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からっと晴れた青空と、頬をさす冷たい空気と。トリノの思い出。

トリノ。

その響きを耳にするだけで、綴りを目にするだけで、からっと晴れた青空と頬をさす冷たい空気、会場内の熱狂、美味しいごはん・・・いろいろなことがばーっとよみがえります。

私がトリノに行ったのは、2006年2月中旬。トリノオリンピックを観戦するのが目的でした。私にとって初めてのオリンピックが、トリノです。

友人と2人、男女シングルのショートとフリーという4種類のチケットを持って(ほかのチケットは、取れなかった)、トリノに到着したのは、結構な夜。多分23時とかでした。

あらかじめ送迎を頼んでいたので、ドライバーさん(日本人でした)に今でいう民泊的な場所に連れて行ってもらったのですが、ものすごく入り組んだ住宅地で、なかなか家が見当たらない。当時は海外で携帯電話を使うなんて本当に稀なことだったので、あっちかなこっちかな、といろいろ回ってくれるドライバーさんにおまかせっきり。しばらくするとある車とすれ違ったのですが、それが、その民泊のご家庭の奥様で、「なかなか来ないから心配して見に来たのよー」とこれまた大変にいい人で・・・という素晴らしい人たちとの出会いで、トリノオリンピックの10日ほどがスタートしました。

民泊とはいっても、そのおうちはものすごーーーくゴージャスで、私たちの泊まる離れというか下の階も、普通にとっても広くて快適。翌朝、本宅(?)の方のダイニングで用意してくれていた朝食に出向くと、ものすごい広くて素敵ででも温かみのある家で、衝撃を受けました。そういえば、ご主人が少し前までACミランの主治医をしていた、と言っていたような記憶が。

基本的には、午前中にバスで市街地まで行き、そこでお祭りムードのオリンピックを味わい、ついでにお昼ごはんも堪能して、お弁当(パンとか)を持って、パラベーラという名前の会場まで、再びバスに乗って向かいました。

会場には、今ほどの日本人はいなかったけれど、となりの席の、ルーマニア人で、今フランスかどこかに住んでいて、でもステファンを応援している、みたいな人と話したりして、ああ、ヨーロッパって1国1国が近いのね、と体感したり。あれから14年近くたったいまはもう、そんなのみんな常識、って感じでしょうか。フィギュアスケート的にいうと、「ヨーロッパ選手権は国体の、ちょっと大きいバージョン」(歴史とか権威とかの話ではなく、距離感的な話です)、っていうのを、トリノオリンピックでも、ちょっと感じました。

男子フリーの終わった後の会場外では、ステファンの銀メダルに沸きに沸いている、ステファンの地元から来たカウベル隊たちのカウベルの音と騒ぐ声が響いていました。うわーんという表情で喜びに泣いていた、表彰式でのステファンのことも、夜の暗いパラベーラの様子とともに、時々思い出します。

フィギュアスケートでは試合が終わると23時くらいになっちゃていたのですが、タクシーが全然つかまらず(横入りされちゃう)、最後にアントン・シハルリドゼ(2002年のペアの金メダリストです)と私たちだけになったとき、来たタクシーを見たアントンが私たちのほうを見て、「俺が乗るからな!」と言ってさくさく乗って去っていったことは、ある意味いい思い出として忘れられません。

そのあと、アイスダンスの期間はトリノで宿が取れなくて、数日間ローマに移動しました。その移動のときだったと思うのですが、人生で初めて、スリにあいました(被害なし)。それまでにもヨーロッパには何度も行っていました。海外を歩くときには、ちんたらせず、バッグはがっちりつかんで持ち、あまりにこにこしない、ということを心がけてきたのですが、この時は、違った。

10日分の荷物の入ったおおきなスーツケースを持って、長距離電車に乗ろうとしていたんです。日本の電車と違って、ヨーロッパの長距離電車って、ノリ口がかなり高く、ちいさなステップを3段くらい上らねばなりません。しかも狭い。

巨大なスーツケースを持ち上げるのは、ほぼ無理、って状況でした。でもなんとかしなきゃとトライしていると、10歳くらいの女の子たちが「手伝うよ」とにこにこ力を貸してくれました。ああ、ありがたい、と思ってスーツケースを持ち上げると、電車が出発の音。女の子たちは、にこやかに手を振って去っていきました。すると、先に乗っていた友人が「バッグ、開いてるよ!」と。なんと、それまで厳重に守ってきた斜め掛けバッグのジッパーが半分位あけられています!

サーッと血の気が引いたように感じましたが、すぐに中身をチェックすると、何も取られていません。パスポートや航空券(当時は必要でした)、五輪チケットは、バッグのチャックで閉められたポケットのかなり奥に、わからないように入れてありました。そのチャックまでは開けられていません。お財布も、同じチャックの中に入れていたので、無傷。ああ、よかった。

今週、スケートを見にトリノに行っている方も多いと思います。スリに注意というツイートがたくさん回っています。大事なのは隙を見せないことと、万が一バッグをまさぐられても、バッグの中を貴重品を探すのが一苦労、という状態にしておくことが、本当に大事です。

海外で私は、基本的にお財布は、奥の奥にしまっておきます。ある程度の現金(その日に使いそうな額)をポケットに入れて、ポケットをお財布代わりに。クレジットカードも、お財布ではなくて、バッグの中のチャックで閉まる、比較的手の届きやすいポケットに入れています。基本、お財布は出さない。

それ以降もかなり各国を回りましたが、スリ被害(未遂だったけど)はこの1回限りです。

でも。スリはたしかにたくさんいるけれど、トリノの人たち、とても温かくて、いい人たちばかりだった印象です。オリンピックってことでお祭りモードだったのかもしれないけれど、本当に温かい方たちばかりでした。

もちろん隙を見せてはいけませんが、人とのコミュニケーションを、ぜひ楽しめるといいなあ、とたった1度きりのトリノで、すっかりファンになった私の思いです。あ、ジェラートとチョコレートもお忘れなく!



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