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イノベーションには「境界で知の衝突(オン・ザ・ボーダー)」が必要不可欠

早稲田大学大学院経営管理研究科准教授の入山章栄氏はこう述べます。「イノベーションは、既存の知と別の既存の知の新しい組み合わせから生まれるーこれは『イノベーションの父』とも呼ばれた経済学者J・シュンペーターが約80年も前に提唱した有名な概念です。”知”は人の中にありますから、企業がイノベーションを生み出すためには、組織のメンバーができるだけ多様な知に出会えるような仕組みや工夫を取り入れていくことが不可欠です」

「知のぶつかり合い」がイノベーションを生み出す!先進企業が中途採用を増やすべき理由とは?

スタートアップは常に創業者である起業家が先陣を切る。

社会の常識や当たり前に対する「違和感」を胸に、未来はこうあるべきだと「妄想」し、それは自分が取り組まなければならないのだと「使命」を感じ、必ず実現するのだと「意志」を燃やし、目の前に向き合った顧客に幸せになってもらうのだと徹底的に「愛」し、どんな苦境にあっても諦めない「執念」を持って、立ち止まらず常に「行動」で走り続ける。

ある意味起業家がみんなが当たり前に信じ込んでいる常識という境界を越境(クロス・ザ・ボーダー)することで実現していく

一方、企業の新規事業はとはいえそれが「できない理由」と「すべきではない理由」がある。

「できない理由」は単純明快で、企業全体のパーパスが存在する以上、むやみやたらに越境することが許されるわけではないことだ。過去の歴史や叡智が積み重なり、構築された組織としての価値観が強固であり、それが行動パターンとして定着して強固な文化が築かれて、大きな売上をあげる既存事業が成熟している。そこから一定の制約が課されるのは当たり前のことだ。

一方「すべきではない理由」もそこにある。せっかく積み上げたアセットがあるにも関わらず、ただ一人で暴走して越境してもしょうがない。スタートアップをやりたいならスタートアップをやればいいのだ。大企業の中で必要なのはスタートアップではなく、新規事業だ。

とはいえ、そこから飛び出さなければ、自社を客観視して強みも弱みも分析することはできないし、自社が目指すべき未来を定義することもできない。どんなに優秀な人も、その優秀さは組織内でしか定義されるものではなく、そういう意味でいかなる人も「井の中の蛙」であることは疑いようのない事実だから。

つまりイノベーションに取り組むなら、新規事業を立ち上げるなら、まずは越境(クロス・ザ・ボーダー)することには一定程度の意味がある。そしてその後に「境界(オン・ザ・ボーダー)」に戻ってくる意識が大事なのだ。

大企業の社内でのイノベーションは「深さ」を知る既存事業の現場と、「広さ」を知る井戸の外の世界の「境界(オン・ザ・ボーダー)」で起こる。このエッジでこそ「妄想した未来」と「過去からの蓄積」の化学反応の「閃き」を感じることができ、それを軸に推進するのが新規事業であり、大企業が取り組むべきイノベーションなのだ。

越境することは大事だが、単に外に情報や人脈を広げるだけの意識高い系では何も起こらない。かといって社内で大暴れしたり、愚痴や不平不満を漏らすだけでは何も起こらないし、ハレーションを起こして居場所がなくなるだけだ。

境界に立ち、常に社内外満遍なくコミュニケーションを深め、単なる情報だけでなく価値観を互いに交換していく。イノベーションには、新規事業には「境界で知の衝突」を起こすことが重要だ。

そして、内部の人間が境界に立つために、多様な価値観をぶつからせる経験を積むことが大事になってくる。その経験はコミュニケーションの質と量を増やすことでしか積むことはできない。質も量も高めるためにこそ中途採用をすべきなのだ。組織に異分子が入り込めば自ずとコミュニケーション量は増える。そこで価値観をぶつかり合わせれば質は高まる

変化の激しい時代だ。しかも一度変化の予兆が起きれば急速なスピードで不可逆的に一気に置き換わる。その変化の波に乗り遅れないために、変化の予兆を捉えて波そのものを起こすために、多様な人材の確保は急務なのだ。

オムロン株式会社イノベーション推進本部インキュベーションセンタ長の竹林一氏がいう「コミュニケーションないところにモチベーションなく、モチベーションないところにイノベーションは生まれない」という考え方、クリエイティブな人が孤軍奮闘しても、イノベーションは生まれようがないのです。

今後、中小企業も含めてもっと多くの企業が、単なる人材不足の解決策として中途採用を実施するのではなく、長期的な夢を見据えて異業種から多様な人材を取り入れていかなければなりません。そうすることで、日本社会で多種多様な人材が行き交いあい、行く先々でイノベーションの種がまかれていくことでしょう。



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