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議会選挙から透けて見えるスコットランドの「やさしさ」

5月6日はスコットランド議会選挙でした。注目はSNPが過半数を獲得するかでしたが、結果は過半数に1議席足りない64議席に終わりました。しかし同じく独立支持の緑の党が8議席と躍進し、独立支持派の議員は両党合計で72となり過半数を超えることになります。

SNPは公約に2023年までの独立を巡る住民投票を掲げ選挙戦を戦い、過半数には届かなかったものの圧倒的な第一党としての結果を残しました。結果を受けて党首のニコラ・スタージョンは住民投票開催へ向けて準備を行うと述べました。一方でイギリス政府のボリス・ジョンソン首相はすでに住民投票開催は許可しないと述べており、問題は最高裁に持ち込まれる可能性があります。

こうした選挙後の政治的展開が加速する一方で、ここ数日で気が付いた選挙に関連するいくつかのことについて書きたいと思います。

私は5月6日に初めてスコットランドでの選挙に投票しましたが、そのことをツイッターに投稿すると、友人や知人だけでなく見も知らない人たちから多くの「いいね」や温かい歓迎のコメントをいただき、少し驚きました。しかしこういう移民ウェルカムな暖かさはスコットランドだな、という感じがします。実はひとつだけ「日本人が何で投票しているんだ」みたいなコメントがありましたが、それはロンドン在住のイギリス人らしき人からでした。

スコットランドは伝統的に移民を歓迎する傾向がありますが、それについてはここで書いたので参照ください。

また選挙当日、SNPのニコラ・スタージョン首相が立候補しているグラスゴーの選挙区で、対立候補として立候補していた極右政党ブリテン・ファーストの議員がスタージョンと鉢合わせました。するとスタージョンは「あなたはファシストで人種差別主義者。あなたのような人間をグラスゴーは決して受け入れない」と一喝。これが大きなニュースになりました。これはさすがスタージョン首相と言わざるを得ません。

人種差別を巡る態度等についてはスコットランドとイングランドで統計的にはあまり差はないのですが、政治的リーダーの態度と発言が大違いで、スコットランドではスタージョンにみられるような断固たる姿勢が反差別の空気を醸成していると言っていいと思います。私のような外国人にはこれはとても重要です。

この二つの一見関係ないエピソードからは、スコットランド社会では移民に対する態度が比較的寛容で、また人種差別主義者には鋭い批判が向けられるという特徴が透けて見えるかと思います。もちろん移民を嫌う層がいないわけではないですし、人種差別が全くないわけではないのですが、社会的、政治的なコンセンサスが移民歓迎、差別反対であることは確かで、我々外国人の生活している環境にも好影響を与えていると言ってよいと思います。

選挙に話を戻すと、当選した129人の議員の中で実に58人、45%が女性であり、女性の比率が世界でも有数の議会になりました。また初の非白人女性議員(2人)と初の車椅子常用者が含まれるなど、スコットランド議会はより多様な構成になったわけです。

こうした中でいいなあと思うのは、これらの初選出の議員に対し党派を越えて祝福の声が寄せられていることです。下のツイートはスタージョン首相から初選出の車椅子常用者の議員に向けたエールですが、政治より大事なことがあるというメッセージを首相が自ら発するところに、スコットランドらしさを感じます。

議会が男女同数に近づき、民族的マイノリティや障碍者が議員になる。こうした変化は政治主導でも社会主導でもなく、有権者と政治的リーダーが、より多様性のある寛容で包括的な社会を作り上げるというビジョンと目標を共有し、それに向かって二人三脚でできることをやってきた結果だと言えると思います。

移民歓迎、反人種差別、男女同権、民族的マイノリティと障碍者への温かい目線。スコットランド社会の特徴と言ってよいでしょう。

実際には人種差別、男性優位、マイノリティと障碍者への差別は存在しますが、社会全体としてこれらはよくないので失くしていこうという姿勢を感じますし、政治家のリーダーシップが強く発揮されて、社会全体での認識に大きく影響を与えています。

議会選挙ではこうしたスコットランド社会独特の温かさ、やさしさが透けて見えたと言ってよいと思います。


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