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 過去の歴史について、事実を否認したり、自分のイデオロギーに都合の良い解釈を加えたりして歴史に対する理解を歪めること。

近代史論における「歴史修正主義」

 従来は事実上「第2次世界大戦における枢軸国側の戦争犯罪などを否認する右翼的主張」を非難する言葉にとして使われてきていた。
 典型的には「ナチスのユダヤ人虐殺は無かった」とか「南京大虐殺事件はなかった」という類の主張が歴史修正主義とされる。完全になかったという主張のほかに「犠牲者数は巷間信じられているより遥かに少なかった」「計画的に行われたものではなかった」「当時の状況では正当なものであった」「やむを得ない事情があった」等の擁護論も含む。
 平たくいえば、他者の主張を歴史修正主義と呼ぶことは「お前はネオナチだ」と罵っているのと等しい

 この文脈での「歴史修正主義」が、表現の自由にまつわる議論に登場するケースは

1.歴史修正主義(とみなされた)者に「対する」クレームや法規制
2.歴史修正主義者に「よる」クレームや訴訟攻勢

 の双方がある。
 前者の例として「マルコポーロ事件」がある。1995年、株式会社文藝春秋の雑誌『マルコポーロ』がホロコースト否定論を掲載したことに対し、アメリカのユダヤ人団体であるサイモン・ヴィーゼンタールセンターが抗議し、同誌は廃刊に追い込まれた。
 一方、後者の例では2004年、本宮ひろ志の歴史漫画『国が燃える』が南京大虐殺を描いたことで、右翼団体等から抗議を受け、打ち切りとなった。
 また2021年には駿台予備校の近代史についての記載に対し、右派系の国会議員・山田宏などがクレームをつけ修正をさせた。翌2022年2月、ポプラ社の【総合百科事典ポプラディア】の「従軍慰安婦」関連の記載に対し、右派系国会議員のらが問題視しツイッター上で「対応」すると発表したが、こちらは批判を受けて事実上断念した。

 海外で著名な例として「アーヴィングVSリップシュタット裁判」がある。これはナチスのホロコースト否定論者アーヴィングを批判した歴史学者リップシュタットが、アーヴィングから名誉棄損訴訟をされた事件で、最終的にはリップシュタット側が勝訴した、なお映画『否定と肯定』は本裁判を元にしている。
 
 つまり左派・右派ともにそれぞれ自分に都合の悪い歴史解釈に基づいた主張やフィクションを攻撃しているのだが、冒頭に述べた通り、歴史修正主義という言葉そのものは「第2次大戦の枢軸側擁護」に近い意味で使われてきており、右派が左派的な主張を攻撃する際には「歴史の捏造」などのワードが使われる傾向にある。

 また必ずしも、相手を「歴史修正主義」だと非難している側(左派)が学術的に支持を受けている主張や十分な根拠のある主張をしており、言われる側がトンデモ歴史観というわけではない。むしろ穏健な主流説を支持している人に対し、極端な左派が「歴史修正主義者」と罵る場合も往々にしてある。

 好例が呉座勇一氏で、日本中世史を専門とする歴史研究者の呉座勇一氏は、ツイッターで女性研究者の北村紗枝氏を批判したことに対し、2021年から「差別者・歴史修正主義者」のレッテルを貼られた。

 このような、マジョリティからマイノリティへの攻撃のハードルを下げるコミュニケーション様式は、性差別のみならず、在日コリアンへの差別的言動やそれと関連した日本軍「慰安婦」問題をめぐる歴史修正主義言説、あるいは最近ではトランスジェンダーの人びとへの差別的言動などにおいても同様によく見られるものです。呉座氏自身が、専門家として公的には歴史修正主義を批判しつつ、非公開アカウントにおいてはそれに同調するかのような振る舞いをしていたことからも、そうしたコミュニケーション様式の影響力の強さを想像することができるでしょう。

オープンレター 女性差別的な文化を脱するために(アーカイブ

 実際には、呉座氏は歴史修正主義を批判する本である『教養としての歴史問題』(2020、東洋経済新報社)の著書であり、百田尚樹『日本国紀』の代表的批判者であるなど、いわゆる歴史修正主義者とはかけ離れた人物である。またそもそも歴史修正主義とされたツイート内容も、極端に左派的ではなかったというだけの中間的な立場のものであった。
 この名誉毀損は民事訴訟に発展しているが、呉座氏を「歴史修正主義」とした側は「『歴史に関する定説や通説を再検討し、新たな解釈を示すこと』として中立的に使用する場合もある」として、呉座氏の評価を下げるものではないと主張している。

 いくら裁判の為の方便といっても、この主張は「歴史修正主義」という語の実際の用法からかけ離れている。「歴史修正主義」を冠した書籍名を例示するだけで一目瞭然であろう。

・『歴史修正主義 ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで
・『歴史修正主義とサブカルチャー 90年代保守言論のメディア文化
・『歪む社会 歴史修正主義の台頭と虚妄の愛国に抗う
・『歴史の真実と向き合おう 歴史修正主義への反論

 さらに各書の紹介文を見れば、この言葉がどういった勢力と結び付けられている使われるものかははっきりしている。

ナチによるユダヤ人虐殺といった史実について、意図的に歴史を書き替える歴史修正主義。フランスでは反ユダヤ主義者の表現、ドイツではナチ擁護として広まる。1980年代以降は、ホロコースト否定論が世界各地で噴出。独仏では法規制、英米ではアーヴィング裁判を始め司法で争われ、近年は共産主義の評価をめぐり東欧で拡大する。本書は、100年以上に及ぶ欧米の歴史修正主義の実態を追い、歴史とは何かを問う。

『歴史修正主義 ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』Amazon購入ページ

侵略戦争の反省を『自虐史観』と決めつけ、戦前への回帰をとなえる日本会議や新しい歴史教科書をつくる会。歴史哲学、天皇制、戦争責任、社会科教科書問題の4つの視点から歴史修正主義に最も深く切り込んだ待望の一冊。

『歴史の真実と向き合おう 歴史修正主義への反論』Amazon購入ページ

 このように見てもわかる通り「歴史修正主義」とは冒頭で述べたように、相手をネオナチ呼ばわりするに等しい罵声なのである。ネット上でも、なんと不誠実な弁解であろうかと批判の声が上がっている。

 つまり呉座氏を糾弾した左派側は、歴史修正主義という言葉の使われ方について、まさに歴史修正主義に走ったのである。

フェミニズム等による「歴史修正主義」

 以上みてきたような、主に近代戦史にまつわる使われ方のほか、フェミニストをはじめとする表現規制派が、過去のバッシングをなかったことにする行為を「歴史修正主義」と呼ぶ場合がある。

 フェミニストはクレーム攻勢が失敗すると、SNS上の発言を自ら削除したり、まとめサイト等への削除依頼などをして、「自分達は○○を責めていない!」「フェミニストによるものではない!一般人から受けた正当な批判!」などと、過去の事実を隠蔽する傾向があるのである。
 【親子正麺】【娘の友達】【#ラブタイツ】、果ては【鬼滅の刃】に至るまで、こうした歴史修正主義は繰り返されてきた。

 特に最近では、自分達の暴言の事実を伏せた「経緯まとめ」を積極的に作成して歴史修正をもくろむ例が増えている。
 以下は【サイゼで喜ぶ彼女】炎上事件、【名探偵コナン 理想の花嫁~My ideal bride~】事件、【『月曜日のたわわ』日本経済新聞全面広告】を擁護したHEART CLOSETの女性社長がフェミニストに誹謗中傷を受けた事件について、フェミニストが作成した歴史修正主義的まとめである。

 漫画や画像にすることで、事実を知らない一般人に拡散しようとするたくらみがまた卑劣である。
 いわゆるアンチフェミや【表現の自由戦士】と呼ばれる人々は、こうした動きを強く批判しており、すでにフェミニズムのクレームが始まるとただちにWeb魚拓サービスやスクリーンショットを活用した証拠保全が迅速に行われ、真実を記録したまとめも活発に作られる状況になってきている。

参考リンク・資料:

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