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光合成量を測定しながら最適なトマト栽培!?「常に現場を科学する」農業カンパニーを目指せ!!〜DX事例43_株式会社浅井農園〜

ITコンサル×パートナーCFOのタナショーです。

このnoteではDX事例やIT活用事例の紹介を通して、経営者の方がITを身近に感じたり面白いと思ってもらえることで、企業の成長に役立つ情報をお届けしていきます。

今回は久々の農業からのDX事例です。主にトマトの生産販売を行う三重県の農業法人である「株式会社浅井農園」の現場を科学するDXです。


光合成を測定して生産性を見える化!?浅井農園のDX事例

株式会社浅井農園が運営する「あさい農園」は、三重県に3つの農場を持つ会社です。創業は1907年と老舗の100年企業ですが、これまでは主に花や植木などの花木生産を営んでいました。現在の社長に代替わりしてからトマトなどの生産を開始しています。そんなあさい農園の「第二創業」は、ITを駆使した下記の取り組みを行っています。


①光合成量を測定して生産性を可視化
タナショーは知りませんでしたが、太陽の光が1%増えると植物の生育が進み売上が1%増えるという「光1%ルール」というものが農業界にあるそうです。
そのため、いかに効率よく光を照射できるかが重要になりますが、あさい農園は光合成量を測定することで光の最適な照射量を計測するという取り組みを取っています。

仕組みとしては、計測用の筒状の袋の中にトマトを入れ、その中で空気の循環を発生。入り口と出口で二酸化炭素(CO2)の濃度差分を測ることで、光合成量を予測するというものです。二酸化炭素の濃度が低下すればするほど、活発に光合成が行われたということですね。

このような光合成量の可視化は世界でもかなり先進的な取り組みだそうです。また、あさい農園のグループ会社である「うれし野アグリ株式会社」では、LED照明を使った農場もあります。ここでは全てのハウスにLED照明が設置されており、自然光とLED照明を組合せた「太陽光利用型植物工場」となります。ここでも光合成量やその他の植物生体情報をリアルタイムで計測しています。
自然光だけでは生産量にムラが出る自然光栽培の弱点をLED照明が補うことで、一定の生産量に調整可能とのことです。


②AIによる栽培・労働管理の最適化
農林水産省が2017年に行った委託プロジェクト「人工知能未来農業創造プロジェクト」の取り組みとなります。あさい農園はこのプロジェクトに参加し、AIによる生産管理システムの開発似取り組みました。
先程紹介した光合成量だけでなく、カメラやセンサなどから得られるトマトの「生体情報」、ハウス内の温度湿度や例年の収穫量などを分析して得られる「環境情報」、そして労働者の「労務管理情報」。この3つをAIが解析し、収量予測や作業の優先順位などに活用しながら生産性を向上させているとのことです。

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あさい農園HP「おいしさの秘密」より抜粋


③デンソーと共同出資。トマトの自動収穫作業ロボットの開発
自動車部品メーカーとしても知られる「株式会社デンソー」とタッグを組み、トマトの収穫作業ロボットの開発にも取り組んでいます。

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あさい農園HP「おいしさの秘密」より抜粋

収穫作業ロボットにはAIカメラが付属したアームが取り付けられており、赤く熟したトマトをAI認識することで完熟したトマトのみを収穫することができます。収穫用ケースも無人で搬送できるようなロボットを開発を進めており、完全に無人で収穫ができる体制を作れるとのことです。あさい農園は夜間時はロボットのみが収穫することで、2022年までに「24時間操業」を目指すとのことです。生産量を上げるだけでなく、少ない労働力で農場管理することができます。


DXと経営戦略の関連性について

あさい農園は非上場企業ですので、会社HPや記事の内容をもとにDXと経営戦略の関連性についてお伝えしていきます。

代表取締役である浅井雄一郎氏はR&D(研究開発職)出身であり、あさい農園を引き継いでからはITや研究開発を軸とした農業カンパニーを作ろうとしています。

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あさい農園HP「会社概要」より抜粋

浅井雄一郎氏は博士(学術)なこともあり、農業を効率的かつ省力的な生産プロセスにするための研究に熱心であり、コーポレートスローガンも「「常に現場を科学する」研究開発型の農業カンパニーをめざす。」とあります。

ITや研究だけではなく他企業とのコラボも熱心に行っています。
まず、辻製油株式会社・株式会社浅井農園・三井物産株式会社・イノチオアグリ株式会社の4社で設立した「うれし野アグリ株式会社」。自然光とLED照明の組合せで高い光量によるトマト栽培ハウスの建築および実験を行っています。

またDX事例でも紹介した株式会社デンソーと共同出資をして設立した「株式会社アグリッド」は、栽培・収穫をロボットが自動で行うことで大規模ハウスでの農業経営を実践しています。

あさい農園は「収益性」「自動化」「省力化」「働きやすさ」などを重視しながら、地元だけでなく世界の農業経営の発展への貢献を目指して活動を続けています。


まとめ

いかがでしたでしょうか?
ある記事で、代表取締役である浅井雄一郎氏は「私達の仕事(農業)はエネルギーの変換事業である」と語っていたことがあります。
一粒の種から、植物は水と二酸化炭素をエネルギーに変え、果実を実らせる。このエネルギー変換は太陽光やその土地の土壌情報、植物自身の生理情報がないと農業経営が成立しない。だから、地球のことや植物のことを研究開発していくことが大事だと説いていました。あさい農園はそれぞれの地域や特性に合わせた農産モデル・価値を生み出すことにも注力しており、農学士という意味を持つ「Agronomist(アグノロミスト)」育成を掲げ、海外からの採用も進めながら現場を科学するAgronomist社員を増やしているとのことです。

以前の記事(横田農場のDX)でもありましたが、農業のIT化であるスマート農業(スマートアグリ)の進歩はすごいですね。農業という、我々にとっても身近な業種なので、DX事例としても理解しやすいものだったのではないかと思います。
次回の記事もお楽しみにしていただければと思います。
タナショー


参考にさせていただいた情報
あさい農園HP
https://www.asainursery.com
うれし野アグリ株式会社HP
http://ureshinoagri.com
株式会社アグリッドHP
http://www.agrid.jp
INDUSTRY CO-CREATION「光合成を見える化!三重県の“農業ベンチャー”あさい農園の最先端ハウス栽培とは?【ICCビジネス・スタディツアー vol.6 あさい農園編】」
https://industry-co-creation.com/report/51778
INDUSTRY CO-CREATION「「あさい農園」は、研究開発型のものづくりで、農業の持続可能性を追求する(ICC KYOTO 2020)【文字起こし版】」
https://industry-co-creation.com/catapult/60529
日本経済新聞「デンソー、農業をカイゼン データ×ロボでトマト量産」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF20B3N0Q1A420C2000000/
PWC Japan「植物生体情報とAIによる太陽光植物工場における農産物生産の最適化」
https://www.pwc.com/jp/ja/press-room/outsourced-project171018.html



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