行なった結果、短期的に赤字に見えただけかも知れないのに、そう言った視点がすっかり抜け落ちてキラーワードだけ報道されてしまうのです。
会社で働く会社員や株主もそのキャッチーな見出しのイメージに引きずられて批判しちゃったりします。
そしてそのプレッシャーにあてられ続けると会社は以下のような行動に走ります。
◆PLの毀損を恐れ、業績が悪く見えないように取る行動
・計上時期を操作して売上を多く見せる
・マーケティングや研究開発費など削りやすい部分のコストカットに走る
・将来的にマーケットが無いにも関わらず黒字事業撤退の判断ができない
・のれんの発生で一時的にPLが悪くなるのでM&Aができない
・粉飾決算などの不正会計を行なってしまう。
これがPL病の症状と著者が言っているものです。
上記で示したようにPLは意図的に操作できてしまう弱点があります。
したがってキャッシュフロー(操作出来ない事実)を併用することで、冷静な状況判断をしよう!というのが重要なのですが、
短期の業績が注目される→PLの改善で必死になる→成長志向を忘れる→成長しないからジリ貧に→短期の業績が注目→PLの操作→・・・
といった負のループに陥ります。
このような世間のプレッシャーを跳ね除け、ループから脱し、長期的な視点で最善策をとれるファイナンス思考を持った企業がAmazonのようなゲームチェンジャーになれるというわけです。
◆ファイナンス思考
長期的な目線で会社が将来に稼ぐ価値に注目して戦略を立てる思考態度。
キャッシュフローを重視。
本の中では以下の一連の活動として説明。
・事業に必要なお金を最適なバランスで調達し
・既存の事業、資産から最大限にお金を創出し、
・築いたお金(資産を含む)を新規投資や、株主へ最適配分し
・その経緯の合理性と意思をステークホルダーに説明する
時には赤字を流しながらも、キャッシュを作って戦略的に投資に回して行く成長のための活動ですね。
個人的な印象として経営者に一番大事な能力は「その経緯の合理性と意思をステークホルダーに説明する」な気がしました。Amazonのジェフ・ベゾスはこれがうまかったのでしょう。
Amazonが具体的にどんな戦略を取ったかは本を手に取ってご覧ください。
この本の回し者ではありませんが。
●結論:言うは易し、行うは難し。だが会社員は全員知っておくべき考え方。
経営者でもないし関係ないな。と思った方もいるかも知れません。
ですが私はこのファイナンス思考を以下の理由から社会人必須の教養科目であると考えます。
『社会人は誰しも広義の経営者である』
第一に、あなたは将来会社を経営することになるかも知れない。
起業しようとしてる人は言わずもがな、企業にお勤めの人も対象です。
日本的人事制度の性質として、その企業に長く勤め上げてきた人がトップに立つことが多いですよね。
恐らくこれを読んでくれた人も同じようなレールにいるかと。
平社員→課長→部長→執行役員→取締役のようなキャリアです。
しかしながらこれが原因で日本の大手企業ではPL脳的な管理経営のみが100%正しいことのように行われることが多々あります。
なぜならば経営者自身が経営を行なったことがない、そのため、ファイナンス思考のような経営の手法を知らないという事態が当たり前のように起きているためです。
彼らは営業や、プロダクト開発、損益管理、業務管理等のキャリアを経てその道のプロかもしれません。
ですが経営のプロではないはずです。その年になって初めて経営を経験するのですから。それまでは部門損益見て売上ノルマ見て、みたいな世界で過ごしてきてる人が多いはず。
経営職というのは今までのキャリアとは全く別の職種であり、今までの仕事の延長にはないはずです。経営者にはそのための別のスキルが必要だと考えられます。
アメリカのような環境であれば、ある特定の会社で実績を挙げた経営者が他業界を渡り歩くことが常識になっているので、キャリアの中でスキルを身につけたり、経験する環境があるんですよね。
では私たちもそうすればいいじゃないか。と言う意見もありますが、一筋縄ではいかないでしょう。
このキャリアパスは日本に根付いた終身雇用と年功序列によって生まれた弊害です。
抜本的な解決のためには人事制度に手を入れて、人材の流動性を上げる→社会全体の新陳代謝を上げていくステップが必要というのが私の見解です。
しかし現状、制度に手を入れられるのはそのキャリアパスを歩んできた上の世代という状況…笑
どうしろっていうんだ〜〜〜〜。
なのでこの負のループから抜け出すためにも、多くの世代が早くから認識しておくべきだという考えです。できることなら経験も。
知らないものはどうしようもないけど、知っていれば選択肢として使えるので。それと世の中のPLに対する過剰反応が少しでも減るかもしれない。
(なんか偉そうになっちゃって不本意です)
第二に、個人は”自分株式会社の経営者である”と言える。
どこかで聞いたような話…
自分という一人の人間を会社に例えると
PL脳とは言わば給料(時間給)を稼いで、食費など経費を支払い、収支上はプラスで生活できている状態。
ファイナンス思考は将来的な価値の向上のためにキャッシュを投資(自己のスキルアップや資産運用含む)する状態と考えられますよね。
日本経済をマクロ的に見ると高齢者比率の増加で固定費(社会保障費とか)は増える一方、生産年齢人口減で売上もマーケットも縮小ときたもんだから今、現在は生活が安定(PL黒字)に見えていても数年後は某ダ○○のように経営破綻する可能性が…
このように、テクニカルな部分を知るというよりは、思考やスタンスを学ぶために有効な一冊でした。金融・会計に慣れてる人は物足りないかもしれませんね。どうなんでしょう。
本の中ではAmazonが使ったCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)の最適化や、リクルートが行なったユニット経営のテクニックも紹介されているのでもう少し踏み込んだ内容に興味がある人はぜひ。
以上です。駄文で恐縮です。
お読みいただきありがとうございました。
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