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体の性を自分で決める

 胸が膨らんでいても、子宮に続く穴があっても、毎月のように血を流しても。この体は「男の体」なのだ。

 常識で考えるなら女の体なのだろうけれど。体の性を決めるのは、意外とそんなに簡単じゃない。

 性器の形とか。

 顔の造りとか。

 背の高さとか。

 毛の生え方とか。

 筋肉や脂肪の付き方とか。

 そういうもので僕らは何となく人の性別を判定している。

 基準はあくまで平均に基づくもので、例外なんていくらでもある。

 胸がほとんど膨らまない女性もいれば、乳腺が発達する男性もいる。彼女の胸は「男の胸」か? 彼の胸は「女の胸」か?

 ごく普通の女性として生きてきたのに、調べてみたら卵巣の代わりに精巣があったという人もいる。その人の体の性とは何か?

 客観的な決め事を設けて男と女を分けることはできる。客観的、つまり、本人の意思とは関係なく、第三者が勝手に。

 科学の上ではそれでいい。でも生きていくには不都合だ。

 自分が女だと思っている人に「精巣があるからお前は男だ」と宣告するのは、あまりに残酷で理不尽ではないか。精巣のある女がいたっていいのではないか。

 声の高い男性にとって、自身の声は「女っぽい声」ではあっても「女の声」ではないはずだ。声で女性に間違われたとしても、彼の声は一風変わった「男の声」なのだ。

 だったら僕のこの体も、僕が自分を男だと思う限り、「男の体」と言えるはずだ。どこから見ても女の体であったとしても、僕の心の中でだけは、男の体と認識していていいはずだ。

 他人にもそう思ってほしいわけじゃない。この体と折り合って生き延びるための方便だ。この体を完全に捨てることは死ぬまでできないのだから。

 ホルモン治療や外科手術を避けるための逃げかもしれない。それならそれで構わない。負担が大きくリスクも高い選択をしなくて済むなら悪くはない。

 完璧は手に入らない。どこかで諦めて、満足して。自分が持てる精一杯の手札の中で一番幸せになれる組み合わせを見つけたい、だけ。

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